極秘作戦①
「よーし、よく集まってくれた。ってことで、これから極秘作戦について簡単に説明してくから、よろしく」
「はいッ!」
たわわな胸を勢いよく揺らしながら元気よく手を上げたのは、輝く金髪をもつヴェローナである。
「ロキ総帥、極秘作戦って何?」
「それを今から説明するってんだろ、耳ついてんのかよこのすっとこどっこい女」
美少女と見まごうほどの相貌をもつ小柄な少年であるナルヴィがそう毒づくと、そこに近づく影がある。
「うるさいですよ、お二人とも。総帥のお言葉です」
場を諫めるのは、右目を完全に黒髪で覆い尽くした、切長な瞳の美女。長身でどことなく幽霊のような雰囲気があるのはおそらく髪の長さゆえだろう。
「そうそう!我々の方針となる言葉だよ?おもしろ……じゃなかった、ゆっくりとその作戦を聞こうじゃないか」
そう言ったのは丸い眼鏡をかけた小さな女の子である。ブカブカの白衣と可愛らしいワンピースに身を包んでいる。
「じゃあ、作戦の内容が理解できないバカ二人にもわかるよう、簡単に作戦の内容を説明する。まず、俺たちは生配信で魔法少女と、それから総帥ロキ率いるラグナロクとの戦いをネットの海に流します。そして、そこで完膚なきまでに魔法少女を叩き潰します。それもーー一対一ではなく、ここに攻め込んでくる全員と」
「ど、どう言うこと?」
「桜木に情報操作をさせ、あらかじめ魔法少女の侵入人数を絞らせた。そしてその上で、俺たち最高幹部全員でそれを、一対多で相手する。その場所は、過去に俺たちが使っていた『秘密基地』だ」
「あー……あそこか。確かにそれならいけるな」
「確かに、侵入者がいてもいいように色々工夫したものね」
過去に使っていた、アジトとしての『秘密基地』。実際内部構造はかなりその外見から想像できないほどに広く、ちょっとしたダンジョンみたいになっているが、実際使う上で面倒だ、ということで今のシステムに切り替わった。中央に行き来できるエレベーターと階段を設置して、各フロアごとに役割を分けた。そして最終フロア、最も地下に最高幹部のみが立ち入れる場所を残している。
「それでも、魔法少女っていやあ俺たちでも一対一で特殊能力を使われたらギリギリなこともあるだろ?」
「いや、それに関してはこちら側からしっかりと情報を入手した上で対策を練る。その上でユミールの毒を使い、魔法生物と魔法少女を引き剥がし、再度の変身などができないようにする。これである程度相手の力を削ぐことはできるだろう」
「私、まだ開発が終わっておらんのだが?」
「いいや?俺は知ってるさ。あんたは天才だし、研究所からは結構雛型は完成してるって報告が上がってきてるぞ?」
「だって……まだガスでの呼吸器を通した実験は済んでないし、効力が有効な濃度についても詳しく検査して、その上で人体に影響がないかも調べなきゃならんし……ああ、実験室に戻っても良いかね?」
「どうどう、落ち着け。あくまで必要な毒だから、その投与に関してはシギュンに任せる。つまり直接投与もできるから安心してくれ」
「何?それならそうと……しかし、いざという時のために低濃度で投与できるようにしておかねばならないだろう。肌からも浸透するようにすればより確実であろう?」
俺は確かにな、と重々しく頷いた。
「ユミールに関しては元々この薬の投与、製造に関わってくれさえすれば、あとはシギュンに軽く投与をできるよう改造してもらうだけでいいと思っていたから、戦闘の義務はない。ただ、俺たちから離れた場合に別の魔法少女に倒される懸念もあるから、もしできるなら一緒に来て欲しいんだ」
「まあ、構わないがね。拘束に関しては1日だろうし、お前の言う通りにすればその魔法生物とやらにお目にかかれるんだろう?それ、素材としていただいても構わんかね?」
「いや、それは少しだけ待ってほしい。そのうち奴らが自ずと差し出してくるまで、そう時間はかからないはずだ」
「そうか。であれば、私は構わんさ。じゃあ仕事に戻る」
ふんふん、と鼻歌を歌いながらエレベーターの前に戻り、自分の仕事場へと戻っていくのを見送ると、俺たちはさらに話を続ける。
