最終話 大きな樹の下で
気がつくとそこは、前に見たアリアの故郷の集落の祭壇だった。
オレは元の東司の姿になっているし、目の前にはアリアもいる。
「ここは君の夢の中だよな。体の方はどこにあるんだ?」
「祖神さまの中です」
「……………? 意味がわかんないんだけど」
「祖神様は樹木の身へとかえりました。大きく傷ついた私の体を治すための魔力を得るために、その中へ身をおさめたのです。いま私たちは樹木の中で魂のみとなった状態です。」
「そっか。体が治ったら君は生き返れるんだな。君の体だということを忘れて無茶やっちまった。申し訳なく思うよ」
これでオレはお役ごめんか。
残してきた人達を思って未練を感じる。
「東司さん。あなたはまだ生きたいですか?」
「え?」
「私の体でよろしければ、帰してさしあげられます。どうです?」
「それって君の体をオレにくれるってことか? 君はどうするんだ」
「故郷に帰れない私に行く場所なんてありません。このまま祖神さまの側へとあります」
少しだけオレは考えた。
美織里ちゃんや裕香が心配しているだろうと、思い至った。
そして小柴に、帰る約束をしたことも思い出した。
少しだけ彼女を救えない罪悪感を感じて。
それでも言った。
「ありがとう。オレは戻るよ」
◇ ◇ ◇
世界中で人類を襲った一つ目の獣たちは、その日の夜明けと共に薄れていき、やがて全て消滅した。
世界の人口は大きく減衰し、なかには消滅した国家も数多くあった。
その中で日本は国家の中枢の機能をどこよりも維持し、獣災害を終わらせたことでその存在をおおいに高めた。
将来的には世界の復興の支援の中心となっていくだろう。
――――――数日後
「災厄の終わり、か。本当に魔法天使は平和をもたらしたんだね。アニメみたいな話だね」
あたし、小柴みちるは、あちこちで活発に働いている人達の姿をみてそんな感想をもった。
そして最後の戦いの中で生えた大樹へと来た。
ここは重要調査区域に指定されていたが、森欧町へ帰る前日に特別に見学することを許されたのだ。
最後にアリアちゃんが戦った場所だということで、その大樹に彼女への思いをはせた。
「結局、帰ってこなかったね。ダメだぞアリアちゃん。ウソついちゃ」
彼女のかわりに大樹にグチを言う。
「みんなに何て言えばいいの? こんな風にいなくなっちゃうなんて」
美織里も、裕香ちゃんも、その妹の睦美ちゃん比奈子ちゃんも、あたしの妹の真奈美も、弟の健児も、みんな森欧町で待っている。
「本当に………本当に何も言わずに魔法の世界へ帰っちゃったの? ねぇアリアちゃん」
あたしの質問に答える者はなく、ただ風が吹いているだけだった―――――
――――ピシッ
ふいに、大樹からそんな音が聞こえた。
見ると、表皮の一部が崩れ剥がれかけている。
けれど剥がれた奥に、肌色のなにかが見える。
「え? あれって………」
あたしはそこに駆け寄った。
その場所の樹の表皮をはがして。
そして見たのだ。
樹木の表皮が剥がれ落ちたその中に。
そこにアリアちゃんはいた。
何一つ身につけず裸で。
まるでこの樹木が生んだ胎児のようにまるくなって。
「アリアちゃん!」
あたしはアリアちゃんをそこから引き寄せた。
そして小さな体をしっかりと抱き寄せた。
あたしの声に応えず眠ったままだけど。
でも、たしかに息をしている。
生きている。
ぬくもりがある。
「アリアちゃん! アリアちゃん!」
「……………………あ? ………小柴………?」
アリアちゃんが目をさました。
まるで赤ん坊のように不思議そうな目であたしを見て。
言いたいことはいっぱい心の中にある。
でも、泣きそうになって言葉にできたのはこれだけだった。
――――――「おかえり。ずいぶん遅かったね」
「……………ごめん。寝すごした」
ポロッ
あたしはとうとう泣いてしまった。
「もうっ!…………もうっ!」
涙がとまらない。
泣き顔でグチャグチャの顔を、そのままアリアちゃんに見られちゃっている。
アリアちゃんはしばらくそんなあたしを見ていた。
だけどふいに言った。
「…………ゴメンな。これからのことは美織里ちゃんにはナイショにしてくれ」
「え?」
アリアちゃんは私の唇に自分の唇を重ねた。
(もう! またこの子はあたしの唇を勝手に!)
そんなかすかな怒りは感じたけど。
あたしは小さな体をしっかり抱きしめてささえた。
もう二度とはぐれないように。
大きな樹だけがそれを見ていた。
どうも応援ありがとうございました。
今作はこれで完結となります。
しばらくはハーメルンで中断しているマブラヴ二次創作を書いていきます。
また何かオリジナルを書きたくなったら戻ってきます。
本当にありがとうございました!




