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───そこは、行けども行けども終わりのない、とてつもなく長い階段であった。
沓音が不調和に壁にこだまし、湿り気を帯びた空気と交じりあって、韻々と不吉に響き渡る。
地上の光がまったく届かなくなるまで、さして時間を必要としなかった。揺らぐ松明の明かりが朽ちた土壁を真闇の中に浮かびあがらせ、ヤモリやムカデが灯のゆらめきに驚いて巣に引っ込む。
(さすが蜀の英雄。誰にも暴かれないような墓で眠っている)
満月はつい独語する。
その濃さを増す瘴気にやられ、さきほどから総毛立っているのがわかったからだ。
(……暴かれないような、ではなく、暴けないのだ)
───唐は太宗配下の薛仁貴の得物「方天画戟」を求め、彼の霊廟に踏み込んだときもそうだった。
「あぶない!」
叫ぶか早いか、満月は用心のためにと手にしていた鎖鎌をすばやく羅不破の太い首にからめ、力いっぱい引き寄せた。
潰された蛙の声のような呻きを発して仰向けに転がった羅不破が、起きあがりざま抗議の声をあげようとした。
───だが、その声帯が麻痺する。
彼が踏み出そうとした、その次の段が「闇」になっていた。
さきほどまでなかった大きな穴が、そこに存在する。
(そうさ、盗掘を試みた者は何人もいただろう。だが墓をあばけた者は一体何人いただろうか。みんなひっかかっちまったんだよ「まぬけ落とに」に……)
満月は頭が痛くなってきた。
薛仁貴の霊廟の下にも、同じような墓窟が隠されていた。
そこでは、天井から無数の毒蛇が降りそそぎ、壁からは鉄の大釘が飛び出してきた。
お宝の方天画戟を手にした途端、どういう仕組みになっていたのか、床から炎が吹き上げて地下廊を席巻。
煤とほこりと汗にまみれ、命からがらやっとのことで逃げ出せたとき、満月は叫んだ。
「もう二度とこんなことするもんか! 絶対にやめる! 今すぐ京師に帰る!」
と。
───だが、羅不破は言い放った。
「ほらな、宝はあっただろ」
懲りないどころかさらに意気衝天、その足でここ定軍山に向かったのだった。