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14話 魔法少女は女の子のアイドルです

◇ ◇ ◇


 その家族はこの中では幸運な方だった。

 ここにいる大多数の者は、あまりのいきなりなモンスターパニックに対し、持っていた手荷物だけで避難するしかなく、家族の安否すらままならない人達が大半であった。

 だがその中にあって、この椎名家三姉妹は母親が亡くなったものの、父親が車で姉妹全員を非常用荷物を持って連れ出すことに成功し、この避難所へ来ることができたのだ。


 その父親は元自衛官の予備自衛官であったため、ここの警備に任命された。

 ちなみに予備自衛官とは、必要な時だけ自衛官の任にあたる一般人だ。元自衛官や一定の訓練を受けた民間人がなるものだ。

 なのでその娘の三姉妹はこの避難所の一隅で長い長い待機生活を送っている。


 「小さい子供つきの避難民って地獄だわね。絶望的に重い荷物だわ」


 椎名裕香は本人がいるにも関わらず、思わずそんな言葉がこぼれた。


 「ねーねーお姉たん。おうち帰ろうよー。ここ人がいっぱいでやだよー」


 ホームシックでぐずる末妹の比奈子はまだ五歳。危機的被災にあって、この小さな妹はあまりに重い。自分もまだ中学生になったばかりの十三歳だというのに。


 「何度も言ってるでしょ。外は猛獣が一杯で帰れないの」 


 「ぶろーくんへいと? まものがおそってきたの?」


 ブロークンヘイトとは、前にやっていたアニメ【マジマギ天使みちる】に出てくる敵の魔物の名前だ。去年放映されたアニメだが、そこに出てくる魔法少女の一人がわたしの名前と同じなので、今だに我が家での記憶に鮮明だ。

 とくにこの下の妹の比奈子は物心ついたばかりに見たアニメということもあって今だ大好きだ。

 家にいた頃はおもちゃのマジックステッキを振り回して遊んだり、ブルーレイを何度も見たりしていた。


 「いや、マジマギの話じゃなくってね。警察とか自衛隊とかの武器もきかない本物の魔物が…………」


 裕香は説明に困った。考えてみれば、今まで空想の世界のものだったはずの魔物が本当に出てきてしまったのだ。それこそマジマギに出てくるような。

 物語と現実の区別もつかない幼い子供に、それを説明するのは大変だ。

 それに本物の魔物は出てきても、それを倒す魔法少女は出てこない。


 「つまり絶望しかないのよね。こんな現実、比奈子にどう教えたものか」


 裕香はため息まじりにこぼして、幼い妹から目をそらした。





 「おーい裕香姉、比奈ちゃん!」


 元気な声が向こうから来た。そこから元気なボブカットの女の子が駆けてきた。

 三姉妹真ん中の妹の睦美だ。こっちは小学校高学年の十一歳。すでに幼児の時期は終わっているのが救いだ。


 「裕香姉、比奈ちゃん。なんかあっちにすごい子がいるよ。なんと【マジマギ天使みちる】の【クレッセント・アリア】のコスプレしてんの! それもパツキンの外国の女の子がやってて、クオリティもすごいよ!」


 「え、アリアちゃんいるの? 見たい!」


 「避難所でコスプレやるアホとかいんの? もの凄い強者ね」


 前言撤回。魔法少女も出てきた。外の魔物は倒せないだろうけどね。


 「裕香姉、今度はあたしが比奈ちゃんを見てあげるよ。比奈ちゃん、一緒に見にいこう」

 

 「うん! アリアちゃん見る! 睦美ちゃん行こう!」


 「待ちなさい睦美。荷物を見てて。わたしが比奈子にその子を見せにいくわ。わたしも退屈すぎて変わったものが見たいのよ」


 「え~~あたし留守番? 早く帰ってきてよ、裕香姉」


 「動くんじゃないわよ。場所も荷物も大事なんだから」




◇ ◆ ◇


 向かい風に煽られ何度も死にかけながらやっとデパート屋内へ入った苦労はともかく。

 ようやく入ったここは棚も商品も片付けられ、その広い空間の中に何十人何百人もの避難民が思い思いに座っている【ザ・避難所】であった。


 そこにいる人達の顔はやはり憔悴したものが多い。

 中には犯罪実行直前や自殺一歩手前みたいなモノまである。

 モンスター発生からここに居るとなると、待機生活は一週間ほどか? 

