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「欠けた月、輝く明星」

説明感第二弾。

しっかりと確認できてないので誤字があるかもしれません。

 中庭にはすでに、複数の人の影があった。


 一人はクリストフに剣を指南する、セアモン近衛隊の一人、「紫空のオッターヴィオ」。

 初代ラシーヌ公が生み出した剣術「空剣」の「紫」を持つ、免許皆伝を授かった剣客。

 彼は、高い鼻を持っていて、ちょっぴりとしたヒゲを生やしている。

 背も高くて、剣士らしく背筋がピシリとまっすぐだ。

 腰には紫色の宝石が埋め込まれた剣を持つ。彼が紫空と呼ばれている所以にもなっている。

 


 オッターヴィオはクリストフの存在に気がついた。

 穏やかそうな顔でクリストフに挨拶をする。


 「おや、クリストフ様。お早いお着きで。」

 

 「いや、授業の方が存外早く終わってね。」

 

 「アンナ様ですか。自由気ままな彼女らしいですね。」


 オッターヴィオは木の棒をクリストフに差し出す。

 それは、毎朝クリストフが使っているものだ。

 クリストフはそれを受け取って、木の棒に今日の具合を聞いてみる。

 持ち手はしっかりとクリストフの手に納まった。


 オッターヴィオは、あたりを見渡して、話しかける。


 「少々お待ちください。私の部下ももうそろそろ到着するはずです。」

 

 クリストフは早く着きすぎてしまったらしい。

 木の棒を操りながら、クリストフは答える。


 「わかった、僕は適度に準備運動をしているよ。」

 

 構いませんよ、とオッターヴィオは何処かへ行ってしまった。


 木の棒を使って肩周りの筋肉をほぐす。

 午前中は机に向かって勉強していたので、肩がやや重い。


 あたりには訓練に勤しむ兵士がいた。

 肉体トレーニングや素振り、剣術の確認など多岐にわたる訓練を行なっている。


 セアモン公家の昼頃は兵士の訓練が行われる。

 多くの兵士を抱えるこのセアモン家は、指導する剣士や引退軍人を何名も雇っており、そして多くの訓練を課しているのだ。

 そして武官貴族なために、クリストフやピエールも訓練に参加することになっている。


 本来、セアモン公では炎剣を習うものが多い。

 というのも、初代セアモン公がその炎剣を編み出したからだ。

 しかし、セアモン公は多くの兵士を抱えているため、「炎剣」の宗家でありながら「空剣」を操るものも部隊に取り入れている。

 戦術や戦略にバリエーションを持たせるためだ。

 もちろんラシーヌ公とセアモン公の間柄、というのも大きな要因なのだが。


 「空剣」「炎剣」。そのどちらも偉大なる四人がそれぞれ生み出した剣術。

 この国を建国した王に仕える偉大なる四人の従者がいた。

 セアモン、ラシーヌ、ブラックベス、ローチ。

 それぞれ「炎剣」「空剣」「流剣」「岩剣」を生み出した。


 これらの剣術は神秘を用いたものであり、「体術」と総称されるものの一つ。

 

 体術とは、肉体に対して神秘を作用させ、変化をもたらす。

 その変化は肉体性能をぐっと引き上げる。そして戦闘能力も増すのだ。

 そして、その変化は属性によって特徴が異なるのだが、大まかには法術の属性と同じである。

 

 火は筋肉の作用を増幅させ、

 地は肉体の硬質化、

 風は四肢を柔軟に伸ばし、

 水は運動の精度を上げる。


 そして、その体術を型や戦術としてまとめて体系化したのが剣術である。 



 オッターヴィオの部下たちが集まってきた。

 

「クリストフ殿、お待たせして申し訳ありません。」

 

 部下の一人が頭を下げた。 

 クリストフは、別段気にしていない、と答えた。

 自分が早くきただけなのだから。


 そんな様子を見て、オッターヴィオはわずかに笑みを浮かべた。

 笑みはすぐに消えて、大きく号令をかける。


 「集合!」

 

 クリストフならびに部下たちは背筋を伸ばす。

 先ほどの空気とは別世界だ。

 

 「今日は実践を踏まえた形式で訓練を行う。」

 

 オッターヴィオは指を3本立てる。


 「3人の班を作り、常に1対2の戦闘状態を作れ。1人の者は時間以内まで致命傷を受けないこと。2人の者はいかに呼吸を合わせるのか、それを意識しろ。ではまずは素振り。クリストフ!」


 大きな声で呼ばれたクリストフは、さらに大きな声で返事をした。

 

