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「真実の可能性」

説明会第一弾です。

めんどくさいけど大事なお話です。

 世界とはなんなのか。

 自分とはなんなのか。

 

 そんなことをぼんやり考えながら、クリストフは今日の授業を聞いていた。

 

 世界=神が作った。

 自分=神が作った。


 では自分は神の所有物である。

 でもクリストフは神の存在を知覚することができない。


 いや、知覚できる人間なんているのだろうか。

 もしかしたら神なんていないのかもしれない、絶対なんてないのかもしれない。


 でもクリストフは超越した存在は知っていた。それは知覚していた。


 



 「βガルド」

 自分たちの世界をこう呼んでいる。

 その歴史はαとの戦いの歴史でもある。


 「光あれ」神が叫ばれた。すると世界が生まれた。

 自分たちの先祖は神の庭でのどかに暮らしていた。

 しかし、ずる賢い悪魔が囁いて、先祖は庭から追放されてしまう。

 庭の外には悪しき者がいて、それらは総じてαと呼ばれた。

 αは先祖たちを脅かした。先祖たちなす術なく滅びを迎えてしまいそうになる。


 神はそれをみて、力を与えた。それは光であり真実であり、術である。

 神の術を持って、神秘を操り、奇跡を起こした。

 時には火を持って、時には風を持って、時には水を持って、時には土を持って。 

 ついにはαを打ち負かし、西の洞穴へと封印した。


 のちにその奇跡は、法術、ブラフマと呼ばれるようになった。


 ブラフマは真実を持って術ること。その力はやがて先祖たちを発展させた。


 でも、確かにそのαたちは密かに反撃の機会を狙っていた。





 「クリストフさま、クリストフさま。」


 突然声をかけられて、ふと目をあげる。


 この家に仕えている教師、アンナ・シャトレーヌが心配そうに声をかける。

 金髪碧目の美女であり、クリストフはいきなり声をかけられて驚いてしまう。


 「いえ、その恥ずかしながら思案していたらボーっとしてしまったようで。すみません。」


 クリストフは、なんらなかったかのように振る舞った。

 アンナは美しい女性であるため、声をかけられるだけでもおどおどしてしまいそうだ。


 「そうですか。クリストフさまが居眠りをするなんて珍しいですね。では、そんな悪い子にはこの問題を解いてもらいましょうか。」

 

 と、綺麗な笑顔がクリストフに向けられる。なんだがむず痒い。

 

 教室と呼ぶには小さな個室。しかし個室にしては広い。

 大理石の壁には壁飾りが丁寧に飾られていた。

 花柄の模様が描かれたテーブル。冷たい乳白色で丸みを帯びている。

 枝で編まれたお盆にはクッキーが置かれていて、とても美味しそうだ。


 その教室に、教師(それも美女)とクリストフの二人。

 やはり年頃か、クリストフは嫌にも緊張してしまう。

 

 ふと、アンナが身につけている物に目が止まった。

 それは同心円状の幾何学的模様が美しいペンダントだ。

 クリストフはそのペンダントから目を話すことができなかった。


 「あらあら、居眠りの次は欲しがり屋さんですか?」


 アンナはペンダントを手に持つ。

 クリストフはハッとして、バツが悪そうに口を閉じる。

 

 欲しいというわけではないんだ。と弁明しても、アンナはクスクスと笑ってペンダントを服の中へ隠してしまった。

 あれはとても美しいペンダントだった。


 「先生、そのペンダントは一体?」

 

 「そうね、お守りみたいなものですよ。そんな気になさるものではありません。女性には一つや二つ、謎があってもおかしくはないのですよ。」


  薄く笑う彼女に、クリストフは少々びっくりしてしまった。

 その反応をアンナは楽しんでいるかのようだ。


 授業も終盤になった。

 アンナは、最後に、と一言挟み、


 「法術に関して学んだことを、まとめてください。」


 クリストフは頷く。


 今まで学んだ法術。それを1から復習するのだ。

 一呼吸置いて、クリストフは話し始める。


 法術、神が与えた人間の術。

 そもそもこの世界にはあらゆる可能性が眠っている。

 空気が炎になる可能性、炎の熱で雲ができる可能性、雲から雨が降る可能性。

 それらすべての因子となるもの、それを神秘と呼ぶ。


 「神秘はあらゆる可能性であり、普遍的存在です。」


 しかし、この神秘を操ることは至難の技。

 見えないものを、それも触れることすら叶わないのに、一体どうやって操ることができるのか。 

 法術とは、それを可能にする。

 

 「そう、法術とは真実を持って神秘を操る、神のみ技です。神は私たちにその力を分け与えてくれました。」

 

 真実、つまり神秘によって発生した現象を逆算し、その法則を見つけ出す。

 そして、その法則を頭の中で思い描く。

 人の思い描いたイメージが、より真実に近しいほど神秘は現れるのだ。


「そのためにも、正しい知識を身につけねばなりませんね。」


 アンナは笑いながら、窓のカーテンを閉める。

 カーテンから透き通った光がうっすらと教室を照らす。

 クリストフは深呼吸をした。


 「さぁ、試しに法術をもって正三角形を描いてください。」


 クリストフは頷く。


 クリストフは手を虚空に突き出した。

 思い描くは「正三角形」。

 正三角形の真実とは、「三辺が等しく、それぞれの角度が60度」。

 脳内でそれをイメージする。


 「力を抜いて、あたりにあるのは無限の可能性です。」


 次は神秘の量を確保する。

 神秘が多ければ多いほど、描かれる現象がより具体的にできるのだ。

 神秘は大気中にあれば、肉体にも物体にも眠っている。

 

