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沙蘭国の王女たち  作者: 立川みどり
洛帝国編
11/11

洛帝国編4

       4


 皇帝に拝謁するため王女たちが通されたのは、後宮の広間だった。三段高い玉座に皇帝、その隣に皇后が座り、その正面にレアウレナエー、その斜め後ろにセウネイエーが跪く。ふたりの背後に跪いて控える侍女は四人。王女たちも侍女たちも、あらかじめ教えられた洛帝国の作法に従って、顔を伏せている。広間の両側には、後宮の女たちが顔を伏せて立ち並んでいる。

「よく参った。麗蓮妃。おもてを上げよ」

 皇帝の言葉で、レアウレナエーのみが顔を上げる。

「おお、なんと美しい」

 皇帝が感極まった声を上げた。レアウレナエーは無表情だったが、内心で、どういうつもりだろうかと考えていた。若い男ならともかく、どう見ても五十代以上という年齢で、後宮に多くの美女を侍らせ、隣に長年連れ添ったであろう皇后がいるというのに、目の前の女をかくも手離しで絶賛するのは理解しがたい。

 後宮に新しく迎えた妃嬪に対する社交辞令にしては、まるで一目惚れしている若者のような視線と表情。そもそも強権に任せて女たちを集めている皇帝が、迎える妃嬪に社交辞令を示す必要を感じているとは思えない。

 皇帝が欲しているのはサラライナの支配権だろうと思っていたが、それだけではなく、女としてのレアウレナエーを欲しているように見える。

 高齢の男が若い女にのぼせ上がることもあるというのは、史書に書かれた史実やその他の書物、巷で耳にした噂話などで知ってはいるが、洛帝国の皇帝もそれにあてはまるのだろうか?

 好色でいささか理性を欠く皇帝なら、それがつけ込む隙となるか、それとも厄介となるか。いずれにせよ、過小評価してはなるまい。皇帝本人だけでなく、息子たちや側近たちなど、周囲の者たちの実力もまだわからないのだから。

 

 皇帝への拝謁を終えると正午近くとなっており、レアウレナエーの居所である宮殿に戻ると、軽食が供された。

 洛帝国の正式な食事時間は朝夕の二度だが、それとは別に、正午ごろに軽食を食べる習慣がある。軽食とはいっても、肉や野菜を用いた料理から果実や菓子類まで、品数も量もたっぷりあった。侍女たちにもそれなりの軽食が供された。

 軽食のあと、セウネイエーが迎えの女官に連れられて去っていき、さらにしばらくすると、皇后の使いの女官がきた。ごく私的なお茶の時間に麗蓮妃を招きたいのだという。

 侍女はひとりだけでという女官の言葉で、レアウレナエーはカウリンだけを連れて皇后のもとに向かった。

 皇后宮は皇妃宮よりひとまわり大きく、その一室にレアウレナエーは通された。私的な茶会というだけあって、卓に着いているのは、皇后とふたりの皇妃のみ。とはいっても、皇后にも皇妃たちにも正式に紹介されたことはない。拝謁の場で皇帝の隣に座っているのは皇后、横に並ぶ女たちの中でもっとも上座にいるのが皇妃たちと見当がついたので、ひとめ見て皇后と皇妃たちだとわかったのだ。

 レアウレナエーを含めて四人だけの茶会であり、カウリンは隣接する侍女たちの部屋で待機することになった。

 皇后は、皇帝とさほど変わらぬ年齢と見える。皇妃たちのひとりは皇后と同じくらいの年配。もうひとりは明らかにもっと若いが、レアウレナエーよりはかなり年上だ。年配の皇妃は「梅妃」、若いほうの皇妃は「蓉妃」と名乗った。

「いつもの茶会は、こちらの梅妃様とで、婆ふたりだけのことが多いのだけど、今日は、麗蓮妃様、あなたをお招きするというので蓉妃様にもお声をかけたところ、いらしてくださったの」

