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29話 青き波濤のラヴシーン

 ザッパーーーン!!!


 突然にサメが一尾、クレッセント・アリアのマジカルポーズをキメているオレの背後で舞った。

 オレらを獲物と狙ったサメが海面を跳ねて襲いかかってきたのだ。

 サメは空中で反転し、その鋭い牙の並ぶ口を広げて落ちてくる。


 「わ、わぁぁぁぁぁあぁ!?」


 「騒がないで小柴。可愛いじゃない。わざわざ私の演出をかって出てきてくれたんだから」


 オレは慌てず、パニックになっている自衛官ギャラリーの方へ営業スマイルをして、サメを背にする。

 プラチナクレッセント・ロッドを軽く回してバトントワリング。

 可愛くポーズをキメて「ビッ」とロッドを天に掲げる。



 パーーーンッ!!



 ポーズにあわせてサメは爆散。

 ギャラリーの海上自衛官達の驚愕する顔が心地良い。

 小柴はサメに襲われたショックで腰をぬかして座り込んでいる。


 「アリアちゃん。いま武器が当たってないのにサメを消してなかった?」


 「うん。できるようになった。ヘリから落ちたときいろいろ目覚めちゃってね」


 と、それまで呆気にとられて見ていた艦の乗員(クルー)達が寄ってきた。

 オレンジのライフジャケットを着た海上自衛官達で、そのまとめ役みたいな者が代表で話しかけてきた。


 さて。彼らとの話にあまり時間はかけたくはないな。

 ついノリで【魔法少女ショー】なんて見せてしまったが、こちらにとっては無駄な時間だし。


 「君達はいったい?」


 「ごめんなさい。とりあえず任務中なんで質問はナシで」


 「…………そうか。何も知らされていないが、先ほど殺害不可能なはずの水棲災害獣を消滅させるのを見た。君達が【M兵器】のオペレーターとみていいのか?」


 「M兵器? ………ああ、綾野がそう説明してたっけ。そうそう、そのM兵器を使うからお構いなく」


 「どう見ても民間人の君達が何故これほどの機密に関わっているのか。ともかく情報官の要請は聞いているので任務の邪魔はしない。しかし、この船で何かをするのならば乗員(クルー)として見届けないわけにはいかない。我々も拝見して良いか?」


 「そちらにも立場があるのなら仕方ありませんね。ただ、あまり近くにいられるとやりにくいので、離れててくれます?」


 「了解した。全員、君達より15メートルほど下げよう」


 【M兵器】とやらを話の盾にすると話が早く進んでいいな。

 綾野がオレのことを説明するのに【アニメの魔法少女】より通りの良い言葉を選んだのだろうが、たしかに便利だ。


 さて、そんなわけでオレ達は安全のために船の舳先より中央よりに移動した。

 そしてその周囲15メートルを乗員(クルー)に囲まれているという状況だ。

 小柴も注目の中心になって緊張している。

 

 「な、なんか自衛官の人達の視線って独特の鋭さがあるね。それで何するの? っていうか、どうしてあたしを連れてきたの?」


 「小柴。【走馬灯】って何か知っている?」


 「え? たしか『死ぬ間際にその人の一生分の人生の経験を脳内で見る』ってのだったっけ?」


 「うん。あれって死ぬ前に自分の経験から生存するのに必要な情報がないか、脳内を総検索するものらしいね」


 「ふうん、そうなんだ。でもそれが?」


 「ヘリから落ちた時にね。見たのよそれを」


 本来はオレこと間宮東司のものではないこのアリアの体。

 あの事故のおかげでその脳内にある記憶をかなり見る事が出来た。

 そしてこのアリアの使える魔法もかなり分かり、使えそうなのがいくつかあるのも認識できた。


 「で、この状況に使えそうな魔法を思い出したんで、試してみようと思うんだけどね。ちょっと私の意思だけじゃ引き出せそうにないのよ。だから小柴に手伝ってもらおうと思って連れてきたの」


