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プロローグ
「………まあ、しょうがないよねぇ」
誰ともなしに、リタはそう呟いた。
目の前には唇を紫に染めた、血の気のない男性がうつ伏せで倒れ込んでいる。
背中側にはざっくりと大きな傷が生々しく鎮座していたが、いくらか時間が経って血を出し切ったあとなのか、今はあまり流れ出ていない。
多分切られたのはここじゃないんだろうな。
男性が倒れていたのはリタの家のすぐ前、平民街の細かい路地裏。
地面には血溜まりはなく、だからこそリタの想像は正しいはずだ。
おそらく、どこかで傷を負い止血することも無く逃げ続け、そしてここで力尽きた。
今にも消えそうな命の灯火。
それが燃え尽きるそのときに、男が何かを言った。
それは耳をすませていなければ消えてしまいそうな、小さな小さな声だったが。
リタの耳には不思議とはっきりと聞こえた。
「…………しょうがない、よね?」
リタはもう一度そう呟くと、彼の体に手をかざした。