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7話――ほんと、ドキッとする……

 花屋の中に入ると、外見の割に少し狭く感じた。それはきっと、店の中が花で埋め尽くされてるからだろう。色とりどりの様々な大きさの花々が、オレたちを歓迎してくれているかのように花開いて、同時に甘い香りを運んでくれる。なんだかすごく、癒やされる空間。

 オレ、ここにずっといてもいい……。


「お母さん! 帰ってきたよー!」


 店内を響き渡る凛々花の呼びかけに、スタスタスタと小走りに走ってくる音がした。

 店内に並ぶ花々の間から顔を出してきたのは、茶髪のショートヘアで、淡い水色のエプロンをした女の人だった。見た目の年齢だけで言えば二十代と言われてもおかしくないくらい綺麗な女の人。この人が凛々花のお母さんらしい。


「凛々花ちゃん〜! おかえりなさいっ!」


 凛々花のお母さんは娘を見つけた途端、凛々花に抱きつき、頭をわしゃわしゃと撫でていた。凛々花が過保護って言ってた理由がわかった気がする。なるほど。


「ただいま! お母さん」

「後ろの子たちが凛々花ちゃんのお友達? いつも娘がお世話になってます〜」


 凛々花を除くオレたち一同は、凛々花のお母さんに向けて軽いお辞儀をした。

 オレが口を開くより前に、薫が「こんにちは」と挨拶をする。


「大勢で押しかけちゃってすみません。僕は瀬川薫です」

「こんにちは! りんりんの親友の、佐野美玲です!」

「あ、ええと、その、こ、小嵐夕、です」

「……桜井麻琴です」


 それぞれの簡単な自己紹介が終わり、あとはオレだけになった。


「お母さんこんにちは! えーと……夏咲です!」


 学校ではオレたちが二重人格だということは周知されてるだろうけど、学校外はそんなことない。名乗るときは基本的に戸籍上の名前で黒葉と名乗るけど、今回は凛々花の家だしその必要もなさそうなので、普通に自分の名前を名乗った。

 ……あれ? 凛々花のお母さん、きょとんとしてる? というか、凛々花はなんで顔を真っ赤にしてるんだろう。


「ななな夏咲くんお母さんは違う!」

「あ、夢原さん! すみません夢原さん!」


 正直凜々花がうろたえている理由がよく分からなかったけど、確かに他人の母親をお母さんというのは少し良くないかもしれない……。


「夏咲くんはもう……。ほんと、ドキッとする……」

 

 そう言いながら、ほっと息をつく凛々花を、夢原さんはさっきのきょとん顔で見ていた。そして、ぱあっと表情が明るくして、また凛々花の頭を撫でだした。


「凛々花ちゃんが電話で言ってた気になる子ってこの子? もうすっごくわかりやすいんだから〜! あ、よろしくね夏咲くん! この場合のよろしくはどう捉えてもらってもいいからね〜!」

「え、ちょ、みんなの前で言わないで! は、恥ずかしいから!」

「私のことはつぼみって呼んでね! まあ、お母さんでもいいけど!」

「だからもう!」


 取り乱す凛々花なんて珍しいなあ。

 目の前の光景にほっこりしていると、今度は美玲がやってきて、凛々花の頭を可愛らしくぽこぽこ叩き出した。


「りんりんひどい! そういう目的でなつぽんを家に招き入れたなんてえー!」

「あーもう違うのにー!」


 困ったような顔をしながらも、凛々花はどこか楽しそう。お母さんのことが本当に大好きなんだな。


「ええっとお母さん、そういえばお父さんは?」


 凛々花はぽこぽこ攻撃を逃れると、店をキョロキョロと見回し、話題を変えた。

 この店は両親でやってるって聞いてたけど、そういえば凛々花のお父さんは現れない。


「配達に行ってるよ〜。お昼過ぎくらいには帰ってくるんじゃないかな?」

「また夕方頃に挨拶できればいいかなぁ。みんな、お昼食べるから十二時頃にすぐそこの公園集合ね!」


 そう言って凛々花は、美玲を店の奥……たぶん凛々花の部屋まで連れて行った。

 オレたちもホテルのチェックインがあるので、夢原さんに見送られながらホテルに向かった。凛々花が行っていた公園って、この花屋の、道路を挟んだ向かいにある大きな公園のことかな。ピクニックするのに気持ちよさそうな芝生が広がっていて、実際に何組かレジャーシートを敷いてお弁当を食べている。今日は風も気持ちいいし、お昼の時間がオレの時間でよかった。

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