 「今回はこちらを使うことにしましょう。」

  

 アンナは翡翠色の宝石を取り出した。

 神秘は変化しにくいものに多く含まれている。

 変化しにくいということは、それだけ変化されるだけのエネルギーが込められているのだ。


 「逆に、変化しやすい物質は神秘や想起を伝えやすい効果もあります。」


 宝石が青々と光を帯びた粒子を放つ。神秘が外へと放出しているのだ。

 変わる、変わる宝石の光。透き通った光が宝石の中で移ろいで行く。

 あたりに神秘があふれた頃、最終段階に入る。


 「さぁ、思い描きなさい。」


 あたりの神秘と自身の想起した正三角形を、組み合わせ、同調させる。

 紙に絵を描くように、脳内でイメージされたものを具現化する。


 青い粒子がある位置に向かって移動し始める。

 虚空に突き出した手の先に、ある形を描きながら粒子らが集まっていく。

 磁石に惹きつけられる砂鉄のように。


 ゆっくりと目を開けると、そこには青い線で描かれた三角形があった。

 成功だ。これほど綺麗な三角形を描けたのは初めてだ。

 

 アンナも満足そうにしている。


 「素晴らしい出来です。よくやりましたね。」


 美しいものを想起するのは、想像以上に難しい。

 思い描いた理想を実現するのが難しいように、それを描くこともまた難しい。


 「そう、確かに難しいことです。しかし、これで終わりではありません。次に属性を加えてみましょう。」


 クリストフは言われた通りにする。


 法術には4つの属性を持つ。

 その属性とは、想起する現象の特徴のことを指す。


 「その4つとは、火、地、風、水の4つですね。まぁ、これはあくまで特徴に近しい現象の名前を当てはめているにすぎません。」


 自分の中に眠る、4つの属性を意識する。

 色鮮やかに4つの色が泡立ち、現れる。

 

 そしてそれぞれを分析して、湖に浮かぶ水草をすくい上げるかのように取り上げた。


 「まず、火。これは単純ですね。エネルギーの増幅や破壊、再生の特徴を持っています。」


 心にある、赤くて大きく動くもの、感情が揺さぶられそうになるのをこらえながら、三角に込める神秘をどんどん増やしていく。


 「次に地、錬金術師などが得意としている属性ですね。物質に眠る神秘を見抜いたり、想起する現象を安定させる特徴を持っています。」


 茶色いそれは、暴れそうになる心を鎮めてくれる。

 粒子の一つ一つが繋がれて格子が形成した。

 

 「3つ目に風です。立体、空間の特徴を持っています。その三角を立体的にしてみてください。」


 緑色が、奥へ奥へと向かっていく。それをしっかりとリードを携えて制御する。

 正三角形は三角錐へと変化していき、奥へ引っ張っていくのだ。

 これはしっかりとイメージすることができ、伸び伸びストレッチをするかのように、まるで柔らかいものを操るかのように、伸ばすことができた。


 「最後に水。川上の岩は降るごとに削れていき、小さな丸石へと変わります。神秘を精密に操ることができます。角を削って仕上げなさい。」 

 

 直線や角をヤスリで磨くようにイメージする。

 少しでも加減を間違えれば完成した三角が崩れてしまいそうだ。


 正三角形は生き物のように動いていたが、属性を加えるたびに落ち着きをもち始める。

 

 その状態を数分維持する。

 感情に負担がかかるのを自覚する。

 不安定になるそれを、落ち着かせた。


 少しして、アンナが宣言した。


 「はい、完成です。お疲れ様でした。」

 

 アンナの言葉に安心したのか、クリストフは脱力して粒子を解放させた。

 青い粒子は、儚く大気に拡散する。


 アンナはカーテンを開けた。

 

 外からの陽光の光で教室が満ち溢れた。

 窓の外には草原があって、水水しい緑に満ち溢れている。

 


 アンナはクッキーを差し出した。

 クリストフは、ゆっくりと受け取る。

 柔らかい、薄く苦味があるもののとても美味しい。


 「では、クリストフ様も次の訓練があるでしょう。今日は早めに終わりましょう。」


 アンナは自分の資料を整えて、スタスタと何処かへ行ってしまった。


 その後ろ姿を眺めながら、再び窓の外へ目をやった。

  

 この場所に来て、一番のお気に入りのスポットだ。

 アンナがいるからではない。この風景を観れるだけで生きていてよかったと思えるのだ。

 

 両親の話、自分をここに連れてきてくれた兵士の話、それらの話を聞いても何も感じなかった。 

 その話を聞いても何も感じない、しかし、何かが足りないことは感じていた。

 でも、きっとあの草原はきっとその何かを持っているのかもしれない。

 そう、漠然と考えている。


 次は剣術の指南を受けなければならない。

 クリストフは大きく伸びをして中庭へ向かった。

説明会第二弾へと続きます。

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