06話 ボーイッシュ少女のお願い
連休を小説書くことに費やして毎日更新をしましたが、仕事が始まるので今日までです。不定期にですが、当分はこれを書いていきます。(ハーメルンでも二次の連載を書いているんですが、そっちはお休みしています)
森欧高校階段付近。
ここには机や椅子で作られたバリケードの前に、警察官二人がジュラルミン盾で守り、一つ目動物の侵入を懸命に阻んでいた。
先頭にいる獣は大型の熊タイプ。見た目通りの怪力にて何度も突進をくり返しているが、信じられないことに警察官二人はそれを何度も阻んでいるのだ。
――――ドッゴォォ!!!
「グッ! バカ力め。よく『熊みたいだ』と言われてはいたが、まさか本当に熊と力比べする日が来ようとはな」
「飯塚先輩。大丈夫ッスか? なんか汗すごいッスよ」
「…………骨がいくつか逝ってしまったようだ。熱も出てきた」
「ハァ。さすがの飯塚さんもそろそろッスか。俺らこんなにがんばって意味あるんスかね? どうやら別ん所が破られて、もうケダモノは中に入られてしまったようですし」
「さぁな。だが、どのみち俺達もこいつらの腹の中におさまるのは時間の問題だろうよ。だったら命令に従い警察官らしく分かりやすい死に方をすることにする」
――――――グワシャァァ!!
「――くうッ! 日本は………いえ、人類はどうなっちまうんスかね。こんなに殺されて、こいつら殺せる方法も見つかンなくて」
――――ドゴォン!!
「――グッ! ……さぁな。だが、もうすぐ人生終了だ。幸せなおとぎ話でも信じて逝け。『人類も日本も滅びない。きっと未来にこいつらを殺せる方法は見つかる。だから人類は滅びないし、日本もまだまだ続く』ってな」
――――ガァンッ!
「カハッ! ………それはいいっスね。残念なのは、それをこの目で見られないことッスかね。仲間殺しまくったコイツらが死ぬところ、見てみたかったッスよ」
「俺もだ。さあ最後まで踏ん張れ。警察の意地を…………」
その時だ。背後の机が一部取り去られていく。中にいる者がバリケードを崩しているのだ。
「おいっ! 何をやっている!? 見てみろ! 獣が侵入しようとしているんだぞ! いったい………」
――――タンッ!
その崩された一角から、小柄な女の子が飛ぶように出てきた。
そして大柄な飯塚の肩を踏み台にして飛び越え、目の前の熊のバケモノめがけて、手に持っているロッドで「コン」と軽く突っついた。
ボシュウウッ!
「なっ………なんだと!?」
驚くべきことに、大型ライフルの弾丸を数百発うけても平気だった恐るべき不死身な一つ目のバケモノが、簡単に消滅してしまったのだ。
さらに少女は後ろに続くバケモノの中に飛び込み、ロッドを振り回す。
ボシュゥッ!! ボシュゥッ!! ボシュゥッ!!!
それらも同様に次々と消滅していく。
同僚の警察官を何人も殺害し腹の中におさめてきた一つ目のバケモノは、あっけなく全滅してしまった。
「輝く聖なる三日月の前に魔物の住まう場所なし! ブロークンヘイトども。おとなしく魔界にお帰りなさい!」
やたらヒラヒラした服を着た少女は、バケモノを全て消滅したあと妙なポーズをきめてそう叫んだ。
後ろにいる護衛対象の生徒達はそれに喝采をおくる。
警察官二人は、それを呆気にとられて見ていた。
◇ ◇ ◇
バケモノ退治のあとにはキメポーズ。
ギャラリーの手前、これをやんなきゃ納まりがつかない。
それにあわせて「ワアアアアッ!」と大歓声。
人を襲う危険なバケモノのいる場所だというのに、ついてきてオレとのバトルを見たがる物好きがけっこういるのだ。
「バケモノが消滅した!? おい君! 君は誰なんだ? バケモノをどんな方法で消してしまったんだ!?」
助けた警察官たちからはお礼もなしに質問ぜめにされる。
ああ鬱陶しい。だから助けたくなかったのに。
「ごめんなさい。私のことも魔法のことも秘密なんです。詳しいことはアニメ【マジマギ天使みちる】全48話を見てね♡」
前後が盛大に空中分解したセリフを残しさっさと行く。
結局、学園内にいる一つ目のバケモノを全て倒さなけりゃならなかった。
まぁとにかく終わった。これでやっと美織里ちゃんと話せるってもんだ!
