28話 対海獣艦隊決戦
◇ ◆ ◇
東京湾海上自衛隊護衛艦艦隊旗艦ヘリ空母【いずも】 艦橋
「イージス艦【うみかぜ】及び【かいだい】撃沈しました。防衛に穴が開きます。対応をお願いいたします小沢海将」
旗艦ヘリ空母【いずも】の輪島艦長は、司令官席に座る第一護衛艦隊司令官の小沢海将に報告した。
「一度に二隻もか。救助は?」
「無駄です。海に落ちた途端サメの餌ですから。それに圧倒的不利なこの状況で、下手に助けようとすれば連鎖的に被害は拡大します。それでもやりますか?」
「いや。作戦行動を継続する」
小沢海将は指示を出し艦隊の防衛網を再編した。
それが終わった後ポツリと言った。
「……………どちらに乗っていた者も陽気で勇敢で、いい連中だったな」
「ええ。ひどい戦いです。戦友すら見捨てにゃなりませんからね。これが本物の戦争なのかもしれません」
小沢海将は目を瞑り黙祷し、投げ出された乗組員の冥福を祈った。
そして再び眼を開け、決断を言った。
「今までの作戦データでわかった。信じられないが、やはりヤツラは本当に死なない。これより攻撃は海を撹拌し、連中の動きを遅らせることを目的とせよ。空自にもヘリは攻撃ではなく、要人を逃がすことを主目的にするよう伝えろ」
そのとき、ソナー探査を担当していた士官が叫んだ。
「大変です! 【パシフィック・エース号】に接近するクジラ型あり! 50メートル級の大型です!」
豪華客船【パシフィック・エース号】には皇居深奥の御尊体、内閣閣僚、政財界中心人物など現在日本の中枢の要人が多数乗船している。
あの船を守ることは第一護衛艦隊司令官として至上の任務である。
「くっ! あの船は何としても守れ! 使える船、ヘリ、航空機問わずかき集めろ!」
「対潜ヘリ8機来ました! 短魚雷を装備しています。ですが効果があるかどうか」
「こちらも対潜ミサイルを撃つ。タイミングを合わせ一斉斉射だ。うまくいけば方向を変えるかもしれん」
ドッゴォォォン!!!
艦とヘリが一斉射撃をすると。海底が爆発したような爆音とともに巨大な波しぶきが天に舞った。
「全弾命中。海が撹拌され効果観測が困難です。…………うっ!? いえ敵目標、健在です! 目標はスピードを緩めず真っ直ぐ【パシフィック・エース】に直進していきます!」
「やはり無傷、か。こうも人類の武器が無力たぁ悲しくなりますね。小沢海将。こうなりゃ食い止める方法は一つです。海将のいるこの船でやりたくはありませんでしたが」
「かまわん。やりたまえ輪島くん。旗艦とはいえ我々が【パシフィック・エース号】より後に沈むわけにはいかんだろう」
何をするか言う前に理解されたか、と輪島艦長は苦笑した。
本当にこの人は話が早くて良い。
「本艦をパシフィック・エースの前に移動させろ! クジラにぶつけるんだ! 250メートル二万トンがぶつかればさすがに止まるだろう」
「なっ! 船体に穴を開けられてしまいますよ!」
「迷うな。やれ。受け止めている間に要人の方々には脱出をしてもらう。この戦い、どのみち”勝ち”はない。いかにあとに残せるかの勝負だ」
「わかりました。ただ、まだ甲板上にヘリが7機残っていますが」
「おお全機発進! 装備してあるミサイルも弾薬も払拭するまで喰らわせてやれ!」
「はっ了解しました…………いえ、待って下さい! 現在接近中のヘリ内の内閣情報官より要請がありました。『ただ今より【M兵器】の使用を開始する。【パシフィック・エース号】周辺の全戦力は武器の使用を一時中断せよ』だそうです」
「なに【M兵器】? あの不死身の災害獣に唯一効果のあったというシロモノか」
「本当にあったのかい。だったらさっさと出せってんだ。いくつ護衛艦が沈められたと思ってんだ」
とある田舎町で使用され、そこにいた災害獣を消滅させたというその兵器の噂は聞いていた。
その田舎町は現在災害獣のいない安全地帯となり、食料生産の重要拠点へと開発が進められているという。
正直、国民に希望を持たせるためのプロパガンダの類いかと疑ってもいた。
世界中に多大な被害がありながら、対抗措置の動きがあまりにも遅い。
またT県の田舎町でしか使用されていないことも謎だ。
首都である東京の機能を取り戻すことこそ急務であるというのに。
「…………よかろう。全第一護衛艦隊に通達。攻撃中止。どうせ機銃もミサイルも気休め。効果はないのだからな。だが当艦の移動はそのままだ」
「ええ。あのクジラ型は間に合いません。あれだけは当艦が受け止めにゃパシフィック・エースが沈んじまいます。総員衝撃に備えろ!」
ズゥゥゥン!
