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北風な俺と、太陽な彼女

新連載です! 今日はあと何話か更新して、最初のゲームまでは話を進めたいと思います!

北風な俺と、太陽な彼女


 俺はスクールカーストにおける北風だった。


 三角形の頂点に立つイケメンモデルや、サッカー部のエースや、ムードメーカーのギャル。

 キョロ充の取り巻きや、ガリ勉君や、文学少女や、オタク野郎たち。


 その枠組みの外、彼らが奴隷のように囚われているピラミッドのまわりにある砂漠を、自由気ままに吹き抜ける風。

 それがこの俺だ。


 思えば俺の北風伝説は、この高校に入学した初日から始まっていた。


「風に名前なんてあるかよ」


 最初の自己紹介で立ち上がりもせず、それだけを言った俺。

 自由な風来坊キャラとしてデビューしたくて、口に葉っぱみたいなのを咥えて、女子のブラウスを着て。


 そして俺は昼休みになると教室をフラフラして、誰彼かまわず(不良っぽいのを覗く)、弁当をつまみ食いした。

 怒られても「春風のいたずらさ」なんて抜かしていたせいで、入学して一週間もたたずに総スカンをくらってしまう。


 事態を重く見た俺は、体育の時間にみんなが校庭に出ている間、教室に忍び込んだ。

 みんなの弁当にこっそりと、デザートとしてフルーツを入れてやって人気回復を図った。


 俺の大好物のひとつであり、果物の王様と呼べるドリアンを入れれば、俺はクラスの王様になれると思ったからだ。


 しかし、なぜかこれが大ひんしゅく。

 犯人も一発で俺だとバレてしまい、俺はクラスの男子からボコボコにされ、女子からは足蹴にされた。


 それからだ。俺が本当の北風になったのは。

 クラスのヤツらは俺を見ると、制服のジャケットをしっかり抱いて身を守ろうとするんだ。


 それから一ヶ月が過ぎたが、俺の立場は変わらない。

 いまは昼休みで、クラスに俺がひとりで席にいても、誰も話しかけてはこない。


 手慰みにいじっていたスマホからファンファーレが鳴る。

 画面には『Win』という文字と、『ランクアップしました!』という文字が躍っている。


 ……このゲームも、あっという間にランキング1位か。

 相当過疎ってやがるな、サービス終了はすぐだろうな。


「くっ、また……!」


 悔しそうな声がしたのでスマホから顔をあげると、ふと目があう。

 教室の中心にいた女生徒が、デコレーションされたスマホごしに俺を見つめていた。というか、睨んでいた。


 彼女は、天の川美紀。

 俺は芸能関係にはあまり詳しくないのだが、アイドルユニット『エンジェルボイス』の一員らしい。

 学業に専念したいとかで活動を休止し、先週あたりから学校に通ってくるようになったそうだ。


 ひとりの女生徒が復帰しただけなのに、学校じゅうは大騒ぎだった。

 放送部はエンジェルボイスの歌を校内放送で流し、新聞部は号外を発行するくらいだった。

 せっかくなので、その紹介の一文を抜粋してみよう。



 天の川美紀さんは、彗星という比喩がピッタリくるくらいの美少女


 太陽をさんさと浴びて輝く、夏の海のような瞳。

 ひとつひとつの動作が瑞々しくて元気いっぱい。


 栗色のロングヘアと制服のスカートがふんわりとなびくたび、あたりに星屑をまき散らしているかのよう。

 彼女にかかるとうちの学校の制服すらもステージ衣装、自己紹介のためにあがった教壇のわずかな高さすらも、天空で舞い踊る天使のようだった。



 俺は女には興味がないのでどうでもよかったのだが、まあこの表現にはおおむね同意だった。

 そして彼女はあっとう間に人気者になる。


 今もそうなのだが、笑顔を絶やさない彼女のまわりにはいつも人が集まり、みんながそのあたたかい光を浴びたように笑顔になる。

 そう、スクールカーストの頂点を軽くぶっちぎり、ピラミッドを照らす太陽となったのだ。


 重ねて言うが、俺は女には興味がない。

 でも北風といえば太陽なので、彼女だけは認めてやってもいいかなと思っている。


 ……俺と同じレベルのヤツが、ようやく出てきやがったか……。


 なんて感慨に浸っていたら、彼女のまわりにいた女子たちが、「うわぁ」とさも嫌そうな声をあげた。

「ミーちゃん、あっち見ちゃダメだって言ったじゃない!」と、変質者を前にした母親のように、彼女をかばっている。


 ……ふん、ビッチどもめ。


 俺は心の中でそう吐き捨てて、スマホに戻る。

 今のゲームも飽きてしまったので、次のゲームをインストールするか。


 そういえば今朝コンビニで、スマホゲーの紹介雑誌を見つけたので、なんとなく買ってみたんだよな。

 思いだしたので、机の中に突っ込んでいた雑誌を取り出す。


 すると、雑誌の上に見覚えのない、ピンク色の封筒が乗っているのに気付く。


 ハートのシールで封がされていたそれは、昔のアニメとかでよく出てくる『ラブレター』というやつに見えた。

 俺は北風なので、その下で蠢いている愚民どもがどうやって告白をしているかなどには興味がない。


 いずれにしても手紙だなんて、かなり古風だな……。

 それに、この俺にラブレターをよこすだなんて、あんがいビッチじゃない女がこのクラスにもいるんだな。


 まんざらでもない気持ちでそのレターを裏替えしてみると、『はたし状』の一文があった。


 果たし状!? 昔のマンガどころか、時代劇レベルじゃねぇか!?


 思わず、知らないツボを突かれたみたいな声が出そうになる。

 でもすぐに、じっちゃんの名をかけられるくらいの名推理を発揮した。


 ……ははぁ、わかったぞ。これは手の込んだイタズラだな。

 俺はずっと思ってたんだよ、「なんでお前ら、この俺に話しかけてこねぇんだバカども」と。


 この俺に話しかけてこなかったのは、きっと恥ずかしかったんだな。

 だからこうやってイタズラを仕掛けて、会話のきっかけを掴もうとしているんだ。


 俺はさっそくハートのシールをはがし、中の手紙を取りだしてみた。

 そこには女の子らしいかわいらしい字で、こう書かれている。


『放課後、第三準備室にて待つ』


 他にはなにも書かれていない。

 タイトル同様、実に短くてシンプルな一文のみだった。


 しかし俺は口元が緩むのを禁じ得ない。


 ふーん、面白いじゃん。

 愚民どもが無い知恵を振り絞った稚拙な作戦に、少しだけ付き合ってやるとするか。

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