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四十九話 それから……


 クーズリィが捕まったあと、クーズリィの母も拘束された。

 同じく薬物使用の痕跡があったと言われている。


 驚くことに、アトリエにこもりきりだったダーメンス家の当主も例の中毒性のある薬を所持しており――妻と息子が薬に手を出す切っ掛けを作ったのは、当主だったと分かった。


 彼は、家柄にこだわる妻を煩わしく思い、その思考をそっくりそのまま受け継いだような世俗的な息子にも愛着がわかず……結局、自分の創作を妨げるダーメンス家に連なる全てが壊れれば良いと思い、違法と知ってあの薬を与えたという。

 

 もちろん、ふたりには違法と告げず。


 クーズリィは自分で薬を都合するようになってから気付いたようだが、クーズリィの母は夫がくれた物を「自分の健康を気遣ってくれた栄養剤」だと信じていた。


 中毒性のある薬が原因で、ふたりの性格があのように極端なものになったのかもしれないが――アレがなければどうだったかなんてこと、今さら考えてもしかたがない。


 ダーメンス家は取り潰しになり、レティナは二度と彼らと会うこともないだろう。


 そして、レティナの母だが……今だ領地で外出を許されず反省中だ。

 長兄は、今帰ってくれば母は情に訴えて許しを乞おうとするかもしれないから、無理はしなくていいと言っていたが、レティナはやはり一度帰ることにした。


「そうか……寂しくなるな」

「いや、隊長、今生の別れじゃないんですから」

「当たり前だ、アレス。縁起でもない」


 ――リグハーツ隊に世話になった挨拶と、一度領地へ帰る旨を伝えていたレティナはいつも通りな彼らに笑ってしまう。


「レティナ嬢、気をつけて」

「はい、ルシード様」

「…………」

「……?」


 数秒、ルシードはじっとレティナを見つめてきた。

 首を傾げるものの、それから彼はなにを言うでもない。

 左右を見回し、ごほん、と咳払いする。


「あ~……オレたち、用事を思い出したなぁ」

「は? 別に用事なんて」


 ふいにアレスが声を上げると他の隊員が不可解な声音で反論した。


「バッッカ! 気をきかせるんだよ! 見りゃわかんだろ!」

「なにが?」

「隊長たちだよ! どうみても、デキてるだろ!」

「え、デキてんの?」

「は、いつだよ!? 隊長、どさくさに紛れて手ぇ出したんか……!」


 やいのやいのとルシードの背後が騒がしい。

 そして、ルシードの顔がすんと無表情になった。


(あ、これは……)


 レトとして彼のそばにいたため、次の行動が読めてしまいレティナは両耳を塞いだ。


「お前たち! 不躾な話題で騒ぐな!! ――特にジェス!」


 案の定、腹の底に響くような声が響き渡る。

 隊の全員が背筋をピンと伸ばす中、名指しされてしまったジェスはツカツカと近づいてくるルシードに対し、緊張に顔を強ばらせる。


「いいか、よく聞け」

「ひぃっ!」


 きっと、そんなつもりはないのだろうが、ジェスの肩を掴み低音で物を言うルシードは、どうみても凄んでいるようにしか見えない。

 一体なにを言われるのか、ジェス本人だけでなく他の隊員もドキドキハラハラで涙目だったが……。


「俺は、どさくさに紛れて手を出すなどと、軽率な真似はしていない。きちんと求婚して、承諾されているんだ。――言葉には気をつけろ」

「は、はいぃぃっ! 失礼しました、リグハーツ隊長! 相思相愛、了解しました!」


 いや、そういう問題ではない。

 そして、ジェスの返答もそうじゃない。


 だが、突っ込む人間は誰もいなかった。

 それどころか、皆揃って「よかったな~」と言いたげな、あたたかい眼差しをルシードに注いでいる。

 アレスに至ってはレティナと視線が合うとグッと親指を立ててきた。


 市井では「よくやった!」の合図だと知っているレティナは、気まずいのと恥ずかしいのでいっぱいになり「それでは失礼いたします!」と逃げ出した。


 ――レティナ、と自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、足は止まらなかった。 


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