31話 国籍についてのアレコレ
とりあえず、ラストバトルまでの道筋は出来たので連載再開します。最後までエタらずがんばります。
クジラを掃討したその夜。
なんと宿泊は、かのセレブな豪華客船【パシフィック・エース号】の客室。
どうもそこにいる日本のやんごとないお方達が、オレに礼をしたいというのでここのセレブな客室を使わせていただいているという訳だ。
それは良いのだが、そこで綾野と小柴が怒りをおさえたような顔でオレの前にいる。
「アリアちゃん。あのあと艦橋に連れられて、すごく偉い自衛官のお爺さんとかに説明求められたんだよ。サメを消した方法なんて分からないし、アリアちゃんとのキスのことを何度も聞かれて、すごく恥ずかしかった!」
「私も【M兵器】に関しての説明の要請が上層部からひっきりなしに来た。あの効果をもつ兵器についての説明を行わねば、背任の疑いで査問を行うことまで仄めかされた」
耳垢ホジホジ。
魔法少女がパワーアップする理由なんて、スポンサーの新商品展開かテコイレかのどちらかしかないだろう。
それにしても、魔法少女のパワーアップなんてテレビ前の女の子が心躍るイベントなのに、何でおっさんの査問がどうとかいう話が出てくるのだ。
「なんか小柴とキスしたら、弱い一つ目獣を全滅させる魔法が出来ちゃいました。はい説明終わり」
「説明になっていない!!!」×2
仲良いな。どうも似たような目にあった者どうし、意気投合したみたいだ。
綾野は二、三度深呼吸をして気を落ち着けた。
「まぁ魔法に関してのことは説明してもらっても分からないだろうから、取りあえずは良い。私の上司にも君を学者に調べさせることで納得してもらった。だがもう一つ問題を提起された。アリアくん。君は獣災害が起きる前、どのように生活していた?」
アリアの前の生活? えーとオレに出会う前の生活ってたしか…………
「森欧町の雑木林にある廃墟になった神社でホームレスしてましたね」
「ええ!? そんなことしてたの? アリアちゃんって」
「その前は? 君は日本人ではないようだが、いったいどのような経緯で日本でそのような生活をするに至った?」
「前は魔法の国にいたと思います。どうして日本にいるかはよく覚えていません」
正確にはアリアがここに至った理由など、中身『間宮東司』のオレには知るよしもないのだが。
「ふむ。君以外の者が言ったなら『ふざけるな!』と言うところだがな。しかしやはり無国籍か。上の危惧した通りだな」
「何です? まさか今さら私の不法滞在の件でも調べるよう言われたんですか。今、出入国管理なんてやっているのなら驚きですが」
「無論、日本の全機関を獣災害に傾けなければならないので、そんな審査などをやっている暇はない。だが君の国籍はこれからネックになる。今すぐ手続きを申請するので、略式でも良いから日本国籍をとりたまえ」
「はい? 何で?」
「この船には海外の要人なども乗っている。そしておそらく全世界で唯一、災害獣を倒せる君のことも知られてしまった。もし君が誘拐されたとしよう。だが君が無国籍では日本に君を取り返す権限はない。さらわれた先で国籍でもつけられたらお手上げだ」
恐ッ!
そうか。つい、まだ日本人と錯覚していたが、今のオレは金髪の女の子アリア。
そんな危険もあったか。
「わかりました。すぐ国籍をとります」
「ついでに自衛隊にも入隊してくれ。作戦行動がよりスムーズになって、多くの地域を救える」
「それは全力でお断りします。迷彩服は魔法少女の誇りにかけて着ることはできませんので」
「そのヒラヒラの防御力ゼロな服で作戦に参加されると、自衛官の負担は増大するのだがね。狭間郡長に説得を頼まれているのだが」
「嫌なら私抜きで作戦されてもまったくかまいません。それなら作戦は早く進みますね」
「君抜きで作戦ができるなら、全世界でこれほどの被害は出ていない。その件は今はいい。とりあえず国籍所得の手続きをしよう。書類にサインと必要事項を記入してくれ」
綾野はすでに用意してあった書類とペンをオレに渡した。
オレは【クレッセント・アリア】の設定をおもいだして書類を書く。
ええっと本名は【月光野 亞里亞】。
前の国籍は……………あれ? もともと国籍は日本じゃねぇか?
「アリアくん、真面目に書きたまえ。なんだ”月光野”とは。その天然金髪で日本人を主張するのもわからない」
「いや【クレッセント・アリア】は本当にこの通りの設定なんですって。ねぇ小柴?」
「え? …………うん、そうだったね。マジマギの中学校は日本のはずなのに、なぜか緑とかピンクの髪の中学生なんかも普通にいたね」
「誰がアニメの話をしている! 廃墟の神社でホームレスをしていた話はどこへ行った。アニメの設定じゃなく、実際の君のことを書いてくれ。ほら、もう一枚出すから今度は真面目にやってくれ」
そうだったな。【クレッセント・アリア】やりすぎて、アニメのプロフィールが本当の自分の過去のような気がしていた。
ええっと、前に見た夢によれば、どうもこのアリアは異世界人でモノホンのエルフみたいだった。
名前は………………”巫女”としか呼ばれなかったな。
「はい、これでどうです?」
「…………………………前の国籍が『異世界エルフ』で、本名が”巫女”? 本当に真面目に書いているのか?」
「多分、これで良いはずです。前のことはよく覚えていませんが」
「もういい。とりあえず『月光野 亞里亞』で国籍はとっておく。それと今後のことだが、明日は君の働きに感謝し、閣僚財界の重鎮の方々がパーティーを開いてくれるそうだ。列席されるのは本当にシャレにならない方々だから、けっして無礼はないようにしてくれ」
「なんで感謝される私の方が礼に気をつけなきゃならないんです。それに感謝というなら、もう帰らせてください。あと休みもください。今回の功績で10ヶ月くらい」
「できんのだ。今回の新しい君の能力で、本格的な東京解放計画をはかることになった。とりあえず、あさっては高名な物理学者の方に君の魔法を調べてもらうことになった。詳細を知らねば、兵器としての信用の格付けができんのでな」
マジか!? なんかそれ以降もスケジュールを組まれてるっぽい。
これじゃ、いつ帰れるかわからないじゃないか!
「今日はもう休みたまえ。これから君を中心にいろいろなことが動きだす。私はこれからその段取りをしてくる。君の負担を減らすようスケジュール管理はしっかりやっておく」
そう言って綾野は出て行った。
部屋にはオレと小柴がとり残された。
「……寝よっか。今日はいろいろあって疲れたし」
「だな。もう何も考えないで眠りたい。おやすみ」
小柴と部屋にあるそれぞれのベッドにつく。
小柴はベッドに横になるなり寝てしまった。
オレもベッドに寝転がろうとしたときだ。
と、そこに妙な人形が置いてあるのを発見した。
「何だこりゃ? 女の子へのプレゼントにしちゃ不気味な人形だな。まるで異世界人のセンスだ」
しかし、どこかで見たような?
何とはなしにその人形を手にしたときだ。
グルン!
「あうぅ!?」
急に意識は反転し、どこか遠い場所へと連れ去られるような感覚を覚えた。
遠くなる意識の最後でオレは気がついた。
これはあの夢のメッセージを見たときの中。
黒幕のラスボスと戦っているとき、アリアが何かしらの武器に使っていた、あの人形だったと―――――