 皇后が言うと、梅妃も頷く。

「ほんに、皇后と皇妃、四人そろってのお茶会は久しぶりですなあ。前回は桂妃様が生きておられたときですから、一年近く前になりますか。あ、桂妃様とおっしゃるのは、わたくしより前から皇妃だった方で、半年以上前に病気で亡くなりましたの」

「なつかしいですわ。わたくしには姉のような方でした」

 皇后の言葉からすると、彼女より年上だったのだろう。

「婆ばかりのところに、五年ほど前に蓉妃様が加わってくださり、今回は麗蓮妃様。若やいでうれしいですわ」

 饒舌な皇后と梅妃に対して、蓉妃は口数少なく、にこやかに微笑んでいる。だが、その微笑の翳に一種の険しさがあるのを、レアウレナエーの目は見逃さない。

 人の表情や口調、しぐさなどから相手の心を推し量り、さらには常人にはない力で人の心を直感的に読み取って相手のことを知る。九年前、サラライナが滅亡の危機にさらされたとき、多くの苦難と犠牲の上にそれを退けて以来、強い意志と妹姫の支えの元で培ってきた能力である。

 その卓越した洞察力で、レアウレナエーは、皇后たち三人の人柄や心の内を見て取った。

 皇后と梅妃は、若い頃はどうだったかわからないが、少なくとも今は打ち解けた親密な間柄のようだ。おそらく桂妃が存命だったときには、三人で何でも相談し合えるような関係だったと推察された。

 彼女たちに対して、蓉妃は異色な存在だろうと感じられた。年齢に少なくとも十歳以上の開きがあり、衣服も化粧も華やかではあるが、両者の溝はそれだけが原因ではあるまい。性格や価値観など、心のありように、両者の間には溝があると感じ取れる。

 年配の女たちが若い新参者をのけ者にしているという単純な図式でもない。蓉妃のほうも皇后や梅妃と距離を置こうとしている。年配の女性たちに対する気詰まりさというより、見下して隔意を抱いているように見える。

 そのようなことを考えているレアウレナエーの心は、彼女たちには読み取れまい。だが、それだけに、鋭くて猜疑心の強い者であれば、何を考えているのか読めない人物として警戒するだろう。

 実際、三人それぞれがレアウレナエーの人となりを知ろうと観察しているのが見て取れる。

「ほんとうに美しいお方」

 お茶を飲みながら、皇后がレアウレナエーをまっすぐ見つめて言った。

「あなたを見ていると、子供のころ、亡き皇太后様、当時の皇后様の侍女だった人を思い出します。その人は沙蘭国の出身だったのです」

 思いがけない話に、レアウレナエーは皇后を凝視した。皇后は微笑んだ。温かな笑みだった。

「わたくしは当時の皇后様の姪だったので、よく後宮に遊びに来て、その侍女にも遊んでもらいました。美しくて優しい人で、わたくしは大好きでした」

 皇后は蓉妃のほうを振り向いた。

「彼女のことは、あなたにも話したことがありませんでしたね。婆の思い出話ですけど、聞いてくださいな」

 皇后は再びレアウレナエーのほうを見た。

「子供のころの陛下は、わたくし以上にその方になついていました。でも、わたくしと陛下がともに七つだったときのことですけど、陛下を暗殺しようとした者がおり、彼女が陛下をかばって戦ったのです。おかげで、衛兵が駆けつけたとき、陛下はご無事でした。けれども彼女は深手を負い、その傷がもとで亡くなってしまいました」

 レアウレナエーが生まれるよりずっと前のことではあるが、サラライナ出身の者が異郷で命を落としたという話には心が痛む。王家には民を守る責任があると思っているので、王家が守り切れなかった民がいたと知れば、心を痛めずにはいられない。ふだんは感情をほとんど表に出さないレアウレナエーだが、このようなときには心の痛みが顔に出る。

「その方は、サラライナから攫われてきたのでしょうか」

「子供のころに聞いた話なのでよく覚えていないのですが、たしか幼い頃に母御とともに攫われたと聞きました。県令の養女として皇后様の侍女となったと聞きましたから、おそらく母御とともに県令のもとに売られ、彼女は養女になったのでしょう」

