04話 学園にせまるモンスター
◇ ◆ ◇
時間は少し戻り、モンスターが発生したばかりの午前
森欧高校のとある教室
あたし小柴未散は、授業時間になってもなかなか先生が来ないので、男子とくだらない遊びでヒマを潰していた。
我ながら男っぽい性格だから、女の子より男の子と遊ぶ方が好きなんだよね。
「ねぇ小柴さん。あの人達、なんだろうね?」
窓の外を見ていた友達の間宮美織里が聞いて来た。あいかわらず可愛い声だな。
つられてあたしも窓の外を見てみる。
「うわっ、何だこりゃっ!」
教室から見下ろす体育館に、大勢の人間がはいっていくのがみえたのだ。
老若男女様々な人達がおり、避難具のようなものを持っている人達も多い。
服装は私服の普段着のようだから、どうやら付近の住民のようだ。
何故その人達が一斉に学校の体育館にはいっていくのだろうか?
「授業も始まらないし変だよね。いったい何が………」
その時だ。教室の扉がすごい音をして開けられた。
少し前に「様子を見てくる」と言って教室を飛び出していった悪ガキ男子連中が戻ってきたのだ。その様子はひどく興奮している。
「おい、大変だ! 何かすげぇ動物が人を襲ってるってよ! 今、警察が学校を囲って警備している! ここは避難所になったらしいぞ!」
「装備もすごいぞ! 分厚い防護服にヘルメット。ジュラルミン盾の完全装備で、ライフルみたいなでっかい銃までもった本格的な奴だ!」
「何が逃げたんだよ。虎とかライオン? ワニなんかもけっこう危ないよな」
危険な動物が人を襲ってる? そうか。さっきから何か変だったのはそのせいか。
その時、職員室に事情を聞きに行ったクラス委員の子が戻ってきた。
そして教室に設置してあるテレビをつけ説明をした。
「え~と、みんな聞いてください。先生方は住民のみなさんの誘導が忙しく、まだしばらく来られないそうです。いま、テレビで緊急報道がやっていますので、これを見て今おこっている事態を把握してくださいとのことです」
なるほど。だったら、あたし達にかまってるヒマなんてないわね。
「警察の方が学校を厳重に警備してくださっているので、ここは安全です。どうか長い時間になりますが、次の指示があるまでおとなしく待っていてください、だそうです」
テレビの報道によると、事態は次のようなものであった。
本日の午前9時頃、突如一つ目の奇形の動物が様々な場所に現れ、人を襲っているのだという。
あまりに突然に大量にその獣が現れたため、被害は拡大。
政府は非常事態宣言を出し、各自治体に住民の避難を指示。警察機動隊や自衛隊への出動までも決定したそうだ。
「大変なことになったね。お兄ちゃん大丈夫かな。最近どっかで隠れて何かの動物を飼っているみたいでね。ごはんとか自分で作って持って行っているみたいなんだ」
「あたしも弟と妹が心配だよ。まぁ小学校も同じように守られているだろうし、収まるのを待つしかないか。夕方までには何とかなってればいいけど」
事態が動いたのは、三時を少しまわった頃だった。
突然、外から激しい銃声が聞こえてきたのだ。
どうやら、ここにもその危険な奇形の獣とやらが来たらしい。
パパーーン!! パパーーン!! パパパーーン!!!
「うぉっ! はじまったぞ! すげぇ銃撃戦!」
「中東とかの内戦地帯みたいだ! 見に行こうぜ!」
「ダメです! 危ないから教室で待機していてください!」
クラス委員がそう止めるも、男子の悪ガキ集団は教室を飛び出していってしまった。
「しょうがないね男子は。まぁ銃撃戦とか、あたしも見たいけど」
「危ないよ。抜けてきた獣とか流れ弾とか、ケガするかもしれないよ」
「わかってるって。おとなしく待っているよ。夜までにはこれも収まるといいね」
◇
パパーーン!! パパーーン!! パパーーン!!
「…………ねぇ長くない? 銃声が鳴りっぱなしなんだけど」
「うん………それもだけど、さっきから悲鳴みたいのが聞こえるのが気になるよ」
「悲鳴? 誰か負傷者とか出たのかな? 思ったより、ヤバな事態なの?」
ガラララッ!
突然、教室の扉が荒々しく開けられ、銃撃戦を見に行った男子達が帰ってきた。
なんだかひどく憔悴している。動物を殺すシーンとかキツイもんね。
「ユージが………………殺された!」
……………………はい? いま何て言ったの?
「お、おい。殺されたって? どういうことだよ! まさか機動隊が戦っている所まで出て行ったんじゃないだろ? 何があったんだよ!」
「抜けてきた獣にやられたんだよ! 機動隊はゴリラみたいなのに殺されているよ! 銃とか撃って反撃しているけど、まったくきいてない! 握り潰されたりして虐殺されてる! 」
「ええ!? 嘘だろ! もしかして、ヤバいのか?」
「ネットにあった! 一つ目の動物は銃がきかないってよ!」
とんでもないことを言っている。
でも、学校を守っている警官がそんなことになっているなら、あたし達、どうなるの?
