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キョンシー  作者: 諸橋カムイ
【序章】
9/60

9

───そこは、行けども行けども終わりのない、とてつもなく長い階段であった。


 沓音(くつおと)が不調和に壁にこだまし、湿り気を帯びた空気と交じりあって、韻々(いんいん)と不吉に響き渡る。


 地上の光がまったく届かなくなるまで、さして時間を必要としなかった。揺らぐ松明(たいまつ)の明かりが()ちた土壁を真闇の中に浮かびあがらせ、ヤモリやムカデが(ひかり)のゆらめきに驚いて巣に引っ込む。


(さすが(しょく)の英雄。誰にも暴かれないような墓で眠っている)


 満月(みちつき)はつい独語(どくご)する。


 その濃さを増す瘴気(しょうき)にやられ、さきほどから総毛(そうけ)立っているのがわかったからだ。


(……暴かれないような、ではなく、暴けないのだ)


───(とう)太宗(たいそう)配下の薛仁貴(せつじんき)の得物「方天画戟(ほうてんがげき)」を求め、彼の霊廟に踏み込んだときもそうだった。


「あぶない!」


 叫ぶか早いか、満月は用心のためにと手にしていた鎖鎌(くさりがま)をすばやく羅不破(ラファン)の太い首にからめ、力いっぱい引き寄せた。


 潰された蛙の声のような呻きを発して仰向けに転がった羅不破が、起きあがりざま抗議の声をあげようとした。


───だが、その声帯が麻痺する。


 彼が踏み出そうとした、その次の段が「闇」になっていた。


 さきほどまでなかった大きな穴が、そこに存在する。


(そうさ、盗掘(とうくつ)を試みた者は何人もいただろう。だが墓をあばけた者は一体何人いただろうか。みんなひっかかっちまったんだよ「まぬけ落とに」に……)


 満月は頭が痛くなってきた。


 薛仁貴の霊廟の下にも、同じような墓窟(ぼくつ)が隠されていた。


 そこでは、天井から無数の毒蛇が降りそそぎ、壁からは鉄の大釘が飛び出してきた。


 お宝の方天画戟を手にした途端、どういう仕組みになっていたのか、床から炎が吹き上げて地下廊を席巻。


 (すす)とほこりと汗にまみれ、命からがらやっとのことで逃げ出せたとき、満月は叫んだ。


「もう二度とこんなことするもんか! 絶対にやめる! 今すぐ京師(みやこ)に帰る!」


 と。


───だが、羅不破は言い放った。


「ほらな、宝はあっただろ」


 懲りないどころかさらに意気衝天(いきしょうてん)、その足でここ定軍山(ていぐんざん)に向かったのだった。

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