 それならおそらく、母子ともに、貧しくはない暮らしを手に入れることができたのだろう。彼女が命がけで賊と戦ったのが、面倒を見ていた子供を守りたかったからだというなら、救いがある。

「その侍女のことは、陛下の心にかなり美化されて残りました。美しくて優しいだけでなく、気高く、勇敢で、女神のようであり、英雄のようでもあった女人として」と、皇后が言った。

「だからこそ、後宮の女人のなかに沙蘭国出身の人がいれば、侍女でも下女でも強い関心を抱かれました。侍女や下女に手をつけるということはめったになさらない方なのですが、例外として、沙蘭国出身の下女に手をつけたばかりか、公主をもうけて、嬪に迎えたことさえありましたわ。その公主は、あなたの叔父君の花嫁となって、沙蘭国に降嫁いたしました」

「翠芳公主様には、龍陽の街でお会いしました。けなげで勇気があって、すばらしい方でしたわ。叔父と幸せな夫婦になって欲しいと、心から願っています」

「ええ。わたくしたちもそう願っていますわ」

「公主様にお会いしたとき、母御が沙蘭国出身だということはお聞きしました。母御もすばらしい方のように察せられました」

「ええ。とてもよい方です。でも、その方でさえ、陛下を満足させることができなかった。亡くなった侍女があまりにも美化されて心に残っているがゆえに」

「とおっしゃいますと? 公主様の母御は冷たく扱われておられるのですか?」

「お渡りの頻度からいえば、まあ、そうですわね。公主様が生まれたころまで数回お渡りになって、そのあと足が遠のいています。けれども、それがひどい仕打ちかと言いますと……。妃嬪がみんな、必ずしもまめなお渡りを望んでいるわけではありませんし……」

 それは確かにそうだろうと、レアウレナエーは内心で思った。彼女自身も、まめなお渡りなど、ごめんこうむりたい。

「あ、でも、麗蓮妃様。あなたに対しては、そのようなことはないと思いますよ。あなたには、何か、神々しいというか、気高いというか、神秘的というか……、不思議な魅力があります。わたくしは、いまこうして話していてそう感じたのですが、陛下は謁見の場でそれを感じ取られたように思われます。それは、今までにお手付きとなった沙蘭国出身の方々のどなたにもなかったことです」

 それは厄介だと、レアウレナエーは内心で思ったが、もちろん口には出さない。

「あなたについての噂も、美しい方という話はもちろんながら、神々しいとか、神秘的とか、女神様のようだという声が多かったのです。陛下はそれで強い関心を持たれ、皇妃にと望まれたのです。けっして、美女と噂に聞くと自分のものにしたがるお方というわけではありませんのよ。そう言いたくて、亡くなった侍女の話をいたしましたの」

 どんな理由があろうとも、他国の世継ぎの王女を妃嬪にと要求するのは横暴だ。その暴挙はとうてい許容できないが、むろん口に出して批判するわけにもいかない。

「皇后様は、皇帝陛下のことも、亡くなった侍女のことも大切に思っていらっしゃるのですね。わが母国出身の者のことをそのように気にかけてくださり、感謝いたします」

 穏やかな微笑を前に、皇后は彼女の心を読み取ろうと凝視し、あきらめた。心のうちが読めないことにかけては、この新参の皇妃は蓉妃以上だ。だが、蓉妃に感じるような油断のならなさは、麗蓮妃には感じない。謁見の席あたりまではかなりの警戒心を抱いていたのだが、こうして対面で話し、故国から攫われた女たちの災難に心を痛めている様子を見ていると、そのような警戒心は薄らいだ。

 皇后が「神々しい」と評したのは、世辞ではない。本当にそのように感じたのだ。だからこそ、皇帝に悪感情を持って欲しくはない。が、今の思い出話を聞いて、皇帝への心証がよくなったかどうか、彼女の表情から読み取ることはできなかった。

 そこで皇后は話題を変えた。

「そうそう。わたくしたちの皇子や公主たちのことも話しておかなくてはね。わたくしは、幼時に亡くなった子を別にしますと、育ったのは、皇子がふたりと公主がふたり。年長の皇子は皇太子となり、年少の皇子は珂王を拝命し、公主ふたりは嫁いでいます」

