総帥、重大決定を下す
他の連載もあるのに投げ捨てて投稿しています。忙しいのにね。よくないね。でも思いついたら書かなきゃね。
注意
エセ科学なので色々おかしいです。(´・ω・`)らんらんは豚だから難しいことはわからないよ。
感想欄でその辺り突っ込んでこられても対応できません。君が優秀なだけなんだ。ごめんね。
悪の組織ラグナロク。
その隠された本拠地の中央にしつらえられている玉座は、青みがかった金属で構成されており、座面は光沢のある布で覆われている。そこに座っている男は、顔の上半分を覆う白い仮面をつけ、黒の軍服に身を包んでいた。肩から背中にかけて覆っているマントはしっとりした高級感のある生地であり、男の地位が高いことを窺わせる。
まあ俺なんだが。
「では、報告を聞こう、シギュン」
「は」
目の前にひざまずいているのは、顔つきがひどく冷徹な印象を与える長身の女性だった。長い艶やかな黒髪はその顔の右半分を覆っており、むき出しの日本刀にも似た雰囲気を放つ切れ長の瞳が印象的である。全身は黒の軍服に包まれており顔を除けば一切の肌が見えない。腰にはその長身に見合うほどの大太刀を佩いており、常人であれば持て余さないかと思うほどだ。
「前回の京都における作戦ですが、またも魔法少女による妨害に遭い戦闘員の損害をもたらしました。十四人が軽症、一人は死亡までいかずとも重症、家族に対してのカバーストーリーとして交通事故を適用しています。運転手として零部隊の者を起用し、示談に持ち込んでおります。病院に関してはこちらの息がかかったものを用意しておりますゆえ、損傷に関しては一ヶ月、二ヶ月ほどで問題なく完治するかと」
「ああ。命に別状があるわけではないんだな?」
「は、そのように伝え聞いております」
俺は指先をつい、とあごへと持ってきて、ふう、と息を吐いた。そしてくくっと喉の奥で笑う。
「魔法少女、か。ヒーローと魔法少女の『活躍』、鬱陶しいものだな」
シギュンは軽く目を開いて、それからまた伏せる。長い睫毛が影を作るのを見届けると、玉座の肘掛けへと手を戻し、脚を組みなおす。
魔法少女そのものの根絶をするには、そもそも魔法少女を倒すことができなければならない。悪の構成員たちは過去何度か爆発、斬撃、打撃、ありとあらゆる手を試しはしたが、倒すことすらできていない。悪の組織ラグナロクに関して言えば、全てが科学の力だ。一見魔法のように見えるかもしれないが、その全ては科学により成り立っている。
「――ですが、組織内部でもやや不満が出つつあるのも事実です」
シギュンの言葉には諌めるような調子がある。今さっき喉からこぼれ出た笑いをとがめているのだろう。実際、死人が出かけたのだしピリピリするのももちろんのことだ、と俺は頷いた。
「ついさっき、とある報告を受けた。零部隊からの調査によって魔法少女の成り立ちが判明した。そしてそれによればーー魔法少女は魔法生物によって変身した人間である、ということだ」
これだけのことを調べるのにどれだけの時間がかかったことだろうか、とため息を吐く。魔法少女の変身前後で人の記憶にもやがかかったようになり、全くその正体を思い出せなくなってしまう。その対抗策を練るためにラグナロク内部でも研究が進められていたのだが、直近でその技術が完成してなんとか魔法少女の正体を判別することができたのだ。
「それは……その、ロキ総帥。どうなさるおつもりですか?」
ロキ総帥ーーそのように呼ばれた俺は口元をニヤリ、と歪ませる。先のような事実が判明してしまったのだ、もう我々が魔法少女に対して遠慮する必要はなくなった。
「まずは最高幹部を招集する。そこで方針について伝えるから、全員に今日の予定は全てキャンセルして地下に顔を出すよう、通達してくれ」
「かしこまりました、総帥」
シギュンは深く頭を下げ、それからすっくと立ち上がる。彼女が立ち去るのを見届けると、玉座の背もたれの後ろにあるセンサーに手袋を外した手を押し当てる。これは生体センサーで、怪人化しているか否かを判別するためのセンサーにすぎない。それをくぐり抜けると、今度はそこにホログラムでパネルが浮かび上がる。正方形の九つのパネルを順番通りに押すと、ガコン、という音を立てて玉座の背後がぽっかりと開く。