 ……………………なるほど。キツいな。


 そんな中、オレはお袋を探すためにフロアにいる避難民の中を探したり、聞き込みをしたり。

 だがいかんせんパツキンの外国人少女が、ハデな魔法少女コスプレして動いてるんで目立ってしょうがない。

 とくに小さいお子様には大人気だ。

 握手を求められたりは可愛いものだが、ついてくる奴までいる。

 迷子になったらどうすんだ。責任とか持てねーぞ。


 「あ~~~ほんとうにアリアちゃんいた! すごいすご~い!」


 「うわっ天然モノのパツキン! しかも本当にアリアちゃんにそっくりだわ」


 またまた新しい見物客が来てしまった。客とかいらないんだけどな。

 今のオレと同じくらいの年頃の女の子と幼女の姉妹らしき二人だ。

 厄介そうなのにつかまった。


 「ねぇあなた。ちょっとだけウチの比奈子につき合ってくれない? 一週間もここにいると、グズってしょうがないのよ。リアルな【クレッセント・アリア】ちゃんが遊んでくれるなら、気晴らしになると思うし」


 「私は人を探しているの! 子供達の魔女っ子ショーをやるために命がけでここに来たんじゃないのよ!」


 「だったら何でそんな恰好してるの? 魔女っ子ショーやるための恰好にしか見えないわよ」


 ぐげふぅっ!

 そうなんだよな。別に【クレッセント・アリア】の恰好で来る必要なんてまったくなかったんだが、妙に【クレッセント・アリア】を演じるのが気に入ってしまった。で、今日もこのまま来てしまった。

 

 「まぁいいわ。その人捜し、お父さんに頼んであげようか? ウチのお父さん、予備自衛官でね。任務でここの警備をやっているから、名簿とかを調べることもできるわよ」


 「本当!? じゃあお願い!」


 「ええ。それで? どんな人を探しているの?」


 オレは彼女にオレのお袋の名前とその他の特徴を説明した。


 「………間宮志織さんね。ここのデパートで働いている人か。ここで働いている人は、配給とか設備の操作とかのスタッフをしているはずよ。すぐにわかると思うわ」


 「頼む。この子はしっかり見ててあげるから」


 「それじゃ比奈子。ちょっとお父さんとこ行ってくるから、このアリアちゃんと一緒にいなさい」


 「は~い! ねーねーアリアちゃんまほう見せて! ぷらちなくれせんとろっど出してー!」


 「このおバカ! なんて無茶振りを! ごめんなさいね。気にしないでいいから」


 「あー問題ないんで大丈夫でーす。来たれプラチナクレッセント・ロッド!」


 マジックに見えるよう、くるり背中を向けながら、二人から死角を作ってプラチナクレッセント・ロッドを顕現させる。

 再び二人に向いたとき、【クレッセント・アリア】の固有武器【プラチナクレッセント・ロッド】をクルリと回してポーズをきめる。


 「ええええ!? うそっ!?」


 「わーー! すごーいすごーい! さすがアリアちゃーん!」


 「マジックつきのコスプレとは。さすが舶来モノのコスプレイヤーは違うわ」


 そのままバトントワリングのようにロッドをくるくる回す。

 上に下に回しながら自分も回る。

 ロッドを足の下くぐらせたり、放り投げてまた掴んだり。

 比奈子ちゃんは大喜びだし、周りからも見物客が集ってくる。


 「ありがとう。比奈子、ひさしぶりに笑ったわ。それじゃお父さんに頼んでくる。比奈子をちゃんと見ててね」


 「まかせて。月光の魔法天使【クレッセント・アリア】の魔法は子供たちに笑顔をもたらします!」


 「どうしてあなたはそうノリノリなの。この緊迫した状況で」


 

 


 


 

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