「くぅっ。さすがに効くな。どうなった?」
「正面衝突ですが、運良く船体に穴は開けられませんでした。現在クジラは目標をこっちに変えて圧力をかけています。が、こっちも押し返しています。力くらべです」
「はははっ。まさか現代最新鋭の設備の塊であるこの艦でこんな原始的な戦いをするとは思わなかったな。だが、これなら上手く時間稼ぎはできそうだ。さて、【M兵器】とやらはどうだ。情報官殿は何をもってきた?」
「ちょうど当艦の真上にそのヘリがきています。映像をモニターに拡大して出します。いまハッチが開けられて……………え?」
「女の子二人だと? うっ!? バカな! パラシュートもなしに飛び降りた!?」
あまりの光景に旗艦いづも全員がそれに気を奪われた。
だが、その少女二人がクジラに接触した瞬間だ。
カカァッ!!!!
一瞬、そこから眩い光が生じた。
反射的に目を瞑り、次にまぶたを開けたときだ。
信じられない光景がそこにあった。
「なっ! クジラが消失した!? モニターの不調か!?」
「いえ、本当にいません! 先ほどまで確かに当艦に圧力をかけていたクジラ型は、跡形もなく消失してしまいました!」
「【M兵器】?…………まさか! おい、落ちてきた少女達はどうなった!?」
「信じられないことに健在です。現在、当艦の舳先に降り立ちました」
「人をやって保護をしろ。話を聞きたい」
◇ ◇ ◇
同時刻 ヘリ空母【いずも】舳先
「ひいひい。ヘリからパラシュートもなしに飛び降りるとか! そのままモンスターに突撃するとか! モンスターが消えたら、このでっかい船に轢かれそうになるとか! あたし、何で生きてるのか不思議だよ!」
死にそうな顔もセクシーなイケメン女子だ。やはり見惚れてしまう。
「私も生きている。大丈夫。案外、平気なもんだよ。こういうのって」
「あたしは魔法少女じゃないよ! アリアちゃんみたいに飛べないし! モンスターも倒せないし! ってか、どうしてあたしも来なきゃいけなかったの!?」
「あ、待って。ギャラリーが集まってきた。先にお約束をやっておかないと」
海上自衛隊のオレンジのライフジャケットを着た乗組員がワラワラと甲板に上がって、こちらに来るのが見えた。
オレはプラチナクレッセント・ロッドをもとのサイズに戻し、クルクルまわしてバトントワリング。
かっこいいキメポーズで見えを切る。
「この世に邪悪はびこるとき。願い聞き届け月の使者は大地に降り立つ。三日月の魔法天使【クレッセント・アリア】ここに推参!」
キラーーン
ポカーーン
海上自衛隊員のギャラリーは、揃ってそんな音がきこえてきそうな顔。
うむ。つかみはバッチリ。
それにしても、キメポーズは久々だけどやっぱり良いな。
森欧町周辺の自衛隊の作戦に参加させられたときには、やらせてくれなかったんだよ。
やはり魔法少女は国家機関に使われるもんじゃないな。