その空間へ入ると、タッチパネルへともう一度手をのせ、下方向を示すボタンを押す。チン、という品のいいチャイムと同時に扉がゆっくりと開いた。そこに乗り込み、最下層へと向かうボタンを押す。下へと向かう重力を感じながら、はああ、と大きく息を吐いた。
「総帥も、楽じゃねえなあ」
初めにこういう組織を作ろうと思った時には、全然、こんなに大きな組織になるとは思っていなかった。大きくなったもんだなあ、と思いつつ、いつかこの組織が必要でなくなる時を俺自身が強く望んでいる。
もともとこの悪の組織は、何か悪いことをするために作り出したものではない。
悪の組織ラグナロクは、世間的にその一切が謎に包まれているーーとされている。しかし、その目的は『人が人らしくあるために』。これは俺が定めた目的であり、建前的には全ての構成員の共通目的となっている。そしてこの組織を俺が創設した理由、それは魔法少女が出現した、というネットの投稿からだった。思えばそんな不確実な情報で、と今なら笑うだろうが、当時はそれでも大々的にニュースになり、同時にその頃からあちこちで魔法少女が出現し始めた。インタビューしようにも手がかりもない、明らかにやっていることが物理法則を超えている彼らに俺は不安を抱いた。
この世界を壊させてはならない。
愛すべき人がいるこの世界を。
チン、と鳴った音にあらぬところへ飛んでいた思考を引き戻す。ガコン、と扉が開き、いつも作戦会議を開いている地下室へと到着した。地下室と言ってはいるが、最高幹部の戦闘訓練、また臨時の避難所にできるよう空間は大変広いものだ。しかし、この本部に入ることができるのは俺と最高幹部を含めて五人のみ。
ここは最終防衛ラインと定めてある。
「他四人の到着までには時間がかかりそうだな。確かヴェローナとナルヴィは近畿方面での作戦行動があったな……まあ、二人がいなくとも問題なく進行する作戦ではあるが、一応零部隊を動員しておくか」
一人暮らしが長いと独り言も自然と多くなる。続けて、ユミールの予定を見るが、そこには研究としか書かれていなかった。まあいつものことだ。寝て、起きて、食べて、研究して、食べて、研究して、食べて、寝る。このルーティンの繰り返しだから、興味がそそられない作戦には参加しないし、なんならボイコットまでかましてくる困ったちゃんである。
「……まあ、あいつは最悪来なくてもいいか」
情報の伝達さえしておけば大丈夫だと思われる。実際頭はいいので余計なことをしないのも良い点だ。ここで入り口の方から物音がした。足音からしてナルヴィだろう、と思っていると、どうやら走ってきたらしく、俺の横にどっかりと座り込んだ。
「呼び出すって言うなら三日前に通知しとけってんだよ、カスがよぉ!」
開口一番汚い言葉で罵られるが、いつものことである。加えてその顔立ちはややきつめではあるもののとても可愛らしく、男にしてはやや長めの茶髪を肩で切りそろえている容姿からしても、ご褒美です、と言いそうな輩がいそうなほどだ。
「まあ、落ち着けナルヴィ」
「ケッ、まあいいよ。それより俺が一番初めに来たのか?ハッ、やっぱ他の奴らは雑魚どもだなァ!」
ギャハハ、と笑いながら俺のグラスに入れられていた水をグビグビと飲み干して、ぷはあ、と息を吐き出した。
「んで?最高幹部全員呼び出しなんて数ヶ月ぶりじゃね?何があったよ」
「ああ、そうだな。正確には五ヶ月と三日ぶりだがーーっと、もう一人来たみたいだぞ?お前が置き去りにしてきた、ヴェローナが」
怒りによって普段のカツカツ、というヒールの音がガツガツと聞こえるほどに踏み鳴らされながら登場したのは、ラグナロクが誇る随一の美女、ヴェローナである。抜群のスタイルにぴったりとしたミニ丈のワンピースタイプの軍服、そしてすらりとした美脚にロングブーツを合わせ、白皙の麗しい顔に強い怒りをたたえた女性が現れた。豪奢な金髪は道中で乱れたようで、それを指で払いながらの登場である。
「ナルヴィ!!アンタいい加減にしなさいよ!!」
「んあ?総帥からの緊急呼び出しに出遅れるやつがわりーんだよ。ババアなんだから大人しくゆっくり来な!」
「キィイイ!!なんですって!?」
