03話 ラビット・シューズ
「ひどいな。これは」
改めて街の様子を見ると、地獄絵図そのものだ。
あちこちから車の暴走する音、人々の悲鳴がきこえ、いたるところに獣が徘徊している。
それもオレを襲った狼だけでなく、熊、オラウータン、ゴリラ、虎など種類があり、どれも例外なく一つ目であった。
「こりゃ高校まで行くには根性がいるな。やれ、さっそく来たか」
一つ目虎が勢いよく走ってきた。
そこに軽くロッドを向けた。虎はそれにふれた瞬間、爆散・消滅した。
「問題ないな。とはいえ、これじゃ時間がかかってしまうな。………よし。また魔法をためしてみよう」
オレがはいている靴は美織里のシューズ。アリアがもともと履いていたものはボロくて走るのが難しそうだったからだ。
オレはそのシューズに念をかけてみる。【クレッセント・アリア】固有アイテムのひとつ。高く飛び跳ねるラビット・シューズに変わるように。
そういえばアニメ放送中には靴のCMが流れていたな。スポンサーのために作ったアイテムだったか。
オレはロッドを作ったときのように靴に集中して念を送る。
「…………よし。形はそれっぽくなったな。問題は本当にアニメみたいに跳べるかどうか」
ラビット・シューズに変わった靴で思いっきり踏み込んでジャンプ!
すると…………
「跳んだ! 本物のラビット・シューズだ!」
オレは十メートル近くも高く跳び、着地もスムーズにフワリと降りる。
「ふふふ。まさに三日月の夜に舞い降りた魔法天使。邪悪なるものよ。三日月の光に照らされ消え去りなさい! てぇい!」
またまた襲ってきた狼や熊や虎をロッドを振り回して消していく。
相手はほとんど無策に突撃してくるだけなので簡単に消滅させられる。
しかし一つ目どもはあちこちから集ってきて、まるでキリがない。
「ふぅ。そろそろ疲れてきたな。それに、こんなことをやっているヒマはなかったな。美織里ちゃんの危機を救いに急がないと」
オレはその場の一つ目をいなすと、次が集ってくる前にラビット・シューズで跳んでそこを離れた。
◇ ◇ ◇
パパーーン!! パパーーン!! パパーーン!!!
たどり着いた森欧高校の手前。
だがその近くまできてみると、今まで聞いた銃声よりはるかに大きな”それ”が聞こえた。
「大型狩猟用のライフルか? それに数も多い。てことは自衛隊か警察か」
なるほど。緊急時の市民の避難場所に学校を使うのはよくあること。おそらく周辺の市民をそこに集め、警察か自衛隊が守っているのだろう。
ならば美織里ちゃんは無事か。一応様子を確認して大丈夫そうだったら、ここを離れるか。流れ弾とか危ないし。
そう思ってゆっくり高校に近づいたのだが…………
パパーーン!! パパーーン!! パパーーン!!
「…………長いな。いつまで撃つつもりだ? そんなに数が多いのか? …………いや、悲鳴?」
銃声に混じって人間の悲鳴が聞こえる。
銃を撃っているのは人間。撃っている相手は一つ目の獣ども。
それで人間の悲鳴があがっているということは、人間側に被害がでているということか?
「行くか。大丈夫じゃなさそうだ」
若干急いで高校へと向かった。
「マジかよ…………手遅れか?」
その校門を見て思わずつぶやいた。
校門付近には今し方使ったばかりの銃器、ジュラルミン盾などがそこらに落ちていた。
そして辺り一面血まみれで、たくさんの人間の残骸のような肉片も散らばっていた。ネット情報の『銃がきかない』って話はやはりマジだったか。
「バカモノ! 君、そっちに行くんじゃぁない!」
校門の中にかけこもうとしたのだが、誰かに叱られた。
それは機動隊の防具をつけた壮年の男の人。
ここを守っていた隊の生き残りか?
「なんだ妙な恰好をして。外国人か? ここはもう戦場だ。そっちの方は今し方突破した獣がいる。とにかく来たまえ。撤退する装甲車両にのせてあげよう」
「いえ、おかまいなく…………」
その時だ。
校舎の方向から一つ目の虎が突進してきた。
どうやらオレ達の姿が引き寄せてしまったらしい。
「くっ! 君、逃げたまえ!」
男はオレを後ろにかばうと、拳銃を取りだしてかまえ、「パンパン!」と手慣れた様子で撃った。
だが虎はまるでひるんだ様子も見せず、大きくジャンプして飛びかかってきた。
オレはそれに合わせ、ラビット・シューズで地面を蹴った。
男の肩を踏み台にして虎に迫り、クレッセント・ロッドを槍のように突き出す。
「受けなさい! 聖なるクレッセントの輝き!」
バシュゥ!
いつもの通り、虎は爆散し肉片は消失した。
そのまま一回転し、校門の上におり立つ。
「な………っ!? 消滅した!? どうしてアレが? おい君! 君が何かしたのか!?」
くるんっ
校門の上で華麗に一回り。
大きめのロッドじゃ、原作通りのポーズにはならないけどそれでもキメポーズ。
そして魔法少女【クレッセント・アリア】の聖句を謳う。
「三日月の夜に天使はおりたつ。クレッセント・アリア三日月の光に導かれ、華麗に推参!」
パチンッ♡
オッサンに可愛くウィンク
オレの華麗なポーズを、機動隊のオジサンは呆然と見上げていた。