37話 決戦前日
遅くなってすみません。ラスボスの登場シーンとかすっごく難しくて、何度も書き直して、やっとこんな感じに決定しました。
◇◇◇
ニュートリノの発生源を求め、東京中を綿密に調査した結果。
それは渋谷駅周辺であると特定された。
それが特定されるとアリアは出動し、そこら一帯周辺の災害獣を一掃。
その後、自衛隊は元凶を迎え撃つべく陣地を構築した。
雑多な建築物の多いその場所であったが、それらはすっかり取り払われ防塁や塹壕が築かれた。
そして各地より抽出され編成された自衛官らはその多くがそこで寝起きをしているのだ。
そんな中、綾野情報官は森欧町で知り合った陸自幹部も選出されて来たというので、彼のいる設営テントを訪問した。
「お久しぶりです狭間二佐。貴官も此度の渋谷駅作戦に参加なさると聞いて挨拶にまいりました」
「よう綾野情報官、久しぶり。お聞きの通り自分らの戦闘団も抽出に選ばれて来たよ。どうやら森欧町の働きが認められたらしい。で、この獣災害の元凶が出るんだって? いったいどっからそんな情報を掴んだんだ?」
「M兵器の彼女ですよ。もっとも彼女の言葉以外の証明するものはないんで、信頼度は低いんですが」
「それにしちゃ物々しい雰囲気だな。まるで戦争でも始まりそうな匂いだ。装備科は武器弾薬を運びこんでいるし、施設科は陣地を構築してるし」
二人は今も忙しく走り回るジープや、銃器の調整をしている隊員達を感慨深げに見回した。
「徴候はありますからね。この渋谷駅周辺はニュートリノの異常検出の発生源です。アリアくんによれば、これは元凶が出現する前兆だそうです」
「本当に元凶さんが出てきて欲しいねぇ。いいかげん獣に追われる日々はたくさんだし、この災害を終わらせる戦闘に参加できたとなりゃ末代までの武勲モノだ」
「望みはかないそうですよ。貴官の戦闘団の任務は、森欧町のとき同様M兵器の彼女の護衛になります。最大限、元凶に近づく可能性が大きい危険なものになりますが、何としても彼女を守ってください」
「やっぱそれか。ま、危険は望むところさ。それで自分らがお守りするお嬢ちゃんはどこだい?」
「作戦本部になっているホテルの最上階スィートに民間人協力者の小柴さんと泊まっています」
「おいおい民間人の女の子もいるのかい? ここはもう作戦地域だろう」
「彼女の性格から、一人はなだめる少女をつけておかなければならないんです。彼女の見張りも兼ねているんで必要なんですよ」
「そういや、そうだったな。わがままお姫さま連れた行軍は苦労したからな」
しばらく何かを思い出すように考えていた狭間二等陸佐だったが、ふと思い出したように言った。
「そうだ。ここらに避難している民間人はいないのか? 渋谷なら相当数の人間が建物にこもっているんじゃないのか?」
「さすがに渋谷から避難民全員を出すのは不可能ですからね。戦闘になったら戦闘行為は渋谷駅400メートル圏内に限定して、それ以上の拡大は絶対阻止してください」
「了解。ま、やってやるさ。それでその範囲内に民間人はいないんだな? ハデに銃弾ブッ放しても、流れ弾に気をつけなきゃならない一般市民はいないんだな?」
「ええ。この辺りはもともと災害獣の浸透が酷かったために生存者はいませんでした。いちおう駅及び周辺を捜索をし呼びかけを行いましたが、反応する者はいませんでした。そこは安心してください」
――――――だが、その捜索には見落としがあった。
◇ ◇ ◇
その日の深夜。
渋谷駅構内のとある食料品店の地下倉庫。
そこには二人の女子高生が避難し、隠れ住んでいた。
彼女らは一つ目獣の発生時、この上の店内に逃げ込み十数名の人間と籠城していた。
幸いそこは食料品店だったために食料に困ることはなかったが、あまり強固な建物ではなかった。
やがてそこは一つ目獣に破られた。
他の人間が無惨に喰われる中、二人は地下に逃げてこの倉庫に籠城した。
運良く一つ目獣はこの場所を破るようなことはなく、またそこには食料やペッボトル飲料などが豊富にあったたために、今日まで生き延びることができたのであった。
だが長時間の籠城は二人の心身を激しく消耗し、自衛隊の呼びかけがあった時にも意識が朦朧として反応することができなかった。
「ねぇミカ。起きている? 話できる?」
「うんサキ。今は意識はっきりしている。なんか最近、起きているのがすっごく難しくなった。だるいのがおさまんない」
「ビタミンD不足だと思う。太陽に長い間あたんないでいると、こんな風にすっごくだるくなるらしいよ」
「それより、狼のうなり声が聞こえなくなったね。代わりにヘリとか車の音がきこえるけど、幻聴? サキ。あんたにも聞こえる?」
「大丈夫。幻聴じゃないよ。私にもさっきからずっと聞こえる。このあたり、解放されたみたいだね」
「じゃあ、ここから出て助けてもらおう! あたし達助かったんだよ!」
「うん。でも今はもう夜みたいだよ。外は暗いから迷っちゃうだろうし、朝になるまで待った方がよくない?」
「イヤよ! その間にどっか行っちゃったらどうすんの!? それに臭いの、もう耐えらんない!」
ここは食料倉庫であるため、排泄できるような場所はない。
なので倉庫の片隅を排泄場所にしていたのだが、そこからの悪臭がだんだんと酷くなり、今では常にハンカチで口と鼻をおおってなければならない程になってしまった。
「…………うん、じゃあ行こうか。いちおう、道は覚えていると思う」
二人はおそるおそるバリケードを外し外の通路を見ると、やはりうろついている獣は一匹もいなくなっていた。
喜んで二人は糞尿の臭いのする倉庫から飛び出した。
暗い迷路のような地下通路をスマホの明かりだけを頼りに進んで行く。
長い籠城暮らしでフラフラになった体を支え合いながら出口へ向かう。
ようやく地上に出られる階段を見つけて地上に出ると、夜の冷たく清々しい空気を思いっきり吸った。
夜空には美しい三日月が煌々と輝いていた。
「…………本当に猛獣いなくなっているね。やっと反抗して退治できたんだね」
「うん本当に遅かったね。人がいっぱい殺されたのに」
「とにかく人のいる所に行こう。向こうに車の音が聞こえるよ。歩ける?」
ミカは「大丈夫」と言おうとしたが、足が動かなくなって崩れ落ちてしまったことで言葉を変えた。
「……………ダメ。なんか体がいうこときかなくて、もう歩けない。どうしよう?」
「実は私もダメみたい。助けを呼びたいけど、どっか近くに人がいないかな?」
二人は道にへたり込みながら辺りを見回すが、妙に開けた場所の闇の中。
そこらに人の気配はなく、人一人いない。
――――――――いや、いた。
たった一人。
闇の中に佇む背の高い女性を見つけたのだ。
二人は彼女に助けを呼んでもらおうと、最後の力を振り絞ってフラフラ近づく。
「あのっ! すみません。あたし達、つい先ほどまで猛獣から逃げて避難していた者なんですけど。もう歩けなくなってしまったんです。どうかこの向こうの誰かに助けを呼んでもらえないでしょうか?」
「♠♬%&#¥♢♣♡#*☆□▲」
…………外国人か? 言葉が通じない。
そういえば、着ている服も異国のもののようで、見たことのないものだ。
そして初めてその顔をみて驚愕した。
その顔は仮面を被っており、その中央にはあの禍々しい一つ目があったのだ。




