十八話 秘密を知った日(ルシード視点)
普段はおどおどしているが、言うべき事はきちんと口に出せる。
レトは、なかなか気骨のある奴だった。
クーズリィなんぞの元にいたのが惜しい。
なんなら保護期間が終わってからも、我が隊に見習いとしていればいい。
そしてゆくゆくは騎士を目指せば……。
――そこまで考えて、ハッとする。
いかんいかん、ひとりで突っ走るのは俺の悪い癖だろう。
騎士云々は本人の希望があればこそだ。
もちろん、無理強いするつもりはない。
だが、そんな風に思うくらい、俺はレトという人物に好印象を抱いていた。
小柄だが、よく食べよく寝てよく鍛えれば、ぐんぐん身長も伸びるだろう。
本人の性格も良い。他者に優しく思いやりがある。これで自信をつければ……。
彼は、きっといい騎士になる。
肩を並べる日が来たら、きっと楽しいなんて、そんなことを時折考えるようになっていた。
――だが、町に出てチャバル家の話をした時。
騎士団内でアレスと話していたときも、元の主家家のダーメンスではなく共犯扱いのチャバル家を気にかけていると思ったが、レトは俺の話を聞くと目に涙をためて感謝したのだ。
その姿を見た時、俺にはレトがやけに小さく見えた。
――いや、レトはもともと小柄で華奢だ。
それもこれも、クーズリィが虐げて最低限の食事しか与えなかったからだ。俺はそう睨んでいた。
だが、なんというか、そういう意味とはまた別で、俺に礼を言ったレトは小さくて、いじらしくて、まるで壊れ物のように思えた。
だから、アイツが通行人とぶつかって転びそうになった時、思わず引き寄せてしまったのだ。
腕の中におさまったレトは、やはり小さくて細くて――――柔らかかった。
そうだ。
柔らかかったのだ。
いくらレトが小柄で、痩せていたとしても、同じ男ならばあり得ない――その時、諸々のことが繋がった。
なぜあの姉が、わざわざしゃしゃり出てきたのか。
普通ならば、保護対象と引き合わせるのは騎士団長である義兄の方が適任だろう。
だが、レトは姉の仲介だった。
そこに隠されていた理由に、今、たった今、気付いた。
抱き留めた存在の柔らかさで、気付いてしまった。
同時に、すさまじい罪悪感に襲われる。
――レトは、俺の腕の中にいる。俺が抱き留めているのだから当然だが、体がぴったり密着しているのだ。
一気に顔が熱くなった。
身じろぎするレトから、慌てて距離をとる。
(最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ、俺は最低だ!!)
隠していた秘密を、意図せずとはいえ、こんな形で暴くなんて。
レトは、俺が自分の性別に気付いたと分かれば、どんな顔をするのか。
(というか、あの姉め! こういう大切なことは、先に言っておくべきだろう!)
分かっていれば、不必要に触れたりしなかったのに。
思い返せば、頭を撫でたりしたのも、レトの性別を考えれば不躾だったのではないだろうか。
(いや、あれもこれもそれもこれもどれも――!)
色々と考える俺だったが、後ろから懸命に付いてくる足音に気付いて……思わず歩幅を狭めていた。
ああ、気まずさと恥ずかしさに耐えきれず、無意識に早歩きしていたようだ。
すまないと振り返れば、レトと目が合う。
彼は――いや、彼女はにこりと笑顔を見せた。
その細い首に目が行って、慌ててそらす。
「……行くぞ」
「はい!」
彼女に合わせ歩く速度は、いつもより遅かった。
だが、心拍数は普段よりもずっと多かった。




