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三十六話 リグハーツ隊長による某家の情報


 クーズリィ・ダーメンスは、薬の密輸に関する容疑者。


 川岸から移動しながら、ルシードが語るのは、今回の――リグハーツ隊が追っている事件の詳しい内容だった。


 ダーメンス家の現当主は芸術家肌で絵を描くこと以外は興味のない変わり者で、王都を離れた長閑な田舎にアトリエを建ててから、そこにこもりがち。

 ダーメンス家は、実質妻であるリザレットによって掌握されている。


 そのリザレットは、没落貴族の娘だった。

 手腕のないというか……世俗には一切関心がない息子を案じた先代夫妻が、金と引き換えに迎え入れた妻である。

 全てをお膳立てされ後を継いだ息子は、名ばかりの当主となった。

 その後、跡継ぎの男児が生まれると、義務は果たしたとばかりに再び絵描きへ没頭。


 リザレットはかわりに仕事をこなしても無関心を貫く夫のかわりに、息子を溺愛し育てた。

 その子が、クーズリィ・ダーメンス。


 彼は、父親と違い世俗にもきちんと関心を示した――だが、それは越えてはいけない線すらも易々と踏み越えるほどに、行き過ぎた関心だったのかもしれない。


 クーズリィが社交界に出るようになり、周りは父親に似ず社交をおざなりにしない「リザレットの子」を褒めた。その際には、当然父親とは真逆に育てた母親のリザレットも賞賛される。


 だが、一部では露骨な家柄自慢を疎んじられていた。

 特に、自分たちより家格の低い家も者には、居丈高に出ると。

 そんな声は、成功を妬んだ者の戯言と言うかのように、ダーメンス家は急に羽振りがよくなった。


 ――隣国で、代替わりがあったすぐ後だ。

 クーズリィ・ダーメンスは、隣国の者と頻繁に会う様が目撃されていた。

 そして、派手に金を使うのだ。酒場、賭場、娼館など様々な場所で。

 交流の幅は広がって、他国、自国問わず、色々な人に会うようになった。


 ダーメンス家の跡取り息子の華やかな交友関係と金遣いの荒さは、国を動かす者たちの耳にも届き、クーズリィは監視対象になり――その結果、彼は隣国より流れてきた薬の密輸に関与していることが分かった。


 そして、さらにクーズリィを追う過程でチャバル家の存在が浮上した。

 家格にこだわるダーメンス家の夫人が、わざわざ手元に呼び寄せて可愛がっているのが、よりにもよって格下の男爵家令嬢だと。


 チャバル家は茶畑を領地に持ち、そこで採れた茶葉は他国にも流通している。

 あの家を取り込み、茶葉の輸出を隠れみのにし、大規模な薬の密売を始めるつもりではと警戒していた。


 ――レティナは、遅かれ早かれ保護される存在だったのだという。

 初耳だとレティナが驚くと、ルシードは当然だという顔をする。


「冷静に考えれば、チャバル家は王家にも茶葉を献上している。大変な名誉であり誇りだ。以前にも言ったが、あの家が自らその栄誉を汚すはずがない。――だが、もしも娘が人質にとられたら?」

「!」


 レティナは、そこで初めて気が付いた。

 あの家で……ダーメンス家に身を置いていた際に感じていた、違和感の正体に。


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