 「はぁ? アリアちゃんの魔法であたしに手伝えることなんてあるの? そんなものあるとは思えないんだけど」


 「ある。小柴にしか頼めない」


 「どうするの?」


 これを言うのは少し勇気が必要だった。

 できるだけ平静に見えるよう、心を静めて思い切って言った。





 「私に告白してキスしなさい。愛をこめてね」


 「は、はぃい??? なんで!?」



 うん、ワケわかんないね。

 でも『いきなり重篤の恋愛脳になってしまった』とかじゃないから。


 「実は小柴とのキスとか抱擁って、ドキドキしてすごい魔法のパワーを引き出せるみたいなの。だから熱い告白とかキスとかしてくれれば、きっともの凄い奇跡の【絆パワー】を出せると思う。【マジマギ】でみちるとアリア(わたし)が真ん中くらいのボスとの戦いでやった時みたいに」


 「い、いやいや! みちるとアリアちゃんのは、固い女の子同士の友情ではあっても、そんな百合ん百合んな関係じゃないし!」


 「いいから! とにかくやるの! このままじゃ被害が増える一方でしょ!」


 「で、でも、めっちゃ自衛官の人達に注目されてるし! みんな【M兵器】ってのを期待しているのに、あたし達のラヴシーンなんて見せてどうすんのよ」


 「うん。こんな(いか)つい男の人達が見ている中で、女の子好きのカミングアウトと告白とキスをやっちゃうなんて、小柴って男らしいなぁ」


 「や、やらないよ! いくら何でもここでなんて出来るわけないでしょ!」


 「あら? キスなら自分から私にしたじゃない。それに滅亡に向かう世界を救うために体を張る覚悟をしてきたんじゃないの? それとも、ここで戦っている人達の命より自分の貞操とか世間体の方が大事?」


 小柴は「あうぅぅ」と、顔を面白いくらいゆがめ、まわりをキョロキョロ見回した。

 そして意を決したような顔をして言った。


 「……………わかった。やる。うぅっ。女の子とそういう関係になるのは全力で避けてきたのに、初キッスも初めての告白も女の子相手になるなんて(泣)」


 そんなわけで、小柴はオレの前に立ち、瞳を見つめた。

 しかし、自分でやらせているウソ告白なのに妙にドキドキする。

 その端正な顔が、荒れ狂う波濤の中に姫を助けにきた王子にも見えて、心を揺さぶられる。

 小柴はオレの華奢な体をギュッと抱き寄せて耳にささやいた。






 「アリアちゃん。愛してる」



 ギャギャーーーン!



 覚悟してたが、イケメン女子小柴の告白パねぇーー!!!

 なんか息が思うようにできない!

 心臓の鼓動がうるさいくらい鳴る!「


 そして小柴のイケメンな顔がゆっくり迫り、そっと唇と唇がふれた。





 ズッキュゥゥーーーン!!!





 頭の中に電撃が流れるようなショックを受けて、そんな音が聞こえた。


 そうか。本当のキスの擬音って「ズッキュゥゥーーーン」だったんだ。


 漫画じゃわからない事実を知ってしまったな。


 いつの間にかオレの腕は小柴の首をギュッと抱きしめ、キスを返した。



 「ん、んんぅ~~」



 胸が激しく高鳴る。


 『いつまでもこうしていたい』なんて狂ったことを思ってしまう。


 と、同時に胸の中心に熱いものが生まれた。


 オレの体の中で魔法の術式が組まれたのだ。


 それはトキメキの胸にあわせ、どんどん大きくなっていく。



 

 「お、おい君たち。いったい何を…………」


 ギャラリーの海上自衛官が声をかけてきた。

 うん。【M兵器】とやらを期待していたのに、女の子同士のラヴシーンなんて見せられて、困惑しちゃったんだね。

 しかしオレはそんなものに構わず、胸の術式をトキメキのままに肥大させ、激しく打つ鼓動に合わせて解放した。



 「…………うっ!? なんだこれは!? 君達!?」



 オレの体は激しく発光し、周囲を眩く照らした。

 それは巨大な光のドームとなり、東京湾のこの海域を包みこんだ。



 

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