08話 小学校へ来たる魔法少女
日も暮れかかる夕方頃。
オレはラビットシューズで跳ね回り、襲い来る獣を撃退しながら小学校への道を行く。小柴は自転車でオレのあとをついてくる。
「森欧小か。久しぶりだけど相も変わらずド田舎にあるな。畑の中にあるんだよね」
「久しぶりって………アリアちゃん通ったこととかあるの? なんか道とかも知っているみたいにスイスイ行くし」
「ま、まぁその辺は聞かないで。それにしても、この辺はあんまり一つ目は出てこないないね。出てくるのも狼型のものだけだし」
進むこの小学校の道には一つ目モンスターは散発的にしか出てこない。
道を歩けばあっという間に”一つ目”に囲まれた高校の辺りとはえらい違いだ。
そういえばオレが殺された場所にいたのも、出てきたのはオレを殺した狼型の一匹だけ。それ以来、街に戻るまではまるで出てこなかった。
もしかして人がいない場所ほど、”一つ目”は数が少なくなるのか?
「本当に高校のと比べると全然数が少ないね。これなら早めに避難できてれば真奈美も健児も無事かもね」
小柴は嬉しそうに言って道を急いだ。
◇
日も暮れかかる頃にたどり着いた森欧小学校。
その校庭には、一つ目モンスターが十数頭ほどがウロウロしていた。
ただし狼と虎の四つ足タイプだけ。その他のタイプは見当たらなかった。
そしてそいつらはオレ達を目ざとく見つけると、やはり襲いかかってきた。
「やっぱり数が少ない。種類も虎と狼だけだし。やはり田舎ほど”一つ目”は少なくなるみたいだね」
「ちょっ! アリアちゃん前に出すぎ! 囲まれたら迎撃が間に合わなくなるよ!」
小柴の言葉にもかまわず、スタスタとさらに前に出る。
魔法少女バトルにこだわらなければ、もっと簡単にかたづける方法を思いついたのだ。
「プラチナクレッセント・ロンギヌスモード!」
プラチナクレッセント・ロッドはもともと魔法で作り出した武器。その形状はオレの空想次第でいくらでも形を変えられる。
だからそれを10メートルほどの長さにまで伸ばした。
そしてそれで半円を描いて一閃!
一薙ぎで十数頭はそのまま消滅した。それを数回繰り返すと、やがて校庭に一つ目モンスターは一頭もいなくなった。
「…………本当に簡単に消しちゃうね。どうやってやっているの?」
「魔法を説明するのは難しいのよ。それより、どうやら生きている人達は校舎の上の方にいるみたいね」
校舎の3,4階部分の窓に明かりがついており、そこから何人もの子供達がこちらを見下ろしていた。
ここには四つ足タイプの”一つ目”しかいない。
壁を登ってきたり怪力でバリケードを破壊してくるような厄介なタイプがいないから、出入り口をふさいだだけで防衛ができたのだろう。
「真奈美~! 健児~! 無事? 生きてる~?」
小柴が校舎の上に声をかけると、「お姉ちゃ~ん!」と、男女の幼い声が返ってきた。
あそこで手を振っているのが小柴の弟妹か。二人揃って無事だったんだな。
高校の惨状を考えると本当に運が良い。
「小柴、つかまって。あそこまで跳ぶよ」
小柴のからだを引き寄せ、しっかり腰を支える。
「え? アリアちゃん? うわっ!」
そのまま校舎4階のベランダまでジャンプ!
