二十話 見事な一撃、再び
ある日のこと。
「ちょっと……なにするんだい!」
レティナは見回りするルシードに同行していた。
すると、突然女性の悲鳴が上がる。
ルシードがすぐさま反応した。
飛び出した彼の姿をレティナが追えば――向かう先には転んでいる女性と、彼女のもっていた買い物用のカゴを手にした男二人組。
おそらく、女性から力任せに奪い取ったのだろう彼らは、倒れた女性には目もくれず走り出した――が、ルシードに前を塞がれてひとりが足を止める。
すると、もう片方の男はその背中を突き飛ばした。
ルシードに衝突するような形になった相棒には見向きもせず、脇を抜け去ろうとした男。
騎士の本気の走りに遅ればせながら追いついたレティナは、ひとりだけ逃げようとした逃走男の前に通せんぼのごとく両手を広げた。
「と、止まって下さい!」
だが、相手は速度を落とすことも躊躇うこともない。
ただ、レティナを見て笑った。
コイツなら勝てる。
そう確信し、バカにしているようで、強行突破をかけようと突っ込んでくる。
「レト!」
ルシードが心配そうな声を上げ、捕らえた男を引っ張り駆け寄ってこようとする。
だが、誰が見ても間に合わない。
レティナは犯人に突き飛ばされ、仲間を踏み台にした男はひとりだけ逃げおおせるだろう。
被害者の女性も、犯人も、遠巻きに見ていた人々も。誰もがそんな結末を予想した。
女性は、小柄な少年が怪我をすると思ったのか悲鳴を上げて目を塞ごうとしている。
だが、ニヤけた笑いで突っ込んでくる犯人に対してレティナは――。
「ダメです……! このまま、大人しくして下さい! ――せいっ!!」
ボコン。
少しばかり鈍い音がした。
「ほぎゃぁっ!」
突進した犯人が綺麗に宙を舞う。
それを、物取りの被害者である女性や野次馬たち、ルシードと彼に腕をひねりあげられていた相棒が、口をあんぐりと開けて見ていた。
べしゃっ。
地面に落ちた犯人は、顔を腫らして目を回していた。
すると、わっと周囲が歓声をあげる。
「レト!」
ルシードが、拘束した犯人を引きずりそばにやってきた。
「あ、わ……違う、こんな……すみません……!」
「すごいじゃないか、レト! 見事な一撃だった!」
「……え」
驚くほど好意的な視線の数々に、身構えていたレティナは呆気にとられた――。




