8話――そんなことよりお昼食べるっすよ
ホテルのチェックインが終わり、荷物を置いてきたオレたちは公園に来ていた。
スマホで時間を確認すると、十二時をちょっとだけ過ぎている。お昼には丁度いい時間であり、黒葉との交代までもう一時間もない。
「ん〜〜気持ちいい〜〜〜!」
美玲はレジャーシートを敷くと、気持ちよさそうにそこに寝っ転がった。オレも凜々花の隣で、同じように体を仰向けにして寝っ転がってみる。芝生のやわらかさがレジャーシートから伝わり、まるでふくふかの布団の上にいるみたいな感覚。
暖かい日差しに暖かい風が全身に伝わって、このまま寝てしまいそうなくらい心地がいい。
「なつぽん、春っていいよね~! 新しい季節が来たって感じ」
「わかる! それに、春って芝生の上でピクニックが合うよなぁ。ここに桜があったらもっといい!」
「うんうん。今年はお花見すっかり忘れちゃってたよね」
美怜と話して、気がつくと凜々花がいた。凜々花はオレたちの会話に混ざりながら、美玲の隣に寝っ転がる。
「今日は二人とも、お店のお手伝い引き受けてくれてありがとね。旅行って言っておきながら働かせちゃうの、ちょっと申し訳なく思ってたから……」
「いやいや、花屋ってどんな仕事やってるのか気になるし、オレは楽しみにしてるぞ!」
「あたしもー! というかりんりんやなつぽんと一緒なら、あたしは何でも楽しめる自信あるよ!」
三人で雑談をしながら春の風を感じていると、パシャっというシャッター音と共に足音が聞こえてきた。シャッター音の時点でもうなんとなくわかったぞ。
「なんか面白そうなことしてるね~」
うん。やっぱり薫だ。
寝っ転がるオレたちを見下ろしながら、いろんな角度からスマホで写真を撮ってくる。オレたちはとりあえずピースした。
「薫も寝っ転がってみようよ! 気持ちいいぞ! 春を感じられるぞ!」
「僕はパス。なんか傍から見たら不恰好だよ」
そう言いながらも薫はスマホで撮影を続けた。
薫はことあるごとにオレたちのことを撮っているけど、なんで撮ってるんだろう。寝てる間とか寝起きは勘弁してほしいけど、まあ思い出になるし、オレは写真を撮ってもらえること自体は大賛成!
「夏咲さん邪魔っす」
「夏咲どいてそこボクが座るから」
辛辣な二人の言葉を受けてオレはすぐに起き上がった。夕ちゃんと麻琴ちゃんは座る。
「夕ちゃん、麻琴ちゃん、二人も寝っ転がってみようよ。すっごく気持ちいいぞ!」
「そんなことよりお昼食べるっすよ」
夕ちゃんはお弁当箱を丁寧に並べていた。
目がとてもキラキラしている。
「小嵐、人が作ったものを自分のもののように扱うなっての」
ペシっと夕ちゃんの頭を叩く麻琴ちゃんに、夕ちゃんは涙目になりながらお腹を押さえる。頭じゃないんだ。
「ええだってみんな寝てるじゃないっすか。食べる気ないならウチが食べようかと思いまして。お腹が空いて死にそうです」
「食い意地どうなってんの? 敵が作ったものなのに」
「お昼御飯に敵も味方も関係ないっすよ! 佐野さんの料理食べたことないんすか⁉ 超超超おいしいんすよ!」
「そういうときだけ都合がいいんだから……」
二人の会話を聞いた美怜はパッと起き上がる。
「そうだよ! 早くお弁当食べよ食べよ!」
言いながら、お弁当を並べる夕ちゃんの隣に座る。夕ちゃんはちょっとだけ顔をしかめたけど、何も言わなかった。
俺と凛々花も起き上がる。お弁当は一人一人に作ってあって、見栄えもすごく良い。そしていい匂いがする。
「みんなの好み、事前にリサーチしたから気に入ってもらえると思うよ! ええと、これがなつぽんでこれが桜井さんで――」
六人分のお弁当を作るだけで大変なのに、みんなの好みに合わせて具を変えてるなんて、普通そこまでしないと思う。だけど美怜は、そういうことを平然とやってしまう女の子なんだ。
「ごめん。悪いけどボクは受け取れない」
麻琴ちゃんが口を開く。
「ボクは夏咲派とは友達になれないから。作ってくれたのはありがたいけど、やっぱり受け取れない」
