パーティを追放された俺だが、まあまあ順当なことなので頑張って見返します。
「ウェスト、すまねぇがこれから先のパーティにお前は必要ない」
俺の所属するパーティ”マッケイガン”のリーダー、タルカスは言いづらそうに俺に言ってきた。
いつもはパーティで使う酒場でサシ飲みを誘ってきたから、深刻な話題だとは思ったがそういうことか。男らしい風貌と、そのデリカシーの無さから俺が”ほぼ蛮族”と評価している男が、世間話ばかりして本題を切り出さないからおかしいと思った。
タルカスめ、しみったれた顔して、しみったれたこと言いやがる
「一体どいうことだ!俺が何をしたってんだ!」
するとタルカスは本来の男らしい大きな声で応える
「お前ぇは何もしねぇのが問題なんだよ!他のメンバーと力の差が大きくなってダンジョンでもお前のカバーをすることが増えてる。お前戦士なのにトレーニングすら、ここ1年ほとんどしてないじゃないか!毎日酒飲んで、
「もういい!もう十分だコノヤロウ!話にならねぇな!」
あぶねぇ、確かに最近俺何もしてねぇわ。これ以上図星を突かれると凹みそうだから強引に切ってやったぜ。
口調を落ち着けたタルカスは言う
「ったく最後まで騒がしいな。俺とお前は腐れ縁だが、俺はパーティのリーダーだ。他のメンバーたちの命と生活を守らねぇといけねぇ。再三の改善要求を聞かなかったお前を個人的な感情だけでパーティに残して他のメンバーを危険にさらすわけにはいかねぇんだ。」
リーダーなんだから、そんな気を遣わなくていいのに、こいつは俺が傷つかないように、まだ言葉を選んで俺に話しかけてくる。目も赤くなってる。30のおっさんがほとんど泣きそうな顔してる。キモイ。
「大事な話してんのにお前今、おっさんキモいって目をしてんぞ。」
「うん。キモい。」
「やはりか!てか同い年だろ!」
さすがは腐れ縁!考えていたことがバレる!
と馬鹿話をしているとつい本題から逸れてしまうので口調を落ち着けて言う。
「わかってるよ。最近の俺は特に酷かったもんな。当然のことさ、タルカスが気に病むことじゃねぇ。言いたくないこと言わせたな。」
するとタルカスは、
「お前こそクビを言いに来た俺に気を遣うな。ここに100ゴールドある。これは退職金みたいなもんだ。もう一度這い上がってこい。」
人が3月くらいは生活できそうな金の入った小袋を俺に渡し、話はここまでと体を向き変え「会計してくれ」と店の人間に声を掛けた。
会計を終え、先に席を立つタルカスは
「達者でな。お前とまた酒が飲める日を待ってるぜ。」
とキメ顔でくさい台詞を言って去って言った。
泣きそうな顔もキモかったが、キメ顔もキモいな。
去っていくタルカスの背中に
「見返すから待ってろよ!いままでありがとな!」
と声を投げてやるとタルカスは背中を向けたまま右手でサムズアップをして店から出て行った。かっこいいとでも思ってるんだろうか。
しめっぽい最後にならなくてよかったと考えながらタルカスの背中を見送った。
しかしタルカスの姿が完全に見えなくなると、気丈に振舞おうとしていた体から力が抜け、肩も視線も落ちてしまった。
「はぁ・・・」
言葉も出ない。
惨めだ。努力をしないでパーティのみんなに置いて行かれたことも。飲み屋で一人うつむく自分も。クビを言いに来たタルカスに強がって平静を装ったことも。
すべてタルカスの言う通りだ。ここ最近の俺は努力をしないでダンジョンでは足を引っ張る、仕事もほかのメンバーに任す、酒を飲んでばっかで、体もたるみ切っている。昔「こんな冒険者にはなりたくない」と思ってた姿に俺はなってしまったらしい。
タルカスはパーティのリーダーではあったが、それ以前に子供のときからの腐れ縁だ。俺がかつてA級パーティを脱退し、意気消沈していたところを引っ張り上げてくれたのはタルカスだ。そんな彼に甘えるばかりでこんな決断をさせてしまったことに後悔しかない。
うつむいた視線の先にあったのはズボンに乗っかった贅肉。いつからこんな体になったんだと思っても思い出せない。最初に”少し脂肪が乗ったか”と思ってから”まだ大丈夫だろう”を繰り返してきた。
すべてにおいて妥協を繰り返しすぎた俺は、もはやどこから直していいのか、何を直したらいいのかすらわからない。
でも変わるしかない。”今度こそ頑張ってみよう”なんて何度目かわからない誓いを立てた。あるのは100ゴールドの金と、贅肉だけ。
落ちるところまで落ちた。あとは這い上がるだけ。
まず最初の目標。1か月後。それまでに贅肉を落とし冒険者としての勘を取り戻す。
目標が決まれば気持ちもクリアになってきた。
さぁ!今度こそやり直そう!!