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キョンシー  作者: 諸橋カムイ
【序章】
6/60

6

「これはだめだ……これも、だめだ」


 扉を蹴り破り入った霊廟の中は、あまり大きくはなかった。木棺を中心に副葬品が()えられていた。さっそくそれらをひとつひとつ手に取って羅不破(ラファン)は品定めする。


 しかし、どうやら彼の目にかなう物は見つからないらしい。


 羅不破が投げ捨てる埋葬品の数々を満月は手に取った。


 (へき)や宝剣などの高価なもの───満月から見たら───に混じって、諸葛亮(しょかつりょう)をかたどった木の面や人形があった。当時の領民たちが大軍師を(した)って作ったものであろう。


 拾いあげた人形は、足裏から伸びた棒を引くと手を上げ下げするからくりが仕込まれていた。


───赤面夜叉(あかおに)が叫んだ。彼は数百年のほこりが堆積(たいせき)した棺にすがりつく。羅不破が開こうとするのをやめさせるつもりらしい。


 羅不破は醜悪な顔をさらに醜怪に(ゆが)ませると、赤面夜叉を仰向かせ、一言も発せず、一言も発せさせぬ間に腰の剣を抜いて胸に突き立てた。


(やっぱり)


 意外に早く予言が的中したが、満月は眉ひとつ動かさない。


 羅不破と旅をしているとこのような場面を幾度と見ることになる。もう慣れた。あまりいい気はしないが。


 胸に朱の大輪(はな)を咲かせた赤面夜叉を払いのけ、棺を開けた羅不破は怒号とも悲鳴とも言えぬ奇声で廟堂(びょうどう)を震わせた。


 棺の中には諸葛亮の遺骸(いがい)ではなく、座った姿の像が一体収まっていただけであった。


「なんだこりゃ? こんなものを探しにきたんじゃねぇ、クソっ!」


 京師(ちょうあん)では知らぬ者はいない名士とは思えぬほど口汚くののしり、そこらじゅうに唾を吐き出す。


 さんざんに罵詈(ばり)と失望を噴出すると刀を振りあげ、像をかち割らんとする。


「待ってください。これは綿竹関(めんちくかん)諸葛贍(しょかつせん)鄧艾(とうがい)の軍勢を引かせた奇策に使った木像ではないでしょうか?」


 (しょく)の諸葛亮が死んだ、との報を得て、大軍を持って攻め込んできた()の将軍鄧艾に対し、亮の子諸葛贍は亡き父に似せた木像を輿(こし)に乗せ、前面に押し立てて、いまだ諸葛亮存命と偽装。諸葛亮の智謀を恐れた魏軍に一時兵を退かせた。


「死せる孔明、生ける仲達(ちゅうたつ)を走らす」


───「三国志」を語る講談師たちに人物も時代もさんざんに脚色されてはいるが、実際にあった話であり、それに用いられた「歴史的宝」である───はずなのだが、


「で、誰がこれを運ぶ?」

 と、言いざま羅不破は木像を両断した。

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