05話 魔法少女現る
タイトルがくどいような感じがしたので少し変えました。とまどった方、申し訳ありません。
校舎前につくと、壁際にたくさんの猿型のバケモノが這い上っていくのが見えた。
こりゃヤバイと、ラビットシューズで跳んで侵入された窓から入ったが、まさに今美織里ちゃん危機一髪のシーンだった。
電光石火でバケモノを消滅! そして登場ポーズ!
やれやれ。まさか本当にアニメみたいな登場になるとは思わなかったな。
警官隊が守っているんで大丈夫だと思っていたが、こりゃこれからは警察もアテにできねぇな。
さて、こうしてかっこよく魔法少女ポーズをきめている間にも、次々窓やら扉やらからバケモノは出てくる。もっと美織里ちゃんがオレに感動している顔を見ていたかったが、いいかげんバトルシーンにはいろう。
「受けなさい!正義のプラチナクレッセント・ロッド!」
バシュウッ! バシュウッ! ボシュウッ!
ロッドをふるい、手当たり次第にバケモノどもを消していく。
なにしろロッドがふれただけで消えるのだ。
適当にふりまわすだけで勝ててしまう。
「すごい! クレッセント・アリア強い!」
「本物の魔法少女だ! 警官でもかなわなかったバケモノが、あんなに簡単に!」
「がんばれクレッセント・アリア――! みんなやっつけてー!」
うおっ声援すげぇ。そうか。魔法少女ってアイドルだったんだな。
とくに美織里ちゃんの声援が嬉しい。感動で泣きそうだ。
よしっお兄ちゃんがんばっちゃうぞー!
「いくらでも来なさいブロークンヘイトども! クレッセント・アリアがいる限り、みんなには指一本ふれさせないわ!」
今のオレは【クレッセント・アリア】! 罪なき人々を脅かす魔物ブロークンヘイトを倒す正義の魔法美少女戦士!
ぶっちゃけ美織里ちゃん以外はどうでもいいんだけどね。
【クレッセント・アリア】として登場した以上はそれらしく戦わないと、とんだ変態だからな。仕方がない。
バシュウッ! ボシュゥッ!! バシュウッ!
ロッドを振り回し、突入してくる一つ目のバケモノをことごとく消滅させる。
ラビットシューズで跳ね回り、観客を襲おうとするバケモノを優先的に消していく。
無限にもわいてくると思われたバケモノどもは、やがて窓からも扉からも出てこなくなった。
やれやれ、やっと打ち止めか。疲れているけど、最後のシメだ。
腰に片手を添え、片手はロッドを手前につきだし、ポーズをきめる。
「邪悪なるものたちよ。この世界に汝らの住まう場所なし! この正義の魔法美少女戦士【クレッセント・アリア】がいつでも相手になるわ!」
瞬間、「ワァァァッァァッ!」と大歓声。
見ると、最初に見たときよりも遙かに人数が増えている。
ああそうか。他の教室から逃げてきたんだな。
「すごいすごい! アリアちゃん! 本当にいたんだね!」
戦闘が終わると、美織里ちゃんが一番に駆け寄ってきた。うおっ、今まで見たことないくらいキラキラな顔している。
「お兄ちゃんが大ファンなんです! 今度会ってください!」
…………どうやって? オレの体はもう死体だぞ。
「ほかの魔法少女の子はどこにいるんですか? みちるちゃんとユカちゃんとほのかちゃんは?」
「え~と、みんなまだ見つかってないのよ。私だけ覚醒したから、美織里ちゃんを助けにきたの」
「え? どうして私を? それに何で私の名前を知っているんですか?」
ヤバイな。細かい設定とか考えないままクレッセント・アリアになってきたけど、早速答えにつまってしまった。
いや! でもこんな可愛い顔の美織里ちゃんと話せるんだ!
我が頭脳よ。人間コンピューターと化せ!
全力で設定を今、考えるんだ!
「ちょっと! 間宮さん、そんなことやってる場合じゃないよ!」
「あ、小柴さん」
いきなりボーイッシュな女の子が話に割り込んできた。
なんだ、この子。美織里ちゃんとのトークに水をさして。
美織里ちゃんと話すこと以上に大事なことなんて、この世のどこにある?
「アリアちゃん、バリケード前でまだバケモノと戦っている警官の人がいるの。悪いけど、その人達を助けに行ってあげて」
はぁぁぁぁぁぁ~? 何でそんなことしなきゃなんないの?
美織里ちゃん以外は助ける義理なんてないんだけど?
勝手に戦わせてりゃいいだろ。仕事だし。
「ごめんね小柴さん。たしかにまだブロークンヘイトに苦しむ人達がいるなら、アリアちゃんは行かなきゃなんないんだよね。正義の魔法少女だもんね」
「ええっ!? あ、いや実はもうすぐ変身時間のリミットがきちゃうんで、その、あの、だからゴニョゴニョ……」
「がんばってアリアちゃん! 警官のみなさんを助けてあげてね!」
「まかせて美織里ちゃん! 私の正義の心は魔物に苦しむ人達を見捨てない!」
――――――この無垢な妹の瞳にこたえない兄がいるだろうか?
いや、いない!
オレを取り囲んでいた人の輪は、大きく道を開けた。
「がんばれクレッセント・アリア! みんな倒しちゃえ!」
「頼むぞ魔法少女! 世界を救ってくれ!」
「魔物をたおして! 平和を取り戻してください!」
みなの熱い声援を受け、オレはラビットシューズで大きく跳ぶ。
そして全速力で無駄仕事に出かけたのであった。