――――――と思ったのだが。
【クレッセント・アリア】のバケモノ退治に感動したファンの子たちに囲まれるし追っかけられるしで、美織里ちゃんに会いに行くどころではない。
結局、校舎裏庭のところまで逃げてそこに隠れている。
それにしても隣の体育館は血のにおいが凄いな。ここでも何人か死んだのか。
だが、人目を避けてきたここにもまた、誰かが訪れてきてしまった。
「運が良かったよ。アリアちゃん探してたら、偶然こっちに行くのが見えたからね。安心して。誰にも言わないから」
それは髪を短く切った、ちょっと筋肉質で活発そうな女の子だった。
たしか教室で戦っていたとき、美織里ちゃんの側にいて仲良くしていた。
「君は美織里ちゃんの友達の子だよね。たしか【小柴さん】だったかな? 美織里ちゃんはどうしてる?」
「あたしの名前は小柴未散。警察の人がクラスにアリアちゃんのことを事情聴取にきたからね。クラス全員それにかかりっきりになってるよ。当分は解放されないかもね」
「そっか。美織里ちゃんと話せないんだったら帰るかな。これ以上ここにいて、誰かに追っかけられるのもイヤだし」
「……………アリアちゃんって間宮さんと、どういう関係? なんか端から見てても、すごく気にしているように見えるけど」
「ふふふ詳しくは言えない。ただ、美織里ちゃんは私にとってすごく大事な女の子だとだけ言っておこう」
「ああ、なんだ。要するに好きなんだね。間宮さん可愛いもんね」
「バッ!………た、たしかに美織里ちゃんはすごく可愛いけど! 美織里ちゃんが大事なのは……ゴニョゴニョ………だからであって、まさかゴニョゴニョ………同士でそんなわけないじゃない!」
「典型的なそっち方面の子の反応だね。慣れているし、別にそれがどうだって言わないから言い訳とかいいよ。それよりあたし、アリアちゃんに頼みがあって来たんだ」
「そう言えばクラスで警察の事情聴取やっているのに、君はここにいるね。抜けてきたの?」
「うん、アリアちゃん。あのさ、これからあたしと森欧小学校へ行ってほしいんだ。そこにあたしの弟と妹がいるんだけど、この分じゃどうなってるか心配で」
「あ~ゴメンね。もう今日は魔法少女は営業終了なの。魔法少女って重労働だから、働き過ぎは体に毒なのよね」
「…………やっぱりここに来たのは、『正義のため』なんかじゃなくて『間宮さんだけのため』だったんだね。間宮さんとしか話したがらなかったから、そんな気はしてたけど」
「話が早くていいな。そうなのよ。ゴメンね、うそんこ正義の味方で。それに小学校だって今から行っても、どうせみんな殺されているよ」
「そんなこと…………っ!」
小柴は何か叫びそうになったが、言葉を止め「フゥゥッ」と深呼吸をして言葉を飲み込んだ。
「あたしね。間宮さんと友達なの」
「そうみたいだね。美織里ちゃんと仲よさそうだし」
「もし弟と妹を助けてくれたら、間宮さんとの仲を取り持ってあげる。間宮さんと話したいとき、連れ出すこととかもしてあげる」
いや取り持つもなにも、オレと美織里ちゃんは兄妹…………だったんだけど。
そういやオレはアリアになっちまったんで、話せるきっかけを作るために魔法少女のフリなんてしてるんだったな。
…………………仕方ないか。
いずれ美織里ちゃんにはオレの正体を明かすつもりだが、そのとき二人っきりになれる状況を作るなら、協力者はいた方がいい。
「わかったわ。行ってあげる。でも向こうへ行って無駄だったとしても、ちゃんと美織里ちゃんとのことはやってもらうわよ」
【魔法少女クレッセント・アリア】現代モンスタークエスト第二の冒険。
【幼い児童を救え! モンスターの巣窟と化した森欧小学校へ挑む!】はここに幕を開けたのであった。