 皇后が梅妃のほうを振り向くと、梅妃が言った。

「わたくしは、無事に育った子供は公主がふたりです。ふたりともすでに嫁いでいます」

 次いで、梅妃が蓉妃に目で促す。

「わたくしの子は、皇子がひとりと公主がひとり。皇子は暁王を拝命しております。皇太子様より三つ年下で、麗蓮妃様の道中で騒ぎを起こした巌王様より一つ年上です。公主は暁王より七つも年下で、未婚です」

「巌王の生母は佼虞夫人という方です」と、皇后が言った。

「佼虞夫人は、その名の通り、佼虞から夫人として迎えた方です」

 佼虞というのは、草原の強国キオグハンの洛帝国での呼称である。キオグハンと洛帝国は、国境地帯で何度も戦闘を繰り返しており、和平のために婚姻が結ばれたことも何度かある。そのようにして迎えられたキオグハンの王女か、またはそれに準じる王族の女性なのだろう。

 巌王がキオグハンの血を引いていると知って、レアウレナエーは納得した。声しか聞いていないあの男は、たしかに洛帝国の男より、キオグハンの男に近い気がする。

「年齢順からいえば五番目の皇子は慶皇子といい、生母は尚夫人という方です。慶皇子はまだ五歳で、幼いだけにあどけなくて愛らしく、陛下がたいそうかわいがっておられます。六番目の皇子はまだひと月ほど前に生まれたばかり。生母は嵯柘夫人といい、滅亡した嵯柘王国の王女です」

 皇后たちの会話は隣室で控えている侍女たちにも聞こえていたので、カウリンは思わず振り返って身を乗り出した。

 かつてサラライナで、董玄焔を術にかけたつもりでいたとき、彼は、洛帝国の皇子は五人で、捕らえられた嵯柘王国の王太子と王女が皇帝の寵愛を受けたと言っていた。その術が効いていなかったとわかったので、玄焔の言葉がどこまで事実なのかわからなかったが、いまわかったことにかけては、彼は事実を語っていたようだ。

 玄焔ら使節団が洛帝国を出発したとき、六番目の王子はまだ生まれていなかったので、皇子は五人だった。そして、サシャ王国の王女シウラン姫が後宮に召され、嵯柘夫人と呼ばれているという話も事実だった。

 では、サシャ王国の王太子について彼が語った話は? カウリンの婚約者リクシュン王子が宦官となり、皇帝の寵愛を受けているという忌まわしい話は事実なのか?

 蒼白となったカウリンの様子に、他の侍女たちは驚いた。

「どうなさいました?」

 侍女たちのざわめきは皇后たちの耳にも入り、皇后はけげんそうな顔をレアウレナエーに向けた。

「あなたの侍女ですよね? どうしたのかしら」

「サラライナ王国とサシャ王国は、昔から通婚が盛んです。もちろん、サシャ王国以外の国々とも通婚は多いのですけれど、とくにサシャ王国は周辺諸国の中でいちばん近く、行き来が盛んでした。御存知かもしれませんが、わたくしの生母も、サシャ王国の王家からサラライナに嫁いでまいりました」

「あら。いいえ、初耳です。それなら、わが国が嵯柘王国を滅ぼしたこと、お恨みでしょうね」

「いいえ。母が亡くなったのはわたくしが幼い頃のことですし、サシャ王家の方々とも数えるほどしか会ったことはありませんから、恨みはありません。それに、周辺諸国の王家のほとんどが縁戚ですから、そのどこかが滅ぼされたからといって恨みを抱いていては、国が立ち行かなくなります。ただ、恨むのと案じるのとはまた別です。滅ぼした者を恨むことはなくても、滅ぼされて生死の知れぬ方々の消息は気になります」

