11話 空を翔ける妖精
小学校からオレの家へ帰ったあとのことだ。
見ると、オレの着ている【クレッセント・アリア】の衣装のあちこちがほつれていた。元がコスプレ衣装で、さらに獣との戦闘が続いたので無理もない。
最初はミシンを引っ張りだして、それの修繕をした。
だがその途中、ラビットシューズ同様に魔法による強化や改造でアイテム化ができないかと思いついた。
「やはり現在の問題は、移動できる場所が少ないことかな。となると、長距離移動のできるような改造を目指してみるか」
まずフレアスカートやフリルの部分により大きく空気を取り入れられるようにし、揚力を得られるようにした。
これにより長い滞空時間を得ることができ、さらに落下速度も調節できるようになった。
ラビットシューズでの跳躍は、着地のバランスが崩れると大ケガをしてしまうのだが、その問題も軽減された。
さらに、これによって空中戦なんかもできるようになった。
「まぁ、空を飛ぶような一つ目モンスターは見かけてないけどね。アツイ空中戦なんかも多かった原作再現ということで」
そしてさらに空気圧を後方へ流すことによって、ある程度は空も飛べるようにした。これにより目標の移動距離向上を目指す。
「こんなものかな。あとはテストをかさねて使えるようにしないとな」
その翌日から早速、魔法コスチュームでのテスト飛行を開始した。
ビルからビルへ渡り、跳び、着地を繰り返す。
「よし。だいぶ安定して飛べるようになったね。これなら沙田間市まで足を運べるかな」
五日ほど姿勢制御の確認、航続距離の向上などを目指して飛行していたが、だいぶ良い感じで飛べるようになった。
となると、距離のある大都市の沙田間市まで足を運んでみようかとの気にもなってくる。
ここら一帯の食べ物も、警察なんかが調達し尽くして打ち止めだし。
それ以外の理由もある。そこはおふくろがデパートで働いている場所で、前々から安否をたしかめに行きたかったのだが、あまりに長期間この場を離れてしまうので、美織里ちゃんが心配で行けなかった。
しかし空からの移動が可能になったことで、安全かつ短時間でそこまで行けるようになった。
そこで今日、朝早くに出発することにした。
「とはいえ、おふくろの生存は望み薄かな。まぁ覚悟はとっくにしてるけどね。ここらの一つ目は全て消してあるし、行くなら今だな」
事前準備として、飛行訓練のかたわらここら一帯を探索しながら目についた一つ目獣を全て消しておいたのだ。
これで美織里ちゃんの安全を気にせずに行ける。
ラビットシューズを大きく蹴り上げ、沙田間市に向かって出発した。
◇ ◇ ◇
沙田間市にはたった半日で到着。
かの大きな繁華街のあるその街がどうなっているか、その興味もあったのだが、それを見て絶句した。
「ひどいな、これは」
オレはかつての繁華街のなれの果てを見てそうつぶやいた。
車は道路のあちこちに散乱するようにあり、ほとんどはフロントガラスやサイドウィンドが破られている。乗っていた人達はそのまま中で喰われたのだろう。
人影は一つも見えず、代わりに道路や歩道には様々な種類の一つ目獣が我が物顔で闊歩しており、人間社会の落日を思わせる。
街の一角の建物群には、銃痕や焼け焦げた戦闘の痕跡のようなものがある。
多分、警察の機動隊がそこで一戦やらかしたのだろうが、敗北して撤退、といったところか。自分じゃ実感できないが、あの一つ目獣は相当に強いらしい。
「それはそうと、お腹がすいたな。何か食べてから行きたい」
食事のことはまるで考えずに来たせいで、道中の半日間は何も食べていない。
とりあえずどこかでメシをつまんで行こう。
「まったく、アリアになってからすっかり刹那な生き方になったな。いや、世界がこんなになっちまったせいか」
まずはよく知っている駅ビルへ行き、その屋上に降りたった。
ここの一階は食品店。ちょっと高めの惣菜屋やらパン屋やらのテナントが入っている。
ここで腹ごしらえしていこうと思うが、やはり下を見ると相当数の一つ目獣が集っている。
あれらを蹴散らしてからでないと、メシは手に入らない。
「空きっ腹で奴らの相手はしたくないなぁ。まぁ少し休んだら根性入れてやりますか」
何とはなしに機械とタンクの間を歩いてみると、出入り口を見つけた。
どうせ鍵はかかっているだろうが、ためしにノブを捻ってみた。
「お? 開いている?」
予想に反してそこは開いていた。閉め忘れたままになっていたのか。
予定を変更してそこから下へ降りていくことにする。
階段を降りて6階にきてみると、従業員専用の更衣室やら給湯室やらがあった。
何か食べ物は残ってないかと、給湯室に入ってみる。
冷蔵庫を開けてみるが何もない。見事にスッカラカンだ。
一応そこらの戸棚なんかも開けて、何かないかと探してみる。
と、奥まった場所におはぎが一個、皿の上でラップをかけてポツンと置いてあるのを見つけた。
「おはぎか。そういや、ひさしぶりだな」
冷蔵庫ではなく、こんな所にこれがあるのは謎だ。
とはいえ、仕事前に食べ物が手に入ったのはやはり嬉しい。
「うん、やっぱり美味いな。この味は下の高給和菓子店のものか? 後でいっぱいいただこう」
少し古くはなっても、その高級和菓子店のおはぎの味はやはり美味しかった。




