22話 森欧町開拓
「なんだこりゃ! たった5日の間にどうしてこうなった!?」
親父と共にの森欧町までの路の整備任務。
道中幾度か一つ目獣は襲ってきたが、大した規模のものはおらず軽く撃退した。
さらについてきた警備隊員にもオレの創った槍を使わせてある程度は撃退できるようにしたので、さほど苦労もなかった。
肝心の道路の整備も、大きく破損した部分はなく路上に置かれたままの車をどかすだけですんだ。
そんなわけで意外にも早く翌日には森欧町へとたどり着いたのだが。
あまりに様変わりしたその町の様子に唖然とした。
「凄ぇ工事をしてんな。こりゃ町全体を大改造してるって感じだな」
それを見て親父は暢気にそんな感想を言った。
まず、建設中の骨組みの壁が大きく町全体を囲うように作られかけていた。
それを越えると、中は果てしなく続く一面の畑と田んぼへの整備中。まだ土で掘り返しただけのような未完成部分であるが、車で行けども行けども耕作地は続いている。
「しばらく見ねえウチに凄ぇことになっちまったな。ま、世の中がこんなんなっちまったんだ。何より食いもんを増やさなきゃなんねぇんだろ」
「いやしかしオレが出たときはこんな作業なんてなかった! あれからどうやってここまで?」
上空では幾機ものヘリが「バラララ」と、うるさくプロペラ音をたてながら行ったり来たりしている。あれは自衛隊のものか?
まさかこの大工事は自衛隊がしているのか?
「やぁアリアくん。一別以来だ。向こうで我々に協力してくれる気になったようで嬉しいよ」
指定された居住区へと車を進めると、そこには意外な人物がオレ達を迎えた。
ここへ来る前、獣災害対処の協力要請とかした綾野とかいう警官だ。
避難所のお偉いさんにオレのことを教えたのもコイツらしいし、この様子じゃ以前の話をまだ諦めていないんだろうな。
「避難所の人達をここへ送る間だけ! 本当にこの仕事だけ!」
このままでは果てしなく仕事をさせられそうなので、ちゃんと釘を刺しておく。
すると綾野は今度は隣の親父に挨拶した。
「間宮さん。ご協力ありがとうございます。当移送計画の受け入れの指揮をとっている警視庁警視の綾野です。おたくの娘さんの居場所は把握しております。これからご案内いたしましょう」
なに! 美織里ちゃんの場所だと!?
「やぁ、わざわざすみませんですな。しかしよく俺の娘のことなんて知っていましたな?」
「ええ。いろいろ縁がありましてね。アリアくんも来るかい?」
「もちろんだ! ぜひ連れていってくれ!」
『ニヤリ』といった感じで綾野は笑った。
くっ! なんとなく周りを囲い込む罠の臭いがする。
いやしかし美織里ちゃんに会えるなら罠なんて関係ない!
「しかし町はずいぶんな大工事ですな。自衛隊の制服なんかもちらほらいるし、ヘリまで飛んでいる。いったい何が始まったんですかい?」
「お答えしましょう間宮さん。森欧町は内閣政令により食料生産重要指定地に認定されました」
内閣の政令? やけにでかい話になったな。それなら自衛隊のヘリがやたら飛んでいるのもうなずけるが。
「今年一年は備蓄やそこらに遺棄された食料で何とかなるでしょうが、将来的には大きな食料不足がおきます。なにしろ獣のせいで安全に農作業をできる場所など世界のどこにもありませんからね。森欧町を除いて」
なるほど。農業ができる安全な場所はここだけというのは確かだ。
だがそれを政府に報告し、段取りを整えたのは間違いなくこの綾野だろう。
なら当然オレのことも。
………………早めにこの町を出るべきか?
「幸い森欧町は豊富な農地と農業施設があります。このように自衛隊も派遣されましたし、すぐに大量の食料を生産できるようになるでしょう」
「しかし自衛隊は首都や主要都市を守るために活動してるんじゃ? この作業で戦力が足りなくなったりは?」
「政府は地上施設の防衛を一部あきらめました。国内の使える船を種類問わずかき集め、そこに国民を避難させる計画を実行中です。この計画の中心は海自。移送は空自が当たるため、手の空いた陸自がこの任にあたっています」
避難民を海上に? たしかに海の上に一つ目獣はいないが、そこまで追い詰められているのか?
「綾野さん。現在日本の人口はどのくらい残っているんですかい? 俺が見た感じじゃ、生き残るのはよっぽど運が良くなきゃ無理ってもんに見えましたが」
親父が気になることを聞いてくれた。
「確認まではできませんが、約5500万人ほどと見られるそうです」
「発生前の半分ですかい! 改めて大変な事態ってやつですな!」
「日本は条件が良いからまだ多い方ですよ。他国はおそらく四割ないし三割といった所でしょうか。生存した人間の大半はやはり海や河、湖など水上に避難しています」
水上か。それなら獣も手出しできないな。
夢の中に出た黒幕っぽいヤツはこの世界の人間をほぼ全滅まで喰らうことを計画しているみたいだが、それは不可能だろう。
生き残った人間の大半が水上にいるなら、送りこむ一つ目獣にはどうしようも……………
――――ナゼ水上ノ獲物ハ狩レナイト勘違イシタ?
「………………え?」
またまた誰かにささやかれたような気がした。
だが当たりを見回してみても誰もいない。
「どうした? アリアくん」
「……………いや、何でもないです」
また空耳か。しかし妙に不安な気持ちになったのもたしかだ。
ま、考えてもしょうがないか。美織里ちゃんが待っているし。
綾野のあとをついていき、やがて美織里ちゃんの声が聞こえてくると、オレは全てを忘れた。




