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02話 モンスターパニックの町

 深いまどろみから目をさました。


 「……………う? 生きているのかオレは。あの獣はいったい………?」


 え? なんだ? 自分の声が女の子みたいに可愛いぞ?

 ふと見ると、自分のそばに血まみれのヤケにグロイものがあった。

 それをよく見てみると…………自分(オレ)!?


 それは自分の死体だった。

 毎朝、鏡でよく見るオレの顔が苦悶の表情を浮かべて、無残な惨殺死体となってそこにあったのだ!


 「どどっどどどどどどどどーいうことだ!? ここにオレが死んでいるってことは、オレは誰だ!?」


 ……………やっぱり声がおかしい。女の子そのものだ。

 自分の手や体をよく見てみると…………女の子!?

 自分の体が細くて小さい女の子のものに変わっていたのだ!


 いや、この体。この異国風の服。見覚えがある! 

 いつもエサをやっていたアリアのものだ! まさか!?


 自分の鞄から、身だしなみを整えるためにもっている小さな手鏡を出して、自分の顔をみてみると………やはりそれはアリアのものであった。

 自分の体はあの異国少女アリアに変わっていたのだ――――――!!!



 その場にへたりこみ、しばし呆然と空と自分の死体とを見比べた。

 太陽が真上に登る頃、ようやくショックからさめ、これからのことを考えられるようになった。


 「ハァ。もうこうなった原因なんか考えても仕方がないか。どうせ分からないんだし。もうオレはアリアとして生きていくしかないか。とにかく自分の死体をどうにかしないとな」


 これから自分の死体とあの危険な獣のことを警察に知らせなければならない。

 あとは身元不明な異国人少女な自分の保護をたのまなきゃな。

 ふと、オレは思い出した。


 「そういや、アリアはどうやってあの獣から身を守れたんだ? 剣みたいなのを持っていたような気がするが、それらしい物はどこにもないし」


 気になることはあったが、ともかく自分の鞄を持って町へ戻り、警察に行くことにしたのであった。





◇ ◇ ◇


 「騒がしいな…………」


 町に戻って感じたそれが最初の感想だった。

 何かしら車の暴走するような音があちこちから聞こえ、人々の悲鳴、そして銃声のようなものまで聞こえてくる。


「事故か? しかし、あちこちから銃声まで聞こえるのは?」


 いぶかしんで町に来たオレは、あの悪夢を再び見た。

 あの黒い一つ目の獣が幾匹もいて、それが町の人々を襲っていたのだ!

 いや、たしかに一つ目だが、種類は狼だけじゃない。虎、熊、ゴリラ、オラウータンと、多岐にわたった種類の獣が町中におり、逃げ惑う人々をおそっている!


 ドッガーーン!!!


 ひときわ大きな音がしてそこを見てみると、車が建物の壁に激突していた。

 その車には数匹の獣がまとわりつき、車の中にもぐりこもうとしている。

 そして、車の中からは男、女、子供の悲鳴がきこえ、ボリボリ何かをかみ砕く音までも聞こえてくる。


 「助け…………るのは無理だな。いや、それよりオレも逃げないと!」


 踵を返し、逃げようとした。

 だが、いつの間にかその背後には一つ目狼がそこにもいた!

 方向をかえ逃げようとしたが、またしてもそこには、車を襲っていた獣が、今度は狙いをこっちに変えて迫ってきていた!


 「だ、ダメだ! また死んでしまう! せめてあの剣でもあったら!」


 危機が訪れるオレが思い出したのは、間宮東司だった自分が、死の直前に見たような気がしたこの娘(アリア)が持っていたあの剣。細身で異国風の意匠のある、あまり実用的には見えなかったあの剣であった。



 「……………え?」


 いつの間にかそれは自分の手の中にあった。

 自分はいつの間にかその細身の剣を握っていたのだ。

 一瞬、その不思議な現象に心奪われたものの、狼共がとびかかってきたことで危機に意識がむいた。


 「くっ! このおぉぉ!!!」


 渾身の力をこめて向かってくる狼に剣を突き立てた。

 もっとも、こんなちいさな女の子の力じゃ力負けして弾かれる。

 そう覚悟したのだが――――――


 ボシュゥッ!!


 「え…………?」


 自分の見たものが信じられなかった。

 剣がその狼に触れたとたん、狼は爆散してしまったのだ。

 まったく手応えのようなものは感じず、ただ触れただけなのに。


 「おおっ!? もしかしてこれハイレベル装備? 魔物系のモンスターに絶対の効果をもつ聖属性のウェポンか?」


 ゲーム脳なオレはそんな発想をしてしまった。

 今度は自分から切り込んだ。意外とこの体は動きが機敏で、動こうと思った瞬間、剣を獣共の体に届かせた。


 ボシュゥッ! ボシュゥッ! ボシュゥッ! ボシュゥッ!!!