 クリストフの掛け声のもと、クリストフたちは木の棒を振り上げては下ろす作業に入る。

 その回数は300を超え、筋肉が悲鳴を上げ始め、骨が軋む。

 クリストフの号令を聴きながら、隣の者と息を合わせる。

 その連帯は、一つの大きな炎のようだ。


 オッターヴィオは再び指示を出した。 

 実戦訓練を行うのだ。

 

 オッターヴィオの部下たち総勢11名は皆厳選された兵士だ。

 体術の基礎をマスターし、空剣を習得している。

 クリストフは面子の中でも幼いが、類稀なる剣術の才能を持つ。

 早々に体術はもちろんのこと、自分の祖先がオリジンである空剣も達人の域に達している。


 各員3人組、総勢4班を作り練習に取り組む。

 回し稽古であり、オッターヴィオの号令で編成を変えて練習を続ける。

 

 最初、クリストフは1人だった。

 オッターヴィオの部下たちは目で礼をした後、獣のような眼光でクリストフを睨みつける。

 一回り小さいクリストフにも容赦はしない、彼らは兵士である。

 部下たちは僅かな時間差を利用して木の棒を突き刺す。


 空剣の真髄は刺突。剣でありながら槍のように扱う。

 腕の筋肉を奥へ奥へと意識し、突きに一切のブレを生じさせない。

 重心は地面に垂直に、しかし確実に相手の胴体を射抜く。

 相手は点の動きに対応できず、あえなく貫かれる。


 しかし、クリストフは天才であり、その腕は達人。

 剣先を僅かにずらして、鋭い一線を受け流す。

 次に来る一刺しも難なく払いのける。


 部下たちは、払いのけられた力を利用し、二つの方向へ移動する。

 1人は右、1人は左。挟み撃ちの形だ。

 各個撃破されないように、右に移動するものは常に剣先をクリストフに向けて牽制する。

 

 しかし、敵の目的がわかれば動きを予測できるのも容易い。

 クリストフは、左足を引いて後ろにいるであろう敵に対して斬りかかる。

 大きく振りかぶり、右手を放す。肉体は剣に引っ張られ、放たれた剣は大きく放物線を描く。

 

 突然の攻撃に対して思わず剣の平で守ってしまう部下。 

 クリストフが大きく体制を崩したと睨んで、牽制していた部下は思わず構えを解いて攻撃へ転じる。

 しかし、クリストフは素早く体の向きを変えて剣先を向けた。

 低い姿勢でありながら、攻撃後にもしっかり別の構えになっていたのだ。


 低い相手に有効な攻撃を与えるのは難しく、再び牽制状態に入る。

 そして、2人を再び正面に捉えたクリストフ。


 「ヤメェ!交代」


 ここで号令がかかる。 

 お互いに構えをやめて、今度は別の編成で練習を始める。



 


 「今日は、ここまで。」


 オッターヴィオは整列した部下たち、そしてクリストフに喝を入れる。

 皆泥だらけで、息も絶え絶えだ。

 クリストフの左手の豆も破けて、包帯が血で滲む。


 「明日は、大学の方から客人が来られる。私たちの訓練もご覧になるだろう。その時にはセアモン公の近衛隊として恥ずかしくないように振る舞え、いいか。」

 

 一同は大きく返事をする。


 ふと、クリストフはこちらをのぞいているピエールの姿を見つけた。

 一体どうしたのだろうか、と思っているとそのままどこかへ行ってしまった。



 外はすでに夕暮れだ。

 城壁があるため中庭はすでに暗く、影はひんやりと涼しい。

 クリストフは水をタオルで濡らし、汗ついた体を洗う。

 左手の豆を見ながら、明日の来訪者を想像する。


 今まで、いがみ合っていた教会勢力と大学勢力。

 片や神秘の独占を、片や神秘の研究を。


 それは神秘、法術を巡っての争いだけではなく、思想のぶつかり合いだった。

 考え方の違いで同じ人間同士争う、クリストフはどうにも理解できないことだった。

 


 そんなものより恐るべきものがあるだろうに。



 そんなことを考えながら、左手の包帯を新しいものにする。

 

 空は恐ろしいように真っ赤に染まっていた。。

 東から月が昇る、まだ満月ではなく少し欠けている。

 あと少し物足りないその月が昇っていく。

 

 赤と紫、そして深い青色。

 西には輝く明星に、東には顔を覗かせる物足りない月。


 他愛もない今日の一日。

 明日は一体どんなことが起こるのか。

 僅かな不安と、ほのかな期待が混在する気持ちを落ち着かせ、クリストフは自室へ戻る。

次の投稿は来週を予定しています。

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