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33話 壇上のアリア

 その翌日。

 オレはまだ東京湾に浮かぶ豪華客船パシフィック・エース号にいた。

 ここに避難している政治家とか財界の偉い人達が、夜に戦勝祝賀会を開くので、それに出席するためだ。


 「しかしこんなことしてて良いんですかね。パーティーなんかよりやらなきゃなんないことがあるんじゃないですか?」


 オレは船の提供された一室にて、綾野から会の説明等を受けているが、ふと疑問に思ってたずねた。


 「昨日の戦闘後のことだ。船上の方々から君に礼をしたいとか、話したいという要請が引っ切りなしに来てな。まぁ君に興味をもち、会ってみたいという人が多数出たというわけだな」


 なるほど。部屋から出してもらえないのはそのせいか。

 小柴は自由に外に出てセレブな船を見てまわっているのに。


 「無論お偉方の頼みとはいえ、君にいちいちそれに応えさせるわけにはいかない。自衛隊と各所の解放作戦に参加してもらわねばならないからな」


 やっぱり東京にとどめてこき使うつもりかよ!

 オレに何も言わないまま、そんなことを決めやがって!


 「そこで参謀の方々と話し合った結果、今夜、戦勝祝賀会を開くことで君のお披露目をし、お偉方の望みをまとめて叶えさせることにした。災害獣の脅威を取り除ける君を正式に紹介する」


 で、夜に向けて朝から『みなさんを救えた一助となれたことは望外の喜びです』とか『これからも日本の再建の礎となって働きたいと思います』とか、心にもないセリフを覚えさせられているというわけか。

 本心じゃ休みを取り上げられてムカついているのに。怠けて遊びたいのに。


 「だが、せっかく日本中枢の方々がひとつの会場に一斉に集まるのだ。これを利用して『東京解放計画』を発表して、大いに士気を高めようと閣僚の方々から提案されてね。それにも君に一役かってもらうことにしたのだ」


 「東京解放計画? 何ですそれ…………って、そのまんまですね。私の新しい術の広範囲魔法を使って東京中のモンスターを消そうってことですか」


 昨日ピンチの翌日の今日で、もうそんな計画ができたのか。

 『早い』なんてレベルじゃないな。


 「その通りだ。君は壇上で阿部総理と握手をして、そのセリフを計画参加の意気込みとして語ってもらう」


 「うえっ! 計画なんてちっとも知らない間に、意気込みができてた!? 建て前社会って恐ッ!」


 「段取りもセリフも教える通りにやってくれ。余計なアドリブなどはいれないように」


 全部予定の進行通りにやれってか。

 学校の卒業式を思い出すな。あれって生徒全員が何度も進行を練習させられるし、答辞なんかも教師と作ったものだから、本番じゃまず感動なんてできないんだよな。

 いま思い返せば、あれも保護者や市のお偉いさんに見せるショーなんだろうな。





 そしてその夜の宵口。

 豪華客船パシフィック・エース号のパーティーホールにて。


 設置された幾つもの白いシーツをかけられたテーブルの上には、どこで集められたのか様々な料理やら酒やらが所狭しと飾るように置いてある。


 そして集まった高級スーツやら高給衣装やら纏ったセレブの老若男女たち。

 全員がそれに背を向け、艦橋に近い場所にしつらえてある壇上の前で、パイプ椅子に座りながら待機している。

 パーティーは壇上での諸々の挨拶やら発表の後だ。


 で、オレはいつもの【クレッセント・アリア】のコスプレ衣装ではなく、高級ワンピースに袖を通して壇の舞台袖で待機している。

 側にはすっかりオレのマネージャーみたいなものになっている綾野もいる。


 「それで、なんでこの服で出なきゃなんないんです? これって誰かの私服ですよね。いつもの【クレッセント・アリア】の衣装じゃいけないんですか?」


 この飾り気のない、それでいて高級感ただようワンピースには、明らかに誰かが使っていたクセがある。多分、貸衣装とかじゃない。

 当然ながら、いつも着ているコスプレ衣装とは比べものにならない仕立てと素材とデザインだ。


 「船内のとあるお嬢さまから借り受けたものだ。まさか君は、あれで、服に目の肥えた方々の前に出るつもりだったのか?」


 「はぁ? つもりでしたが、それが何か?」


 綾野はおおげさに目を覆って天をあおいだ。

 綾野がリアクション芸をやるとは珍しいな。


 「あれは明らかに素人がつくったものだろう。子供の自主制作のような」


 「はい間宮美織里ちゃん作です。けっこう上手くつくってあると思いますが、わかりますか」


 「それが総理の最高級スーツと壇上で並んだらどう見える?」


 「あのコスプレ衣装も最高級に見える? 美織里ちゃんの腕がセレブに認められちゃうかも!」


 「見えるわけなかろう! 格差が気になりすぎて、壇上の言葉なんて何も耳にはいらなくなるぞ」 


 あれはもうすっかり戦闘服になっていて、魔法でいろいろ改造してあるんで、ファッションで評価するもんじゃないんだがな。


 まぁいい。昨日までは面倒なイベントにすぎなかったが、今は違う。

 日本の方針を決定する人間が一同に集まっているなら都合が良い。

 綾野。悪いが進行はオレのやり方でやらせてもらうぞ。





 壇上で進行はつつがなく進み、防衛大臣の日本解放計画、国土交通相の再建計画などの説明が続いた。

 総理の犠牲者や戦死者への弔意が終わると、スタッフが呼んだ。


 「アリアさん出番です。出てください」


 さて、オレの出番か。

 まず壇上で待っている総理のところまで歩いていき、そこで握手をする。

 そして総理が後ろにさがったら、朝からさんざ練習させられた例のセリフを読む、という段取りなのだが………どうやら無駄になりそうだ。

 とんだ脳ミソの無駄遣いだったな。


 オレが舞台袖より出ると、大きな喝采の拍手が鳴った。

 そして壇上へ上がると、そこにはテレビでおなじみの偉い人がいて挨拶をした。


 「ようこそ月光野亞里亞さん。この度の自衛隊への協力。及び災害獣への対処によって、陛下や私、そして海上に住む多くの人々の命が救われました。深く感謝をいたします」


 (ナマ)で初めて見る本物の総理は、テレビの時と同じように謙虚で、それでいて凄いカリスマのようなものを感じさせる人だった。

 ちょっとばかり意識が引き込まれ、握手も黙って手を握られるままになってしまった。


 「さて、アリアさん。間もなく東京を災害獣共から取り戻す一大反攻作戦がはじまります。君にはそれの重要な役割を担ってもらいます。大変な役割ですが、いまだ都内のシェルターで避難を余儀なくされている人達を救うためでもあります。どうかしっかり働いてください」


 おっとオレのターンだ。

 そろそろ正気にもどって、決めたセリフを言わないと。



 「その作戦なら必要ありませんよ。作戦は白紙にしてください」


 ザワリ………


 うむ。いい感じに会場の雰囲気が変わったな。



 






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