35話 総理大臣が来ました
「先ほどはどうも。あなたの言う”元凶”について詳しく聞きたくて来ました」
阿部総理はテレビでよく見た笑顔で軽くお辞儀をし、慣れた仕草でオレの前に座った。
まいったね。この人、歴代総理でもトップクラスに世界中の要人と交渉をこなしてきた人だ。
そんな人と、オレごときが一対一でまともに話なんて出来るものか。
「まさか直接来られるとは思いませんでした。綾野さんの報告とかで聞くんじゃないんですか?」
「この件は一刻も早く判断せねばならない案件でしょうからね。しかも軍の配置にも関する問題です。間に人をはさんで時間を浪費するより、直接聞く方が良いと判断しました。では、貴女の言う”元凶”について話してください」
「はい。そいつは私のいた魔法世界の”神”とも崇められていた存在の最大級の魔法使いで…………」
とにかく、異世界アリアから教えられたあいつの特徴を知る限り説明した。
正直、あの絶望的な相手をそのまま伝えるのはどうかと思わないでもない。
しかし、こっちの作戦にも関わることなので正直に話した。
「なるほど。参考になりました。それで、それほどの存在をあなたはどのように倒すおつもりなのです?」
「あいつは魔法生物の獣と違って、実体の肉体があります。なのでこちらの世界の物理攻撃でも通ります」
「ふむ。大本であるそいつは災害獣のように我々の攻撃がまったく効かない、ということはないのですね?」
「ええ。銃器や火力の飽和攻撃をすれば、その身を守るために少なからず消耗します」
「うん? それで倒せないのですか?」
「倒せませんね。東京を消滅させるだけの火力をたたき込んでも無理でしょう。だから、ほどよく消耗させたなら私が終わらせます。それでケリがつきます」
「その方法は教えてくれないのですか?」
「申し訳ありません。言えません」
こればかりは異世界アリアに口止めされている。
こちらの切り札でもあるので、誰にも言うわけにはいかない。
しばらくの沈黙の後、阿部総理は口を開いた。
「アリアさん、貴重な情報をありがとうございました。しかしその神様は何が目的でこちらの世界に来たのです。何故、我々を襲うのです?」
やっぱりその質問が来たか。
でもそれも、こちらの軍を出してもらう関係上言えない。
故にとぼけてみる。
「さぁ。神様の考えることですからね。私にはさっぱり」
「ふむ。あなたは嘘をついていますね」
げふぅっ! 秒でバレた!
「ななななななんで私がウソをついているなどと!? 正義と真実に生きる魔法少女の私がウソなんて!」
「その態度でわかりますね。それ以前に、あなたがこの世界に来た理由は、その神様を追ってきたからでしょう。あなたは大元の事情を知っているはずだ。その神様が獣災害が起こした理由を」
「何のことやらさっぱり」
我ながら説得力ないね。顔引きつってるし。
総理はオレをじっと見たまま。オレはそれに目をそらしたまま、気まずい沈黙が流れた。
やがて総理は言った。
「そちらが隠し事をしている以上、私も下に出動は命じられませんが」
げっ! あくまで聞き出すつもりかよ。
さすが交渉のトップクラス!
どうすっかな…………といっても、言うわけにはいかないんだよね。
知られちゃまずいことも色々あるし。
仕方ない。腹を決めよう。
「そうですか。では、私の協力もここまでですね」
オレは椅子から立ち上がる。
「どうするつもりです?」
「奴とは私一人で戦います。少しキツいでが、ま、何とかなるでしょう」
「十億もの魔法生物を生んだ存在にですか?」
「……………まぁ勝算はあります。今から船を降りてニュートリノが発生しているという場所に向かいます」
と、強がって出口に向かうが。
けっこうな綱渡りになるんだよね。
オレが負けたら、小柴とかどうなるんだろうな。
そう思って小柴を見たら、目があってしまった。
「待って! アリアちゃん本当に一人で行くつもりなの?」
「うん。何とかがんばってみるよ。美織里ちゃんや裕香によろしくね」
「それって、アリアちゃんはもう帰ってこないってこと?」
「それは………………」
やっちまった。
失言だった。
多分、本当のアリアの方はラスボスの祖神さまとやらと刺し違えるつもりだし。
オレ自身ももう死んでいる。
結果がどうなろうと、このアリアが再び帰ることはないのだ。
「魔法少女はね。ラスボス倒して世界が平和になったら魔法の国に帰んなきゃ。お別れは最終回の宿命ってやつよ」
「そんな! アリアちゃん、そんなの…………ッ!」
小柴はきつくオレを抱きしめてきた。
背中に彼女の体温を感じながら、ふりほどけない自分の弱さを感じる。
やわらかいな。
小柴。
お前、イケメンのくせにこんなにやわらかったのか。
「お待ちなさい。ニュートリノの発生地点の監視は航空にやらせましょう」
ふいに阿部総理に背中から声をかけられた。
「え? いきなりどうしたんです」
「我々に魔法生物を倒すことはできなくとも、偵察や観測の技術は我々の方が優れています。あなたはまだ待機していなさい」
「え!? でも私は…………」
「あなたの隠していることに踏み込むことはやめにします。その上で協力しましょう」
「いいんですか?」
「相手は我が国の大いなる脅威であり、幾万もの同朋の命を奪った仇でもあります。それに女の子一人だけを向かわせたとあっては、国家の名折れです。故に我々も戦わせてください」
そう言って阿部総理は手を差し出した。
はたしてこの人相手に最後まで隠し通せるか。
でも今は。
「わかりました。共に戦いましょう」
二度目の握手は強く、そして自分の意思でその手を握った。




