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15話 脅威せまり来る

 ◇ ◇ ◇

 ソウキュウ百貨店避難所・警備本部


 百貨店三階に設置された警備本部。

 ここは避難所防衛の指揮を担い、外部との連絡や作戦の協議もここで行われる。

 従事しているスタッフはT県県警の職員。

 モンスター発生より数日間、ここでは日夜苦しい戦いを強いられている。



 「本部長。誘引を担った沙田間市機動隊は完全に撤退しました。誘引脱出作戦は失敗です」


 オペレーターのこの報告に、避難所警備部を統括する本部長は落胆した。


 「…………そうか。作戦を一から練らないといかんな。まさかSATも参加している機動隊がケダモノ如きに遅れをとるとはな」


 つい先ほどまで、この警備部は外の機動隊との連携で、大規模な避難民の脱出作戦を展開していた。外の機動隊が周辺のモンスターを引きつけている間に、避難民を脱出させようというものだ。


 だがモンスターの圧力は想定以上に高く、誘引を担う機動隊の被害は甚大なものとなり、撤退を余儀なくされた。

 状況はふり出しに戻り、またしばらくここで長い防衛戦をしなければならないだろう。


 「本部長。どうか気をおとさずに。まだ終わったわけではありません」


 「いや。落胆はしても、それで思考を止めたりはせんよ。少なくとも【森欧町】という希望があるうちは絶望などしておれんさ。それに向こうも諦めてはおらん。連絡では隊の再編ができ次第再び作戦をはじめるそうだ。各所の連絡は緊密に保て」


 脱出予定地は森欧町であった。

 当初はこの小さな郊外の町も、他の地域と同じように一つ目モンスターの襲撃にあったという。ところが何故か、ここ一週間の間にこの地のモンスターは急速に数を減らし、今では世界でも有数の安全地帯となっているそうなのだ。


 「撤退した機動隊は森欧町に行き、自治体から”一つ目”に対しての手段を聞き出してから、作戦を再開するそうだ。森欧町はすでにあの不死身の奴らに有効な手段を見い出している。諸君らも希望を捨ててはいかんぞ」


 警備部の皆は本部長の言葉に大きく「はっ了解しました!」と応える。

 作戦失敗に気落ちはしたものの、まだまだ彼らは壮健だ。

 少なくとも【森欧町】という希望が近くの町にあるのだから。


 だが、状況は次の作戦を臨む間もなく悪化する。

 再びのオペレーターからの報告で、予断を許さない状況が迫っていることを知らされたのだ。

 

 「ただいま報告がきました。さらに悪いニュースです。沙田間市機動隊が誘引していたモンキーズですが、隊の完全撤退とともに反転。進路を変え、こちらを目指しているそうです。狙いは間違いなくこの百貨店避難所でしょう」


 「なにっ!? 猿共が戻ってくるだと!?」


 幾度も一つ目獣と戦った者達の間では、オラウータン型・ゴリラ型の猿類を特に【モンキーズ】と総称して恐れている。

 理由は数多種類の一つ目獣の中でも、それらは特に厄介で防衛が難しいためだ。

 それらは四つ足型では侵入が難しい場所にも難なく入り、高い壁はおろか高層ビルすらも登って襲ってくる。

 さらに知能も高く、戦術のようなものまでも使ってくるのだ。


 「ちぃっ厄介な。アレが来たなら、間違いなく避難所の寿命は縮むぞ。しかし機動隊がやっと連中を遠くへ引き離したというのに、また戻ってくるとは。やはり奴らは知能めいたものがあるのか?」


 本部長は頭をふって疑問をふりはらった。

 奴らの知能の如何など上の専門家にでもまかせればいい。自分の役割は、この避難所を守るために全力を尽くすことだ。無論、そこには自分の思考力も含まれる。


 「虎の子の投網弾をつかえ! やつらをからめ取って防御壁を登らせるな! 奴らは間違いなく四つ足共とは格が違うぞ。予備もいつでも出れるよう準出動態勢をとらせろ!」





 ◇ ◆ ◇


 ソウキュウ百貨店避難所・一般区



 オレは今、絶え間なく響く「アリアちゃ~~ん!」の声援に戦慄している。


 「………………いかん。調子にのって魔法を見せすぎた(汗)」


 いつの間にか子供、大人の人だかりができた周囲を見渡して、思わずつぶやいた。

 オレをアイドル視する比奈子ちゃんの声援が妙に気持ち良く、サービスでプラチナクレッセント・ロッドを消したり出したり大きくしたりのマジック・バトントワリングショーをしていたら、いつの間にかこの人だかりだ。


 ひっきりなしに響く「アリアちゃーん!」の声援に、ひきつった笑顔で手をふりながら『これからどうしよう?』と、思っていた矢先だ。

 この原因である比奈子ちゃんの姉の椎名裕香がもどって来た。


 「いったい何があったの? この有様はどういうこと?」


 「比奈子ちゃんをあやしていたら、こうなった。やっぱり私、子守とか向いていない!」


 「意味がわからないわ。子守とは別の才能があり過ぎてこうなったんじゃない? それより頼まれていた”間宮志織さん”のことだけどね。代わりにあの人を連れてきたわ」


 彼女が連れてきたのは、お袋ではなく男であった。

 そしてそれは、オレにとってあまりに以外な人物であった。


 「お嬢ちゃんかい? ウチの母ちゃんを探してるってのは」


 「親父………ッ!」


 椎名裕香が連れてきたのは、お袋ではなく親父の方であった。

 親父も心配ではあったが、仕事がドライバーなのでどこにいるかも分からないため、探しに行くのはあきらめていた。


 「頼まれていた”間宮志織さん”はすでにお亡くなりになっているそうよ。こちらの”間宮南司さん”はその旦那さんだけど、モンスターの出現と同時に奥様を迎えに来て、そのままこちらに避難していらしたの」


 そっか。お袋はダメだったか。

 けど、親父が生きていたのは素直に嬉しい。


 「で、お嬢ちゃん。俺なんぞに用はないだろうが、ウチの母ちゃんとどんな知り合いかだけでも話してくれないか。母ちゃんとアンタみたいな子の関係ってのが、ちょいと想像つかなくてね」


 他人行儀な話し方をする親父に、ちょっと泣きそうになる。

 いい加減で腹の立つことも多い親父ではあるが、やはりそれなりに好きではあったみたいだ。


 「もしかして美織里の友達かい? 娘がちょうどアンタくらいの年頃なんだが」


 ボケてんな親父。

 少なくともアリアは高校生の年頃には見えんぞ。

 それとも親父くらいの年になると、中高生の見分けはつかなくなるのか?


 「あ~『美織里ちゃんの友達』ね。まぁ、そういうことにしてもいいんだけど」


 やはりオレは家族に弱い。

 どうにも適当な嘘でやり過ごす気にはなれない。

 親父に近づき、他の人間には聞こえない位置につくと、つい言ってしまった。


 「親父。オレは東司だ。あんたの息子だよ」




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