その時、またしても教室のドアを荒々しく開けて入ってきた者がいた。
担任の谷原先生だ。その顔は今までみたこともないくらい真剣で怖そうだ。
「みなさん。落ち着いて聞いてください。たった今から全員四階に上がり、そこでバリケードを築いてください。階段、窓を完全に塞ぎ、動物が入ってこられないようにするのです」
「え…………? 外を守っている警察の方達はどうしたんですか?」
「出来る限り押しとどめてくれるそうですが、完全には止められないそうです。ですが、慌てて外には出ないように。市内はもうあちこちに危険な動物が徘徊しているそうです。警察は自衛隊への応援を要請しているそうなので、助けがくるまでこの学校でしっかり待っていてください」
先生の言葉に軽くパニックになったものの、先生の言う通り最上階の四階に上がり、あちこちを机や椅子でふさぐ作業をした。
「きゃぁーーーーっ!」
窓際で作業をしていた子がいきなり大きな声をあげた。
「どうしたの? なにかあったの?」
「た、体育館に……っ! あそこにいる人達が………っ!」
その言葉に下を見ると、体育館にたくさんの獣が群れて集っているのが見えた。そしてその体育館からはたくさんの悲鳴が!
「避難してきた人達は…………なぶり殺し? どうするの?」
体育館を見て呆然とするあたし達に、先生は声をあげた。
「下は見ないで! 作業を進めてください! とにかく助けがくるまで何としても持ちこたえるのです! 残った警察の方はバリケード前で防衛をしてくれるそうです。だから必ず持ちこたえられます!」
だが、あたし達の方にもついに危機が這い寄るときがきた。
体育館の虐殺を終えた動物たちが、今度は学校にいる私達に狙いをつけてやってきたのだ。
やがて階段付近から獣のうなり声や銃声、破壊音が激しく聞こえてくる。
そして、ついにくるべき時がきた。
「東階段を守る警察の人達が殺された! バリケードを壊しにきている! すごい力だ! もっと机を重ねないと!」
「仕方ない。窓に重ねてあるのをもっていくぞ! とにかく何としても守るんだ!」
だが、窓にある机を外し、その外を見たものは悲鳴をあげた。
「うわぁぁぁぁぁ! オラウータンが! 壁を登ってくる! もどせ!」
慌てて机をもとのバリケードに戻すも、今度は教室の外から大きな音と悲鳴が!
「バリケードが破られた! 教室のドアをふさげ! 絶対入れるな!」
「そんな………っ! バリケードが破られたのに持つはずが………」
「知るか! とにかくやるんだよ! みんな殺されちゃうぞ!」
だが、それはもう無駄なこと。すぐにみんな理解した。
窓のバリケードが「ガシャァァッ!」とけたたましく鳴り響き、その窓際には一つ目オラウータンが顔をのぞかせていたのだから。
「来たぁ!」「一つ目だ! 本物のバケモノだ!」「いやぁぁ! 来ないでぇ!」
一つ目オラウータンはのそり窓をくぐって教室に入ってくる。
そして隅にかたまって動けない私達にのそのそ迫ってくる!
見上げるその一つ目は藁っているよう。
「小柴さん!」
間宮さんがしがみついてきた。
「最期に言わせて! 女の子だどうしだけど、私ずっと小柴さんのことが………」、
「いや告白なんかするより、最後までにげようよ! カミングアウト聞きながらジ・エンドとか趣味じゃないから!」
たしかにやたら抱きついてくるから「もしや」とは思っていたけど!
女の子から告白されるのは慣れているけど!
ふと見ると、一つ目オラウータンのバケモノは固まっている私達の所にきた。
みんなうるさいくらい悲鳴をあげている。
バケモノは大きな腕を天にふりあげ……………
パァァァン!
………………爆発した?
オラウータンのバケモノはその爆発とともに消えていなくなり、奴のいた場所にはいつの間にか見知らぬ女の子がいた。
……………いや、どこかで見たような?
やたらヒラヒラした服を着て、大きくて奇妙な杖を持ち、どこかで見たようなポーズをとっている。
おかしいな。この変な女の子、やっぱりどこかで見たような気がする。
「……………【クレッセント・アリア】ちゃん? 本物?」
ああ、そうか。間宮さんのお陰で思い出した。
【マジマギ天使みちる】に出てくる【クレッセント・アリア】ちゃんだ。
そうか、そうだよね。邪悪な魔物が出たんだもの。正義の魔法少女は来るよね♡
…………………………いや来ないよ! あれはアニメだよ!
たしかによく似ているけども! でっかいけどプラチナクレッセント・ロッドも持っているけども! そんなバカなことが……………
彼女はくるんっと一回りしてポーズをとった。
「昏き闇夜を照らすは気高き三日月の光。月の光に導かれクレッセント・アリアここに推参!」
……………………………本物?
もう放映は終わっているのに?