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二十三話 残念なんて


 ルシードは、レティナをよく気にかけてくれる。

 だが、なにもそれは特別なことではないと、レティナはよく分かっている。

 彼は、部下全員を気にかけているからだ。


 そうすると、聞こえてくるのは「最近変わった」「視野が広くなった」「焦りがなくなって、落ち着きが出てきたな」といったルシードに対する好意的な声。


 リグハーツ隊の面々も、自分たちの隊長が褒められて嬉しそうだった。


 だが、一部では「あの四角四面でこうと決めたら梃子でも動かない石頭が、一体どういう心境の変化だ?」と、ルシードが変わった原因に注目が集まっていた。


 そして、好奇心の疼きにあらがえなかった者たちは、一番聞きやすそうな相手を捕まえて尋ねるのだ。


 ――そう、端から見ると気弱そうな見習い少年は、たいそういいカモだった。


「僕は、本当になにも知りません」


 いつぞやと同じように先輩達に足止めされたレティナは、困り顔で詰め寄ってくる騎士達に首を振る。


「もったいぶるなよ。仲間だろ?」

「もったいぶるつもりもなくて……、ただ、皆さんきちんと休憩を取るようになって、よかったな……くらいしか、変わったところなんて」

「誤魔化すなって!」


 事実なんですけど……とレティナは途方にくれた。


 レティナに話を聞きに来る彼らは、ものすごい理由……なにか劇的な出来事があってルシードが変わったと思っているようだが、そんなものはない。


 ルシードが空回りしていただけで、隊員たちと話し合ったあとは、溝も埋まった。そして、歯車が上手く回転し始めただけである。


 そう説明しても、どうにも信じてくれないのだ。


「――うちの者が、どうかしたか」


 囲まれて、一体これ以上どうやってかみ砕けばいいのかと悩んでいたレティナは、聞こえてきた事にハッとして固まった。


「リグハーツ隊長……いえ、これは……」


 呟いたのは、レティナに「教えてくれ」と、しつこかった騎士のひとりだ。


 バツが悪そうに口ごもっている。

 ルシード本人がいる前であれこれと言うことは、さすがに憚られたのだろう。


 その様子を見るや、ルシードと連れだっていたアレスはニヤリと笑う。


「あ~、隊長に聞きたいことがあったようですね~」

「俺に?」


 睨んでいるつもりはないのだろうが――すっとルシードから視線を向けられた騎士達は「ぴっ」とひよこのような高く短い悲鳴を上げる。


「なんだ。何を聞きたい」

「めめめめめ滅相もありません!」

「なんだそれは。問いかけになっていないぞ」


 完全に萎縮している騎士達。

 レティナは気の毒になり助け船を出した。


「あの、隊長たちは、なぜこちらに?」

「ああ。お前を探していた」


 むけられた視線が、騎士達にむけていたものよりも、優しい気がしてレティナは戸惑う。


「僕、ですか?」


 するとルシードは一つ頷き、再度騎士達へ視線を向けた。


 ――若干、先ほどより温度が下がっているような気がする。


「用がすんだのなら、連れて行くが」


 構わないな? と眼力で問われた騎士達は背筋を伸ばして「はい!」と返事をした。


「行くぞ、レト」

「は、はい!」


 レティナは慌てて後を追う。


「あの、僕を探していたって……なにか、ありましたか?」

「ああ。面会だ。――マリアベルが、お前に会いに来た」


 だから、わざわざ隊長自ら探しに来てくれたのか。

 タイミング良く助けに入ってくれた理由が分かり、レティナは納得した。


(少しだけ、残念……なんて)


 そんな邪なことを考えてルシードの横顔を盗み見たら、なぜか彼もレティナの方を見ていて視線がかち合った。


(――っ!)


 驚いて、思わずレティナは目をそらしてしまう。

 だから、その瞬間ルシードの表情が僅かに変化したことに気付かなかった。


 ――ほんの少しだが、悲しそうに。

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