13話 要塞デパート
「うん、やっぱりここの、おはぎは美味いな。あんな危ないファンができるのも分かる気がする」
オレは現在、駅ビル一階にて食事中。
おはぎマニアの連中があんまり美味しそうにおはぎを食べていたので、それを賞味している最中だ。
「ふう。もう入らないな。他の商品も味見したかったが無理か」
悲しいことに、アリアの体はあんまり入らない。
苦労して一階の一つ目獣を全滅させても、食べられたのはこのおはぎとおにぎり一個。あとは惣菜を少々つまんだら腹一杯になってしまった。
食品フロアにあるたくさんの食べ物を見回すと、本当に無念だ。
「時間とともに傷んでくるだろうしなぁ。持って帰ろうにも、空を飛んでいく関係上あまり持てないし」
あまり重量を上げると、空中でバランスをとるのが難しくなるんだよね。
誰かをここに連れてくるのも骨だし。
つまり、ここにある食料の大半は無駄になってしまうわけだ。もったいない。
「どっか近くに空きっ腹かかえた可哀想な奴でもいないかね。いるわけないか。こんなモンスターだらけのど真ん中に」
――――――ん? 何か今思い当たることがあったような?
……………………思い出せないな。まぁいいか。もったいないお化けなんか気にしててもしょうが無い。
目指すはデパートだ。おふくろの安否を確かめなきゃな。
思い浮かびかけた”何か”を振り払って、オレは駅ビルをあとにした。
「なんじゃこりゃ!」
ソウキュウ百貨店。
おふくろが働いていたその場所に来てみると、思わずそんな声が出た。
そこは要塞と化していたのだ。
一階のシャッターは全て閉まっており、さらに周囲には車が固めており、さらにさらにその上には車が壊れるのもかまわずガラクタなどが積み上げられていた。
さらにさらにさらに、その上でフル装備の警官達が集ってくる一つ目獣をさすまたのようなもので押して阻んで入ってこられないように奮闘している。
なるほど。殺せないなら守備に徹して、というわけか。
周囲を注意してよく見ると、ここを要塞化することに選ばれた理由がわかる。
巨大な建物でありながら周囲に他の建物は隣接してなく、道路に囲まれた中にあるので資材が運びやすい。
理由はだいたい、そんなところだろう。
「そういや、中東の紛争とかで市街地が戦場になった映像に、こんなのがあったな。おふくろの職場が避難所になっているなら希望はあるか?」
見た所2階3階といった浅い階には警察の守備隊のようなものが入っていて、一般の避難民は上の階に集められているようだ。
避難民のためのフロアは10階分くらい? もっとか?
つまり相当数の人間がここに入っているということか。
ここからおふくろ一人を探すのは苦労するな。
「あの警官隊に見つかったら面倒そうだ。やはり空中からこっそり行くか」
オレはその場から踵を返し、近くのビルへと向かった。
つまり狙いはアレだ。ビルからビルへのフライイングダイブだ。
空を飛べるようになったとはいえ、そこまでの高度をとるのはさすがに怖い。
しかしこれも愛しのママンのため………いや『愛しのマイシスター美織里ちゃんのため』って意味が強いな。
美織里ちゃんが家族全滅して孤児になるとか悲しい! 悲しすぎる!
「美織里ちゃん。お前のためにアリアは飛ぶ! 鳥になってどこまでも飛ぶ! アイキャンフラーーイ!」
「こ………怖かった! 向かい風にあおられて、どこへ飛ばされるかと思った!」
『鳥になって飛ぶ』とか、本当に飛べるようになっても難易度は高かった!
航空力学とか学んでないから理屈はわからないが、高度のある場所では揚力がすごいのだ。
おかげでなかなか下に降りられないし、ちょっと空気圧をおとして下降しようとしたら、急落下して死にかけたし。
必死の空中遊泳で、やっとのことで目標のデパート屋上に泳ぎ着いた。
屋上の安定した地面を両手両足でつかみ、その安全さに思わず笑みがこぼれる。
「は………ははははっ! やったぞ! 美織里ちゃん、お前のためにお兄ちゃんはやったよ!」
空に浮かぶは愛しの妹の姿。
その面影に拳を振り上げ叫んだオレだった。
さて、いつまでも成功の余韻を味わってもいられない。
屋上出入り口から下に降りよう。
出入り口はどこかな?
「…………………………ない? 出入り口がどこにもないだと!?」
立ち上がり付近を見渡しても出入り口のようなものはない。
あ、ここは高層ビルだから、屋上のないタイプの建物だったっけ?
てことは、下で開いている窓を探さなきゃいけないってことか?
空中ホバリングとかしながら?
「いやいやそんなまさか! そんなドローンみたいなマネを………ねぇ?」
広い高層ビルの屋根の上。誰もこの問いに答えるものはいない。
答えがないのが答えなのか。
「………………練習してから行くか。空中姿勢の取り方とかしっかりやらないと、今度こそ本当に墜落しそうだ」
――――――ああ、無情。