 皇后は頷いた。冷たいようで温かく、賢明だと思いながら。

「では、あの侍女は? わたくしの話に驚いているようでしたけれど」

「わたくしの場合よりもう少し近しい遠縁のサシャ人で、生死の知れぬ者がいるようですから、安否がわかるかもしれないと思ったのでしょう」

 皇后に目を向けられ、レアウレナエーが頷いたので、カウリンはおずおずとお茶会の部屋に数歩足を踏み入れ、お辞儀をして奏上した。

「子供のころ遊んだことのある縁戚の者が、わけあってサシャ王国の王宮に住まわっておりました。サシャ王国の滅亡後、音信が途絶えたままなので、案じておりまして、つい安否がわかるかもと思い、お見苦しいところをお見せしてしまいました。申し訳ございません」

 隠し事はしているが、まったくの嘘というわけではない。たしかにシウラン姫とリクシュン王子は子供のころ遊んだことのある縁戚の者であり、音信が途絶えていたのは事実である。

 皇后は、カウリンやレアウレナエーが望んでいた通りの誤解をしてくれた。

「ああ、縁者が嵯柘王国の王宮で働いていたのですね。確かに戦いの後、捕らえられた王族の方々とともに、侍女が何人も同行し、現在、嵯柘夫人や嵯柘太夫に仕えていますけれど。はたしてそのなかにいるかどうか。嵯柘夫人に会って確かめるのがいちばんの近道かと思いますが、ただ、嵯柘夫人が応じてくれるかどうかは何とも言えません。後宮に入った事情が事情ですし、いろいろ複雑な思いがおありのようなので」

「嵯柘太夫に訊ねたほうがいいかもしれませんね。彼は、祖国の滅亡を過去のものとして割り切っているようなので」

 梅妃が言い、皇后が首を横に振った。

「嵯柘太夫は冷静な人ではありますが、それだけに、嵯柘夫人の気持ちに少し無頓着なところがあるように思われます。嵯柘夫人を差し置いて嵯柘太夫に働きかければ、嵯柘夫人を傷つけることになるかもしれません。それに……」

 皇后はためらうように目を伏せた。皇后は、シウラン姫のことは思いやっているが、リクシュン王子にはあまり好感情を持ってはいない。というより、リクシュン王子のことを信用していないようだと、レアウレナエーは推察した。

 だが、皇后としては、確証もなく人を疑うようなことを口にするわけにもいくまい。それで言葉に困っているようだと察して、レアウレナエーは口を開いた。

「そうですね。わたくしも、嵯柘夫人を傷つけるようなことはしたくありません。まずは文を書くなどして、無理強いにならないように、会いたい気持ちを伝えてみますわ」

 皇后はほっとしたように微笑んだ。

「ええ。そうして差し上げて。あの方のことは、痛々しくて、わたくしも心配なのです。あなたに会うことが、あの方のためになればよいと思っています」


 お茶会が終わって居室に戻る途中、蒼白な顔色のまま、カウリンが詫びた。

「申し訳ございません。取り乱して、まずい態度をとってしまいました」

「いえ、結果的に、まずくはないでしょう。これで、シウラン姫と連絡を取ろうとしても、不審がられる心配はなくなりました。皇后様が彼女に同情的だということもわかりました。問題は、彼女がわたくしたちに会おうという気になるかどうかですね。境遇を思えば、放っておいてほしいと思うかもしれません」

 シウラン姫が自分たちとの接触を望まないなら、望みどおりにしたほうがいいかもしれないとも、レアウレナエーは思う。皇子を生んだのなら、その子を愛して、この後宮で生きる道を見つけるのが、彼女の幸せかもしれない。それなら、自分の過去を知る人間に会いたくないかもしれない。

 それに、これからの自分たちの行動のこともある。具体的にどうするのかはまだ決めていないが、できるだけ早くサラライナに戻りたいと思っている。そのために自分たちが動いたとき、シウラン姫たちと親しく交流するようになっていれば、彼女たちを危険にさらす可能性も出てくる。シウラン姫やリクシュン王子を危険な目に遭わせたくはないし、敵にまわしたくもない。

 それは皇后や梅妃についてもいえる。あのふたりには好感を抱いたので、敵にまわしたくはないし、破滅させるようなこともしたくはないと、レアウレナエーは思ったのだった。


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