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第1章 転生者 1-3. 高きに登るには先ず低きよりす


パルトロウ伯爵家にはバレエの練習場があった。


伯爵家の親族は元より、高位の貴族が来訪した時に対応すべき上位のメイドも、流麗な身のこなしを体得して粗相のない立ち振る舞いができるよう、バレエを学ばされている。


誰が言い出したかは判らないが、炯眼という外ない。

“ 態は心を表す ”、と云うのだから。


前々世(日本)での私は、幼少より空手を習っていて高校に入る頃には黒帯だった。

過去の記憶が蘇ってからは常々、稽古になりそうなものを探していたのだ。


バレエに必要とされる体の柔らかや足捌きは、武道に通じるものがある。

バレエから柔道に転向した女子だっているくらいなのだから。


幸いなことに現世の私は、4歳の頃からバレエを習っていた。

既に3年のレッスン期間が経過しており、それなりのポーズや振り付けは熟すことができている。


「 マリールイーズ、貴女もバレエを学びなさい。

  体の切れが悪ければ何事にも差支えます 」


それが私の持論で、本来ならば空手を学習したいところだった。

だが、私が突然、壱百零八手スーパーリンペイなどの空手の型をやり始めれば、頭のおかしくなった令嬢に驚いて医師が跳んでること請け合いだ。

なので、バレエで代用することにする。


新緑が芽吹く頃、涼しい朝の時間帯には、足捌きの順番を読み上げるコーチの声と、それに合わせてステップを踏む、キュッ、キュッとした音が練習場に響いていた。


バーを掴んで、右足はつま先立ちで、左脚を伸ばしたまま後ろに持ち上げていき、そのままの姿勢で止める。

脚を戻して直立し、また、同じポーズを取ることを繰り返す。

マリールイーズは天賦の才があるのか、早々に美しいフォームを身に着けてしまった。


いつも練習が一通り終わって休憩時間になると、コゼットがシトラスの入った果実水を持って2人を待っていてくれる。


「 ソフィア様が此処まで熱心になられるなど、思ってもみませんでした 」


褒められているのやら、貶されているのやら。

まあ、正直者のコゼットが何を言っても、気に障ることはない。


「 折角、伯爵家にこの様な施設があり、優秀な教官がいるのだから、使わない手はないだろう? 」


「 そうれはそうですが、病を得られてから変わられたと思いますよ 」


「 そう? 」


「 そうですわよ。以前はもっと、引っ込み思案だったかと 」


なんとも答えようがない。


「 それはそうと、マリールイーズはまた上達したね? 」


「 ありがとうございます、お姉さま 」


彼女は、私に褒められると嬉しそうにする。

やっぱり、妹は可愛い。


「 私にはバレエのことは解りませんが、教官が、お二方は筋がよろしいと仰っていました。

  この国でも、有数のバレリーナになられるのではないか?とも 」


「 私は、バレリーナになる積りはないよ 」


変な噂が立たない内に、コゼットの口を封じておく。

この世界の常識では、バレリーナやオペラ歌手など、民衆に芸能を提供する職に貴族令嬢が就くことはない。

ただし、自らがそれを興行する限りに於いては、誰も文句は言わなかった。


たまにいるのだ。

自らのバレエ団を率いて、王都で興行を行うナルシストの貴族が。

そんな晒し者と同じににされては堪らない。


しかし、私の想いとは裏腹に、いつしか、私とマリールイーズとのデュエットは、貴族界に於ける伯爵家の自慢のネタとなっていた(汗)




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