「出撃の順番はシギュン、ヴェローナ、ナルヴィ、そして私の順だな。無論、ここで奴らを一人一人が軽く転がせるくらいの実力差を見せつけた上で時間がきた、と言う理由をつけて退け。そして最後、私が彼らの変身を解く」
「なるほど、じゃあ俺たちはあくまで余裕を見せながら戦うってことが求められてる……と。おっそろしい作戦だな、俺たちの命かかってんぞ?」
「わかっている。だからこそ、一人も死ぬことがないように桜木に全ての資料、能力、戦闘の映像に至るまで全て入手させている。メンバーはおそらく昨晩ファミレスにいたあの六人に加え、四人が入ることを決定している。いずれも過去に手を焼いた魔法少女たちだ」
資料をテーブルの上のホログラムに表示する。
一人目、魔法少女ポルカ。彼女(男)は、基本的にありとあらゆるサポートを行う能力を持っている。回復、バフなどをこなし、その動きは一段階から二段階ほど上昇していく。ただし、あくまで本人は攻撃を行わないと言う。
二人目、魔法少女イフリム。彼女の攻撃は炎を纏った大きなハンマーにより物理攻撃、一撃は重たいもののその攻撃は大振りでほとんど当たることもない。当たればデカいくらいか。
三人目、魔法少女ウェンズディ。彼女の攻撃は扇子による水の攻撃であり、相手を霧や水の乱反射で撹乱したり、また相手を拘束するジャマーと言えるだろう。しかし、本体さえつかめればその攻撃も恐ろしくはない。
四人目、魔法少女カラミティア。彼女は俺と似て闇を使うというが、その性質は吸収であり、吸い込みと射出を行う。俺の影とは異なり、防御がそのまま攻撃につながるタイプだ。とはいえあくまでその性質はオートではないため、意識の外からの攻撃に弱い。
五人目、魔法少女リズベット。彼女はヒーラー、回復を主に担当している。魔法のステッキを振り回して回復範囲にいる者は全て回復するため、もし怪我をした場合にその範囲に勝手に入り込んでしまえば回復も問題なくできてしまうデメリットがあるという。
六人目、魔法少女アルプ。彼女の攻撃は音波であり、手に持った竪琴による音波によって拘束、回復、攻撃などを幅広くこなすが今ひとつ決定打に欠ける。楽器を媒体にしているため、それを叩き落とせば束の間無力になる。
七人目、魔法少女スペクロム。鏡を用いた反射を行うが、あくまで反射できるのは物理的な攻撃のみであり、分身を形成したり、他の魔法少女の盾となることが多い。
八人目、魔法少女ラフィー。彼女はうさ耳の生えた手足に毛皮を纏った人間で、どちらかといえばナルヴィよりの肉体攻撃を主体としている。その攻撃方法は主に蹴りで、力もかなり強い。
九人目、魔法少女ネクロディア。倒れた敵味方に関わらず、その体を操って動かすことができ、また間接的ではあるものの拘束などが可能であると言う。実際の戦闘動画でも操られているラグナロク構成員が見られる。
そして十人目、魔法少女マキナ。彼女の能力は高速移動、ビームのような光子を用いた射撃が特徴的だという。魔法少女にしてはその見た目はスチームパンク寄りであり、その辺のマニアにはたまらない、とか追記がされているがこの辺りは割愛して良いだろう。
「なんか……隙がねーな」
「ああ。とはいえ、難しくはない。どこから崩すか、また攻撃を仕掛けるにもほとんどが一対一になるだろう。魔法少女の同士討ちに発展したケースもあるから、いきなり攻撃がワープするように飛んでくるなんてことはない。相手が連携を学んだとしても、普段顔を合わせているわけではない者も含まれている以上『じゃあそこに連携を加えます』なんてことはあっさりできるはずもない」
「ほー、じゃあ別にあたし達楽に勝てるってこと?」
「それも早計だな。どちらかといえば、楽に勝てると言うより楽に勝つための特訓を行う。もちろん俺は物理的な攻撃に対してはほとんど効果がないし、変身を解除するのも難しくはないから問題ない。それに、その10人のうち寄生型の魔法生物は一体もおらず、全て変身後にもマスコットとして付いてきているらしい」
「げえ、まあいいわ。とりあえず計画としてはその十人に対して対処できるよう、動画なんかを見て頭に入れておく、ってことでいいのよね?」
