39話 祖神さまとの邂逅
オレは綾野に頼んで、元凶である祖神の気配のある場所を自衛隊に捜索してもらった。
ほどなくして、それらしい女がいると連絡があった。
綾野の【情報官】という肩書きはけっこう便利だね。
自衛隊の指揮系統でもどのあたりにいるのかあやふやなんで、こういった情報もいち早くきてくれるし、偉いやつの指示をうけずに動くことができる。
そんな便利な綾野をせっついて車で現場に急行してもらった。
「アリアくん。とにかく現場には行くが、作戦行動はトップの指示にしたがってくれ。まったく。普段はやる気がなくて行動させるのも一苦労の君が、この件には妙にやる気がありすぎる」
「私は怠け者ですからね。今夜一回の戦闘で、これ以上こき使われるのを終わらせるとあらば、がんばるしかないでしょう」
いや、オレ自身は今回もやる気なんてないが、この体の本来の持ち主がやる気がありすぎるのだ。
なので、ちょいちょい体や口を動かして祖神とやらの決戦に向かわせてしまう。
現場はやはり渋谷駅近郊であった。
到着すると先行偵察の自衛隊員二人がいて、オレと綾野を敬礼でむかえた。
綾野は彼らに敬礼を返し、現場の様子を聞いた。
「ご苦労さまです。それで対象の様子はどうです」
「はい、捜索を指示された対象らしき存在はたしかに確認しました。ですがまずいことに、近くに民間人の学生らしき少女二人がおります」
「なんだと!?」
現場の方を見てみると、本当に衰弱している女の子二人が地面にへたりこんでいた。
そして、その先には夢の中で見た異国の服装をまとうあの背の高い女性がいた。
顔には一つ目獣の一つ目を模した仮面を被っている。
――――――「エルフの祖神!」
――――「ドクンッ」と心臓が高鳴った。
彼女の被る禍々しい一つ目の仮面に、全身に戦慄がはしった。
オレの中にねむるアリアの激しい感情を感じる。
「バカな…………事前のこの辺りの調べでは民間人など生き残っていなかったはずだ。なぜ今になって彼女らは生きてここにいるのだ?」
「ここらの地下は地下鉄や地下店舗が複雑にからみあって存在しています。その中のどれかに籠城でもして何とか生き延びたのでしょう」
そんなことが可能なのか?
それで半年以上も生きていられるのか?
東京の地下ってスゲーな。
「まずいな。あの位置に民間人がいるとなると、強襲制圧にうつることができない。何とか彼女らを救助できないものか」
綾野の言う通り、戦闘がはじまれば確実にあの女の子達をまきこむ。
世界の危機だし、涙をのんであの子らには死んでもらう?
――――できるか!
自衛隊の方も、今の段階でそんな決断ができるとは思えないし。
…………………仕方ない。
自衛隊に問答無用の一斉攻撃をさせるつもりだったが、序盤の流れを少し変えるとしよう。
オレはすばやく考えをまとめると、提案した。
「まずは私が対象と話をしましょう。その間に女の子たちを引き離してください」
「それは……………いや、それが良いか? 対象のほうも見た目ただの女性だ。いきなり射殺というのはむずかしい。アリアくん。まずは話してこちらと対話する意思があるか確認してくれ」
しねーよ。
50億もの人間を殺した相手に甘すぎだ綾野。
オレはあいつを殺しにきたんだ。
「会話をして部隊が到着する時間をかせいでいただけるならありがたいです。民間人ふたりは相当に衰弱しているようなので自分らが担いで離しましょう」
偵察の自衛官らがたのもしくいう。
「おねがいします。対象が私との会話にのってきた頃合いで、彼女らの救助をおこなってください」
さて、ご対面だ。
何と言って出ていったものだろう?
…………………やっぱり魔法天使【クレッセント・アリア】しかないか。
祖神さまには分からないだろうけど、始まりはこれのコスプレ。
ならば最後もそれがいい。
ラビットシューズで大きく飛び立ち、音もたからかに大地へ着地。
「え…………ええっ!? な、何!?」
ガールズはいきなり現れたオレに驚いている。
怪しいものではないよ。
「邪悪なるものにこの世に住まう場所なし! 月の光導き私を呼ぶ。月光の魔法天使【クレッセント・アリア】ここに見参!」
ガールズびっくり。
「え? えええええええ‼? マジマギの【クレッセント・アリア】ちゃん? なんで本当にいるの!!?」
おっと、この子らも【マジマギ天使みちる】を知っているのか。
だったらこのまま魔法天使【クレッセント・アリア】を演じ続けよう。
「あなた達。急いでそいつから離れなさい。そいつが世界を滅ぼさんとする元凶。いまおこっている災厄の主。ここは戦場になるわ」
「えええ! あの一つ目の狼とかってブロークンヘイトだったの!? 『人々の心の闇につけこむ』とかじゃなくて、こんなに直接的に侵略してくるなんて!!」
「ゴメンね助けにくることができなくて。敵はあまりに強大で、他の魔法天使はみんなやられたわ」
「えええ!? じゃあ世界は闇につつまれてしまうの!?」
「いいえ希望を捨てないで。残ったのは私だけだけど、やっと元凶にたどり着くことができた。魔法天使すべての思いを背負って私は戦います」
プラチナクレッセント・ロッドを顕現させると、二人から「わあっホンモノのアリアちゃんだぁ!」と感嘆の声があがった。
『ふっ巫女よ。猿どもに慕われておるの。ずいぶんこの異世界になじんでいるとみえる』
仮面の女が使った言語。
それはかつてホームレスをしていたアリアが使っていたそのものだった。
あの時は何を語っていたのかサッパリだったが、今はその意味がはっきりとわかる。
そして魔力の感知によって、その存在がただ者でないことも。
これが世界線を越えやってきた異世界の災厄。
やるか。
とにかく作戦通り。
自分の中身が入れ替わっていることに気づかれないよう、異世界巫女アリアとして応えないといけない――――
『敬神も信仰も……………』
―――と思ったのだが、勝手に口が動いた。
『樹々の祭祀も、胸のすくような朝夕の礼拝も』
何故か自然と言葉が出る。もしかしてこれはアリアの抱えている思いか?
『すべては彼方の故郷へ置いてきました。巫女である自分は埋葬しています』
『ほう。では汝は誰そ? この異世界にて何者になった』
『この世の邪悪を断つ魔法天使です。月光の魔法天使【クレッセント・アリア】! 月光の裁きはあなたを許さない!』
この名乗りだけは自分の意思で言った。




