25話 アリアとみちる
「うわあぁぁぁぁぁーーーー!!!」
小柴の声が遠く聞こえる。
空中に投げ出されたとはいえ、オレは飛べるから良い。
しかし小柴は、このままじゃ東京湾海面に叩きつけられ海獣共のエサだ。
(くっ! 届かない! 小柴まで遠い!)
半ば空中に浮遊しているオレと、何の抵抗もなく落下している小柴とじゃあまりに落下スピードが違う。
グングン下へ落ちる小柴と距離を開けられてしまう!
………やむを得ない。
「下へ全力推進!」
空中へ浮かぶときは魔法で集めた空気を揚力に変えることで空中へと浮かぶ。
そして進みたいときは進行と逆方向に空気を流すことによって推力にしている。
だが、今、全ての空気の流れを真上へと向けた。
イチかバチか小柴へ向かっての下方への全力推進を決断した!
これは非情に危険な行為だ。
空中では制止制動は簡単にはいかず、スピードを上げすぎると止まったり曲がったりが出来なくなってしまう。
なのに今は下方に向かっての全力推進をしているのだ。
自分が小柴のためにここまでやれるとは驚きだ。
さっきのキスで乙女のトキメキを覚えさせられたのが効いているのか?
自由落下に併せ全力推進。
さすがものすごいスピードでグングン小柴に近づいていく。
「小柴ぁ! 手を伸ばせ!」
オレは声の限り叫ぶ。
それに応え小柴は手をこちらに向ける。バタバタ手を振っている。
(しめた! 気絶していない!)
オレも手をのばし近づいていく。
ゆっくり、じれったいほど、それでもジリジリと小柴に近づいていく。
(くっ、あと10メートル………5.……4……3………2……1……)
「届いた!」
「アリアちゃん!」
しがみつく小柴の体温を感じつつ、すぐさま空気の流れを下に変える。
魔力の限り全力上昇!
「……………………あれ?」
すでに推力を上昇に変えているのに、まったく落下が止まらない。
自由落下の法則のままに落ちて落ち続ける。
「ダメだ! スピードを上げすぎた! もう落下は止まらない!」
「えええ!?」
オレと小柴は抱き合いながら落ちていく。
オレは必死に風をあやつり落下のスピードをゆるめる。
何とか落ちてもケガをしない程度にはスピードは緩められたものの、落下自体は止められない。
「うわぁぁぁぁ! アリアちゃん! サメが! 下にサメがいるよぉ!!」
ヤバイ! 小柴の言う通りだ。
オレ達の真下にはサメ型一つ目獣の群れ。
海上一面にいる一つ目のサメがオレ達を中心に集ってきている。
このままではヤツらのエサだ!
「くぅぅっ! 飛べ! 飛ぶんだ!」
懸命に手足を動かすも、ジタバタするだけでまるで飛ばない。
あまりに強い海風の中、空中でおぼれたようになってしまった。
糞! こうなったら一戦するか?
しかし、このままじゃ海中に一度もぐるのは避けられない!
海中を自在に動く無数のサメ型を相手に、それも小柴をかかえたままの海中戦なんて自殺行為だ!
―――――ふと、【マジマギ天使みちる】のワンシーンを思い出した。
準ボスクラスの魔物との戦いでマジマギ天使たちは苦戦し、そしてとうとうみちるとアリアは敵の開けた魔界への穴に落とされてしまうのだ。
下には無数の配下の魔物の群れ!
みちる、アリアの二人は大ピンチ!
けど二人の絆が奇跡を起こし、体が光りに包まれたりなんかして、周囲の魔物は消滅させられたりした。
今と状況は似ている。
けど、あんなご都合主義なアニメ的な展開なんて…………
いや待て! さっきヘリのハッチを開けたのはオレの魔法の暴走だった。
いったいアレは何の魔法だったんだ?
……………閉じられたモノを開ける魔法?
いや、違う! それだけじゃない!
この体に宿る記憶でわかる。あれは副次的な効果でしかない。
真の効果はもっと別方面のもの。
オレが魔法で作る武器もあいつら一つ目獣も魔法で作られるかりそめの存在。
それら魔法で組まれた存在を解きほぐし、元の”無”へとかえす魔法。
これだ!
すなわち【解呪】!
そうだ。オレは一つ目獣と戦うとき、いつもそれを使っていた。
あまりに無意識。元のアリアにとっては自然な術のせいで、オレには今まで理解できなかった。
そして小柴とキスをしたとき、トキメキのせいで、それが数倍の威力になって発動してしまったんだ!
だったら……………っ!
「小柴ぁ…………ッ」
思わず甘えた声になってしまったのは、この胸のトキメキのせいか?
返事がかえってこないので見ると、小柴は気絶をしていた。
なら許しをとる必要はないな。
恥ずかしくて小柴の顔が見れないので、目をつむって思いっきりキスをした。
カッ――――
――――――瞬間。
体から何かの力が発動し、発散していくような感覚がした。
オレの体から光りがあふれ、周囲を白光に満たす。
そして――――――
ザプーン!
二人仲良く海水に到着。
周囲に海獣はまったくいない。
何もない海の上を、小柴を抱えて立ち泳ぎでプカプカ浮かぶ。
周囲全ての魔法生物を解呪した。成功だ。
はからずも”あのシーン”そのものになってしまったな。
「あ………あれ? サメは? あんなにいたのにどこに行ったの?」
海に落ちた衝撃で小柴は目を覚ましたらしい。
とまどったようにキョロキョロあたりを見回した。
「【マジマギ】で幹部の【グロイゾー】と戦っていたとき、みちるとアリアは魔界に落とされたでしょ。で、下に待ち構えていた魔物を二人の絆パワーで一掃したじゃない。あれよ」
「……………ああ、あったね。そんなシーン。でもアニメはともかく、あたし達にそんな絆とかあったっけ?」
キョトンとした顔を向ける小柴の顔がやたらカッコ可愛く見えてしまう。
抱き合いながら海に浮かんでいる体がやたらドキドキする。
近くにある小柴の顔がまともに見れない!
気恥ずかしくて、ときめいて、思わず顔を背けた。
恐るべしイケメン女子!




