第0話「始まりの夜」
「まほうつかい?」
静まり返った夜。
暖炉の明かりだけが灯る部屋で、サラは母に問いかける。
「ええ。自ら魔法を使える人を『魔法使い』と呼ぶの」
「え、自分で使えるの!?」
「とても少ないけどね?」
優しく返す母をよそに、たった今読み終えた絵本を凝視する。
所々朽ちており、もう何度も読まれていると一目でわかる古い本。そこに描かれているのは、とんがり帽子にローブを纏った一人の男だ。彼が手を挙げるとその先から炎が舞い、水が溢れ、風が吹く。
まるで神様のような男。
「今もどこかにいるの?」
先程から絵本に夢中になっている、自分と同じ白い髪の小さな娘。それを笑顔で撫でつけている母に、サラはもう一度問いかける。
「ええ。でも、会うのは難しいかな」
「えー、会ってみたい!」
「うーん」
母が困った顔になってしまった。サラはまた絵本に目を向ける。
男は仲間を作り冒険の旅に出ていた。見たこともない生き物に襲われても、仲間とともに倒してしまう。傷ついた仲間も、男の魔法で治してしまう。
彼は神でも異形でもない。
自分と同じ、人間なのだ。
「ママ!」
母を見つめ、憧れに満ちた笑顔で告げる。
これだ。これしかない。
「私、魔法使いになりたい!」
ありがとうございました。
1話につき、2~3000字程度の予定です。
第1話のみ、5000字を超えています。