「いや、実際に俺が彼女達に返信して、攻撃を再現しながら戦闘を行うから結構楽なはずだ。それに、お前達全員顔バレを防ぐためにきっちり変身してもらうから、戦闘力に対しては不足はないと言っていいだろう」
「へ、変身するの?」
「影ならある程度再現はできるし、動きも大体頭に入っている。ただ、魔法少女ポルカの力は俺では再現できないから、頑張って早く動く」
早く動くと言う言葉に大笑いするナルヴィだったが、シギュンの睨みにちょっとだけ顔をびくつかせつつ「ごめん……」と笑いを止めた。
「一応これでほとんど完璧なトレースになるはずだ。状況に関しては考えうる限り最もいやらしい連携をとった場合とするから、実戦で役に立たないと言うこともない。まあ、十中八九シギュンで全員落とせるはずだ。しかし、シギュンでの全滅に関しては避けたいのが本音だな。そこで、時間制限を設けて次の部屋へと進むように誘導する。そして最終的に、俺たちを倒すことができない魔法少女の姿を全国に放映させ、同時にそこで……魔法少女達の正体と、魔法少女になるリスクについて解説する」
「つまり……魔法生物は侵略者であり、魔法少女は正義の味方ではないってことに気づかせるのね?」
「そう言うことだ。おそらく、そこで世間の反応は魔法少女の味方になるかもしれないし、そうでないかもしれない。私は人間の思考の先を予測するつもりもないし、どっちに転ぼうと面白そうだな……という気持ちにしかならないからな」
そして、あえてもう一つ。
「そこでわざとロキの仮面を落とし、俺の顔を全世界に晒す」
「……は?って、ええ!?嘘だろ、それ……」
「嘘!?な、なんで!?」
「ああ、あくまでそれはロキが誰にでも変身できると言うことを見せるためだ。本人である俺は彼らの縁ある人間に変身して正体がわかっていることを意識づけ、ラグナロクがどこにいるのかわからないと言うように見せかけるのさ。体を分けた方の『俺』は、家にいたり、買い物をするようにして周りの目につきやすく行動させるんだよ」
体を分けるにあたって脳を二つ作ってしまえば俺はあくまで俺のコピーであるためはっきり言えば俺が同時に存在していると言うことになるが、実際片方には俺本人に出会った瞬間崩れるように設定しておけば問題ない。
「ちょっと面倒だし体積も減るから多少の食い溜めが必要になるが、おそらく問題ないだろう。現在の時点でまだ戦闘員の中の改造深度を上げたものはまだ1%未満、現時点では慣らしも含め、全面的に対決することはできないからあえて俺たちを囮にし、全体の底上げを図るための時期だ」
「……なるほど、それが終わってこその魔法少女狩りね」
「ああ。だから、お前らが魔法少女を『圧倒』しないといけない」
「んん……じゃあ、まずは人間形態での戦闘を行った後、ちょっとだけ追い詰められてからの変身で絶望感与えてもいいんじゃねーの?」
「何!?採用」
「やったー」
ナルヴィが言った案に乗っかりながら計画に修正変更点を加え、そして内部に通達するのはあくまで『過去使用していた拠点を破壊するために向かう』と言うことだけにする。零部隊にはこちら側を守護できるように全員ここへ集合させる。数日作戦はストップしてしまうがそれだけの価値がある」
まだはっきりとは決まっていないが、日程については桜木、そしてユミール次第だな。ユミールの研究の目処が立ち次第、日時については布告するつもりだ。
「と言うわけで、久々に訓練場を利用するつもりだから、準備しておくように」
「へいへい。ヴェローナ、久々だからって張り切りすぎて腰いわすんじゃねーぞ」
「馬鹿にしないでちょうだいな。あたしだって常日頃からストレッチだってしてるんだから」
最高幹部の訓練場は、あくまでこの地下最奥にある場所だ。実際に最高幹部の変身後の姿はナルヴィを除けばお互いしか知ることもない。いつも戦う時はあくまで人の形を維持して戦う、それが省エネであり、力を出しすぎないためでもある。好き勝手に力を使いすぎると周りの建物や人に被害が及んでしまうため、そうせざるを得ないのだ。
「さて……魔法少女協会の出方を見るとするかね?」