獣共はみな、剣がふれた途端に等しく消滅した。


 「はっはっは。さすが【クレッセント・アリア】。魔物に最強!」


 このアリアという子は本当に魔法少女だったらしい。

 ともかく警察に行く予定はあきらめて、オレの家に帰ることにした。

 親父もお袋もこの時間なら仕事だし、妹の美織里ちゃんも学校に行っているはずだし。


 家に帰ると、早速テレビをつけてあの獣についての報道を見てみる。

 いったいあんな危険な獣はどこから来たのか。

 町中が襲われている所から、テロの可能性が高いか?


 「マジかよ………」


 ニュースによれば、それは思った以上に深刻な事態だった。

 あの獣はこの町だけではなく日本中に被害を及ぼしている。

 いや、海外からも同様の被害の報告がきているというのだ。

 政府は特別対策委員会を設置し、機動隊だけでなく自衛隊にもこの獣災害への対処にあたらせることを決定したそうだ。

 市民には避難を呼びかけ、避難が無理そうならば近くの頑丈な建物にたてこもることを警告していた。


 「大変なことになったな。いや、オレもそうか。自分は死んでいるし、アリアにはなっちまったし。ネットもみてみるか」


 自分の身におこった不思議はともかくとして、ネットの方で詳しい情報を集めてみる。

 それを見るまでは、いかに危険とはいえ所詮は獣。自衛隊なり警察なりが銃器をもって鎮圧すれば、すぐに収まるだろうと思っていた。

 だが、いま起こっていることは想像以上に深刻な事態だった。


 「銃が…………きかない?」

 

 今朝未明にいきなり現れたこいつらに対し、すでに殺処分にうごいた警察や軍はあったという。

 ところが彼らがそろえて撃った銃はその獣どもにはまるで効かず、殺すことはおろかケガを負わせることすら出来なかったという。

 殺せぬ不死身のバケモノというなら、警察も自衛隊も不安だ。

 まぁ、魔法少女なオレには消滅させられるが。


 「美織里ちゃんは無事か? さすがに親父、おふくろの職場までは行けないが………森欧高校までなら、なんとか。行ってみるか」


 しかし、はたと自分の姿に思いあたった。


 「会えたとして、どう話すかなぁ。いまのオレはアリアになっちまってるし………そうだ!」


 どうせアリアになってしまったなら、とことん【クレッセント・アリア】になってやろう。

 オレは二階に上がって美織里ちゃんの部屋にはいった。そこで衣装ダンスをあさって、目的のものを探した。


 「あったあった。やっぱ、まだ持ってたな。苦労して作ってたもんな」


 それは前にコミケで着た【クレッセンント・アリア】のコスプレ衣装。

 オレのリクエストに応え、本当にやってくれた美織里ちゃんは本当に良い子だ。

 一度だけしか着なかったはずだが、やっぱり大事にしまっておいたな。

 

 そのやたらヒラヒラした服をきてみる。

 あと下着も拝借。兄としては変態行為のようにも思えるが、女の子になってしまい、女性下着が必要なのだからしょうがない。


 しかしアニメじゃ、アリアはこれを着てブラックムーンの魔物使徒と殴りとばしたり蹴りとばしたりのバトルをやっていたんだよな。女の子向けのアニメなのにセメントマッチみたいなバトルシーンだった。

 魔法なんて使うのは変身するときとトドメのときだけだった。

 考えてみると、魔法少女っていったいなんなんだろう?


 それはともかく、衣装を着て髪をポニーテールにして鏡を見てみると、かつての二次元の”憧れ”がそこにいた。美織里ちゃんと【マジマギ天使みちる】について熱く語り合った日々を思い出す。


 「うおぉぉぉぉん!!! リアル【クレッセント・アリア】だあぁぁぁ!!!」


 ………………いかん。自分に感動してしまった。マジ泣きしてしまったよ。


 剣を握り、町に出れば襲い来るであろう獣たちとの戦いに重いをはせる。


 「しかしこうなると、武器も【プラチナクレッセント・ロッド】にしたいなぁ。まぁこの剣も洒落てていいんだけど、短くて相当近づかなきゃならないし…………まてよ?」


 どうもこのアリアは本当に魔法を使えるような気がする。

 それは武器を具現化する魔法。

 そしてこの剣も魔法で出したものだった。

 ならばできるのか? 自分の望む武器を創成することが。


 オレはこの剣の形態をクレッセント・アリアの武器【プラチナクレッセント・ロッド】になるよう念じて集中してみる。

 長い得物の方が遠くから迎撃できるので本来のものより長めに。先端の三日月の形の意匠も大きめに。


 しばらく念じたあと、目を開けてみると、それは――――


 「やったぁ! 本当に出来たよ。これがあってこその【クレッセント・アリア】!」


 剣はオレの念じた通りの形へと変わっていた。

 すなわちデカい【プラチナクレッセント・ロッド】に!


 「よし、これで【クレッセント・アリア】は完全体だ。この姿で助けたならば、美織里ちゃんは感動して声も出まい!」 


 オレは元気よくロッドを携え、美織里ちゃんの通う森欧高校を目指して出発した。

 

 

 

 

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