「……そっか。うん、わかった」
美玲が少し寂しそうに笑うと、しばらく沈黙が続く。
オレが口を開こうとしたところで、夕ちゃんが麻琴ちゃんのお弁当を手に取る。
「ちょっと麻琴さん! うっきうきでお弁当受け取ったウチが馬鹿みたいじゃないっすか! 勿体ないんでウチがもらいます!」
「実際馬鹿でしょ。小嵐は。あと食い意地」
「あ、黒葉にはお弁当二つ食べること言わないでくださいよ! 食いしん坊キャラとして認識されたくないんで!」
「あーはいはい」
返事をしながら、麻琴ちゃんは自分で持ってきたおにぎりを取る。夕ちゃんはいただきますを言うと、二つのお弁当を同時に開けて、幸せそうに食べ始めた。
きっと夕ちゃんは何も考えていないんだと思う。だけど、あの空気を崩したのは間違いなく夕ちゃんだった。
幸せそうに食べる夕ちゃんと、淡々と食べる麻琴ちゃんに続いて、オレたちはお弁当を手に取った。
「いただきます!」
オレは美怜から貰ったお弁当の中にある、卵焼きを口に運ぶ。そしてほうれん草のおひたし、コロッケと、次々に手が伸び、止まらなくなる。
全体的にオレの好みの甘めな味付けがされていて、どれを食べても好きな味だった。
「美怜、このお弁当すっごく美味しいぞ!」
「ほんと!? よかったー! なつぽんって甘めのものが好きでしょ? だから卵焼きもコロッケもちょっと甘めに味付けしたんだ」
「よくわかるよ! オレの好きな味しかない。よく考えて作ってくれたんだな。ありがとう!」
素直に感謝の言葉を伝えると、美玲は顔を赤らめながら笑った。
「あはは、こちらこそ! なつぽんっていつもストレートに褒めてくれるから、なんかちょっと照れるよー」
「思ったことは口にしないとだろ? それがポジティブな言葉なら尚更な!」
ポジティブな気持ちを相手に伝えない理由なんてないから、オレはいつだって素直に自分の気持ちを伝えている。もはや無意識にやっていることだけど、改めて言われるとオレまでうれしくなる。
オレは美玲のお弁当を味わって食べる。本当に美味しい。
周りを見ると、凜々花や夕ちゃんは顔に出るほど美味しそうに食べている。薫は……いつもニコニコしているからわからないなあ……。
麻琴ちゃんを見ると、夕ちゃんが食べているお弁当をちらっと見ていた。だけどすぐに、自分のおにぎりに視線を移し、無言で食べる。
「あ、佐野さんにタダでお弁当貰うわけにはいかないので、お菓子持ってきたっすよ」
そう言って、夕ちゃんはスーパーの袋のようなものをバッグから取り出した。
様々なお菓子を持ってきたようで、甘いものから甘くないものまで小分けのお菓子がいくつも並んだ。
「食べてください。ウチの形だけのお礼っす」
「あはは。ゆうちゃんは正直だね。僕はそのチョコレート貰おうかな」
「薫さん、真っ先に取らないでください! あくまで佐野さんへのお礼っすからね?」
「いいよいいよー! お菓子ありがと! せっかくだしみんなで食べよう!」
美玲の言葉で夕ちゃんは納得したのか、何も言ってこなかった。
夕ちゃんの持ってきたお菓子を見ると、小分けのマシュマロが置いてあった。
「マシュマロ、オレ好きなんだ! ひとつ食べていい?」
「…………」
オレが夕ちゃんに聞くと、夕ちゃんはしばらく無言で何か考え事をしているようだった。
「どうしたの?」
「あーいや、本当は夏咲さんにあげたくないんすけど、まーこれは佐野さんのものなのでいいっすよ」
夕ちゃんはオレにマシュマロがひとつ入った袋を手渡してくれた。
「ありがとう! 夕ちゃん!」
これからの旅行だっていうのに、スマホを見たらあと三十分くらいしか時間がないのを考えると悔しい。
だけど、好みの味付けがされた手作りお弁当に大好きなマシュマロに……今日のお昼はすごく豪華だ。この幸せを黒葉と共有できないことに喜びを感じる。
オレは残りの三十分、みんなと会話を絶やさず喋りながら、お弁当を平らげた。お菓子もいつの間にか全てなくなっていた。