手すりに華麗に飛び乗ると「おお~~っ」と歓声がおこった。
「昏き闇夜を照らすは気高き三日月の光。月の光に導かれクレッセント・アリアここに推参!」
華麗なポーズをきめると、さらに歓声があがる。
たった一日ですっかり条件反射になってしまったな。
「すげぇ~~! 本物の【クレッセント・アリア】だぁ! ハッ! 姉ちゃんがアリアを連れてきたってことは………ッ?」
「お姉ちゃん、やっぱり【サンライトみちる】だったの!? 私たちにも内緒で、人知れず魔界の魔物と戦っていた!?」
そう言えば小柴の名前は【未散】だったな。それが【クレッセント・アリア】を連れてきたんなら、こりゃ勘違いされてもしょうがないな。
「だから違うって! あれはアニメ。現実じゃないの! いや、なぜか本物のアリアちゃんはいるけども! あたしは違うから!」
すると児童の中からおずおずと大人の女性が出てきた。服装から見てここの教師だろう。
「あの、すみませんがあなた方は?」
「ああ、先生ですね。はじめまして。あたしはこの真奈美と健児の姉です。二人が心配になったので、学校に迎えにきました」
「小柴くん達のご家族……ですか。しかし猛獣だらけの道を通ってきて? それに校庭からここまで飛び上がってきたように見えましたが? あの奇妙な服を着たお嬢さんは?」
奇妙なのは服だけじゃないだろうに、実に大人らしい控えめな表現をする人だ。
「ええ。あたしも上手く説明できないんですが、アニメ【マジマギ天使みちる】のクレッセント・アリアちゃんなんです。何故か現実にいて、一つ目モンスターとかも簡単に消滅させちゃうんです。おかげでここまで無事に来れました」
「はぁ………あの猛獣を何とかできるんですか。警察でもどうしようもなかったアレを。では、出入り口や校舎内にも猛獣がいて出られないんです。それも何とかしていただけないでしょうか?」
「アリアちゃん、お願い」
小柴め。まったくオレを安く使いやがって。
しかたないか。魔法少女として登場した以上は、小柴の弟妹だけ助けて帰る、なんてできないしな。
ただ美織里ちゃんに喜んでもらいたかっただけで、こんな恰好をしたんだがな。
「まかせて! 聖なる三日月の光は、今宵子供達のために輝きますわ♡」
魔法少女営業スマイルでポーズをつけて宣言するとヤンヤヤンヤの大喝采。
ベランダから華麗に飛び降り一度校舎から出る。
入り口から再び校舎に入り、そこらにたむろしている一つ目モンスター相手に、またまたロッドを振り回して無双する。
すっかり手慣れた感じで校舎中を隅々までまわって獣を消していく。
ようやく校舎内の一つ目を全部消して戻ると、またまた小柴が新しい要求を言い出した。
「ねぇアリアちゃん。解放されたのはいいけど、みんなお腹がすいているみたいなのよ。朝の襲撃から籠城して何も食べていないから無理もないけど」
「…………ちなみに、何人分くらいの?」
「避難している児童は150人くらいだって。あと、先生とか警察とかの大人が30人くらい」
「そこまで面倒みきれないわよ! そんなの私にどうしろって言うのよ!」
「学校から少し行ったところにコンビニがあったから、そこから拝借しようかと思うの。ただ、そこまで行く間にやっぱり獣が出るかもしれないからアリアちゃんについてきて欲しいんだ」
簡単に言うが、それだけの人数の食料を持ってくるのはかなり大変だぞ。
考えるだけで重労働になりそうなのに、小柴はまるで気にもせず働く気まんまんだ。
正義の心なんてまるでないオレよりよっぽど魔法少女だね。魔法が使えないだけで。
結局、オレは食料調達に小柴と教師二人とで出かけることになった。
校庭に出てみると、もうすっかり夜になっていて道は暗い。
『いっそ闇に紛れて逃げてしまおうか』なんてクズな考えが頭をよぎる。
「あれ? 車が来るよ。あれって装甲車ってやつ?」
小柴の言う通りゴツくて戦車みたいな車が道の向こうからライトを照らしながら現れ、校庭にとまった。
結果としてオレ達は食料の調達に行く必要はなくなった。
その車には食料が積まれており、奴らはそれを届けに来たのだから。
ただし、その車には食料だけじゃなく、オレにとって厄介な人間まで積まれていた。
高校でのオレの活躍で、オレに興味をもった警察官。
それも地元ではなく東京の警視庁所轄のエリート警視さんだそうだ。