放っておくといつまでも言い合いを続けてしまうので、そこで大きく手を叩いて「そこまでだ」と静かにさせる。ちょうどもう一つ足音があることだし、二人ももうこらえきれないだろう。話を始めてしまおう。
しかし、到着したシギュンは小脇に少女を抱えて登場した。視界を遮らないよう、前髪は真ん中で分けられて可愛らしいピンで止められ、おでこがよく見える。大きな丸メガネの奥からは眠たげな瞳がこちらを見つめた。彼女こそ、ラグナロク創設の立役者といっても過言ではない研究者、ユミールだ。人間の怪人化、魔法少女の研究、あれこれと話せばキリがないが、生体研究においては天才といってもいいだろう。
「来てくれるとは思わなかったよ、ユミール」
「私もね、まさかアンタの命令を受けたシギュンが無理やり私を連れ出すとは思わなかったよ。しかし、最高幹部全員が集まるなんて珍しいこともあるもんだね。創設以来じゃないかい?」
とぼけたことを言う幼女だが、彼女は呼び出しても来ないことで有名である。
「お前抜きならしばしば集まってもいたんだが……まあいい。今回は、魔法少女について、重大な決定を下すつもりでな」
「重大な決定?」
シギュンがことり、と全員の前にカップを置き終わり、座ったのを見計らって俺は頷いた。
「宣言しよう。悪の組織ラグナロクは、魔法少女殲滅に乗り出すぞ」
ナルヴィがカップに手をかけようとしたところで俺を見たまま動きを止め、ヴェローナは思わず立ち上がった。ユミールはハッとした顔で俺を見て来たが、シギュンはあいかわらず片眉をちょっと上げただけにとどまった。
「ま、魔法少女を殲滅する、って……殺すってこと?」
それは流石に抵抗あるわよ私、というヴェローナだが、それをナルヴィはせせら笑った。
「なんだよ殺しは初めてか、お嬢ちゃんよ!ヒヒッ」
「そうは言ってないでしょ!別に私だって、殺そうと思えば殺せるわよ!」
「落ち着け、二人とも。何も、魔法少女自体は殺したりはしないとも」
ニコニコしながら俺は自らの影の中に手を突っ込んで、その中から取り出したタブレットをテーブルの上に置いた。
「零部隊より、魔法少女の変身フェーズにおける認識阻害を完全に無効化することができたため、魔法少女の正体が明らかになった。魔法少女の正体は、謎の魔法生物によって洗脳された、あるいは唆された一般人だ」
「魔法生物……って、あの人畜無害そうなマスコットよね?あれが?」
ヴェローナの疑問も最もだ。何しろ俺たちは彼らと対峙した瞬間、それに対する敵対心が一切生まれなかった。つまり、魔法生物には敵対的な意識を呼び起こさないような、何がしかの魔法が仕込まれている可能性が高まった。
「私は直接見たことがないからわからなかったが……それは認識阻害無効化でも防止できなかったかね?少し気になっていたんだ」
「いや、認識阻害無効化はそもそも人間の認識を一時保存し、それを無理やり再生することで正常化するものだ。認識に関わるものであれば大体問題なくなるみたいでな、この処置をしたおかげで次の作戦にも……いや、話が逸れたな」
ユミールはふんふん、と言いながらメモをしている。倫理観についてはおかしいが、それを修正してさえやればまともな研究者には違いないんだよなあ、こいつ。
「戦闘担当員として、俺、ナルヴィ、シギュン、ヴェローナには、魔法生物の捕獲にあたってもらう。サンプルはあればあるだけ良い。それからユミール、お前には捕獲してきた魔法生物を好きなだけ解剖、調査、実験してもらう。そして魔法生物に対抗できるような毒物を作ってほしい」
「毒物を?また面倒な……理由は?」
「物理的な策をとった者がいたようだが、全て再生したという報告を受けている。何度潰せば良いかは流石にわからなかったようだが、それもある程度検証してほしい」
ゆっくりと足を組みなおし、悪魔のような微笑みをたたえる。悪戯を待ちかねていたようなナルヴィのニヤつきも、若干の緊張を感じさせるヴェローナの固さも、我関せずといったユミールの態度も、氷のような冷たさながら忠誠心に溢れるシギュンの心根も、全てが俺の心を刺激する。
「では、次の作戦No.1689の変更を組織全てに伝えるーー」
悪の総帥ロキーーまたの名を水上創、高校二年生。
始めようじゃないか、俺の世界のための悪あがきを。