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魔法使いになりたい!  作者: 星月ヨル
第1章
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第3話「天才はだいたい変人」

 「それで、発表は楽しめたかね?」


 「なわけないでしょ……」


 戯言を吐く悪魔に呆れ返るサラ。

授業が終わった後、教卓に座っているアラスターに文句を投げつけに来たのだが、投げる気が失せてしまった。


 「でも、さっきのサラはいつも以上に可愛かったよ?」


 「はいはい」


 (だから何言ってんだよこいつ……)

 同じく戯言を吐いているレイを適当にあしらい、大きなため息をつく。


 「確かに、さっきのサラは可愛かったのです」


 「ん?」


 ふと後ろから声がして、振り向こうとしたその時。

ガサッ、と音を立てて、何かが後ろから抱き着いてきた。


 「わ、わあぁ!?」


 「でも、だからといって、サラをいじめちゃダメなのですよ、アラスター」


 「フハハハ、すまないね、ナナ」


 唐突な衝撃と重力に逆らえずその場で尻もちをつく。手を地面につき、フラフラと頭を上げる。

見上げると背中に覆いかぶさるように、金髪の少女が抱き着いていた。


 「やっぱりナナだ……」


 「はーい。ナナですよー、スリスリ」


 「ぅぅ……」


 ほっぺを擦り付けてくるナナにされるがままのサラ。昔は抵抗していたものだが、慣れてからはむしろ心地いい気がしないでもない。


 彼女はナナ。

サフィーの数少ない友人の中で、最も付き合いが長い親友だ。といっても、まだ3年程の仲ではあるが。

金色に輝く髪はサラより短く整えられ、耳のように左右に結ばれている。服装も、目立たない地味な格好のサラと比べてやや明るい配色だ。

そして彼女は、人間ではない。


 「まったく、目を離すとすぐにこれなんですから」


 ナナはそう言ってサラを抱きしめていた手を離すと、()()()()()

そしてそのまま、サラの目の前で浮遊している。

魔法を応用して空中に浮かぶ手段は存在するが、その難易度や極度の魔力使用料のせいで、使用するものはほとんどいない。第8位階のレイですら、空中停滞は5秒が限界らしい。

しかしナナはそこにいるのが当然かのように、微動だにせず宙に浮いていた。これは彼女がレイをも上回る魔導士、という事ではない。それどころか魔法を使ってすらいない。


 「これは生きがいなのでね、そう簡単にやめる訳にはいかないのだよ」


 「「?」」


 妙な返答をするアラスターに困惑するサラとナナ。生きがい?


 「アラスター先生は魔法使えないの?」


 「わ、フレッド」


 「よっ」


 背後から声がして振り向くと、フレッドがアラスターを見上げて立っていた。こちらに挨拶すると、再び目線をアラスターに送る。

アラスターは軽く首を振りながら語った。


 「もちろん。私は、魔法使いになれなかった」


 「でも、アラスター先生ってすげえ魔導士なんだろ?」 

 

 「それとこれとは話が別だ。それに、仮に私が魔法使いなら、ここまで堂々と表に出てはいない」


 「魔法使いじゃなくても、教師やれる立場じゃないでしょ……。忙しいのに」


 説明するアラスターにツッコミを入れるサラ。

なぜかアラスターは自分の位階を明かそうとしない。おそらく教会の事情があるのだろう。ただ、高位階であることは間違いない。レイと同じく、最高位階の第8なのかもしれない。サラは、今までの付き合いでそれを知っている。

だから、なぜ教師などやっているのか、昔から疑問だった。


 「フハハハハ、そこは問題はない。私は教師を、ただ趣味でやっているだけだ」


 「趣味?」


 一部の神父には、魔導教育機関の教師という役職が与えられている。しかし趣味という事は、仕事ではないのだろうか。


 「ものを教えるのが昔から好きでね。休暇中に教師役を代行しているのだよ」


 「へえ……」


 (意外だ……)

 アラスターのな発言に、サラは少し感心する。

サラの中で、この神父のイメージは悪魔でしかなかったために、その善行は意外なものだった。


 「それに、君たちのような子供をいじめるのも好きでね」


 「あ?」


 「いつも楽しませてもらっているよ。先程のサラの羞恥も、素晴らしいものだった」


 (((変態だ)))


 サラ、ナナ、フレッドが同時に脳内で断言する。

感心している場合ではなかった。こいつが神父とは、魔導教はさっさと滅ぶべきかもしれない。狂言を吐きながらも、アラスターの絶えることがない不敵な笑みに、サラは戦慄する。


 「やっぱりアラスターもそう思うよね」


 「おい」


 「フハハハハ、やはり気が合うな、レイ」


 (こいつら仲いいな……)

 なぜか同調し始めたレイに、サラは心の中でツッコミを入れる。アラスターといいレイといい、天才は変人というのはどうやら本当らしい。


 「しかしフレッド。君は今度、特別授業をするとしよう」


 「やだです」


 「やだではない」


 唐突な敬語で反論するフレッド。もちろん彼は勉強嫌いだ。魔法が大好きなサラからすれば、とても理解できない思考である。


 「あ、もう12時なのです。お昼ご飯にしますですよ」


 「ん、ああ、そうだね」


 ナナに言われて、いつの間にかお腹が空いていることに気づく。長らく話し込んでいたようだ。するとレイが提案をする。


 「じゃあ、ここで食べようか。アラスター、いい?」


 「ああ、構わないとも。私もそろそろ……ん?」


 その時、突然アラスターの耳元に青い光の玉が揺らめく。あれは確か……


 「アラスター、通信?」


 「ああ、そのようだ」


 アラスターはそう言ってから少し考え込むと、レイの方へ振り向く。


 「レイ、少し話がある」


 「……ああ、いいよ。3人とも、先に食べてて」


 そしてレイを連れて、教室から出ていってしまった。2人だけで話など、いったいどうしたのだろう。


 「……じゃあ、食べよっか」


 「はい。今日はナナ、久々に自分で作ったのですよ」


 「おいおいそれ食えるのか?」


 「なにぃ?」


 前にも見たことがあるフレッドとナナの言い合いに、サラは軽く苦笑いをする。ナナが料理上手だった記憶はないが、今日は何を作ってきたのだろうか。


 「……なあ、サラ」


 「ん?」


 フレッドが少しためらいながら声をかけてきた。チャラチャラした彼の性格を考えると、これはかなり珍しいと言える。


 「実は、俺もサラに話があるんだ」


 「……話?」

  

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