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10話 小柴未散は決意する

 *小柴未散の視点


 夜の闇に、兎のように跳ねて逃げるアリアちゃんをあたしは見送った。

 あとには綾野さんという警察官とその場に残された。 

 やがて綾野さんはポツリと言った。


「………急ぎすぎてしまったか。事態を早急に打開したいがため、相手が子供だということを忘れていた」


 「アリアちゃんが最低だと思いますけど」


 「彼女がどうあれ、協力をとりつけねば事態の打開はない。災害獣の研究は各国研究機関で最優先に進められているだろうが、あの不死の体質に有効な手段が見つかるのはいつになるか分からん。君は小柴さんと言ったね。アリアくんと親しいようだが、もう一度彼女と会うことはできないか?」


 「あたしも今日会ったばかりなので、たしかなことは言えません。ただ、不確実なことでよければ一応はアテはあります」


 「けっこうだ。不確実であれ情報は歓迎だ。どうか教えてくれ」


 「アリアちゃん、あたしの友達の間宮美織里さんのことが好きみたいなんです。だからそのうち、間宮さんの所へ来ると思いますよ」


 「ふむ? その友人が好きというのは、どういった経緯で知り得たのかね?」


 「森欧小に来てもらうのに、間宮さんとの仲をとりもつことを条件にしました。森欧高に来たのも間宮さんのためだって言ってたし、間違いないと思います」


 「ふむ。そうか……」


 綾野さんはしばらく考え、そしてあたしに言った。


 「だがさすがに女子高生に警察がくっついているわけにもいかない。そうした所で、警戒して近寄ってこないだろうしな。小柴さん。君にアリアくんの説得を頼みたい」


 「あ、あたしがですか? さっきも言いましたが、あたしも今日会ったばかりなんですけど」


 「悲しいが彼女は正論で動くタイプではないようだ。であれば、時間がかかろうともからめ手でいく。小柴さん。アリアくんが来たならば、君の友人の間宮さんと協力して説得をたのむ。条件があるなら、かなりの部分受け入れると言っておいてくれ」


 なるほど。間宮さんが説得したなら、あるいは可能性はあるか。

 となると、間宮さんともっと仲良くなっておく必要があるね。


 と、ここでもう一つ気がかりなことがあったのを思い出した。

 ちょうど良いので、この事情通な警察官の綾野さんに聞いてみることにする。


 「あの。話は変わりますが、沙田間市の方はどうなっているかわかりますか?」


 沙田間市はここら一帯の物流が集まる小都市。大きな買い物をしたり映画を見たりはいつもそこでする。そしてお父さんの職場もそこにあるのだ。


 「沙田間市か。そこには君の親でもつとめているのかね?」


 「はい、お父さんが」


 「残念だが、そこはここ以上の数の獣が襲ったそうだ。ただ頑丈な建物も多いから、そこにかなりの人数が避難しているとも聞く。運が良ければ君のお父さんは避難できているだろう」


 「救助………は無理なんですよね?」


 「救援要請はきている。だが、もともとそこはこちら以上の数と装備で警察職員が派遣されている。それでどうにかできなかった以上、手詰まりだ。悲しいが籠城している人達も、獣の排除ができない我々に救出は不可能だ」


 「つまり、その人達を救う可能性があるのは、アリアちゃんだけってことですか」


 「…………そうだ。こういった状況は日本中、いや世界中でおこっている。私達が、こうして取りあえず穏やかに夜を過ごせていること自体が稀少なのだろう」


 あたしは夜空を見上げて思う。

 本当に世界中が大変なことになっちゃったんだ。

 だったら、唯一の希望のアリアちゃんの協力をとりつけるのは、あたしの役目だと思う。


 同じ名前でも、あたしには【マジマギ天使みちる】のみちるみたいに特別な力はないけれど。

 でも、アリアちゃんの親友にはなって、その力を世界のために使ってもらうことはできるかもしれない。


 「綾野警視。あたし、がんばります。アリアちゃんが来たら、絶対に説得してみせますから!」


 「…………ありがとう。頼む、小柴さん」



 はからずも【マジマギ天使みちる】のワンシーンが浮かんだ。

 仲間の【クレッセント・アリア】が卑劣な敵への怒りで暴走しかけたとき。

 みちるは体を張ってアリアちゃんを説得した。


 あたしも、あの時の【みちる】みたいにアリアちゃんを説得できるかな?

 そして、アリアちゃんの親友になれるだろうか?

 夜の闇はどこまでも不確かな未来を示しているようだった。





◇ ◇ ◇


 あれから数日後。


 「未散ちゃーん。今日も一緒に組もうね♡」


 「う、うん……美織里」


 いまだ獣災害のおさまらない中。

 アリアちゃんのお陰で一時の安寧をもたらされたこの学校に、あたし達生徒は集って生活している。

 先生の指導のもと、授業はたまにあるものの、大抵の時間は獣にそなえた作業や生活のための活動をしている。


 その中で、あたしは間宮さん、いや美織里とよく組んで作業をするようになった。

 アリアちゃんの説得のため、美織里とより仲良くなろうとして距離をつめたのだが、どうにも美織里がさらにつめてしまい、名前で呼び合うような仲になってしまったのだ。


 「み、美織里? ちょっと距離が近すぎるよ。それに顔も近すぎ!」


 「ごめん。なんか吸い寄せられちゃって。ねぇキスしてい~い?」


 「!!! ダメだよ! っていうか正気!? 人前だよ!」


 「えへへっ冗談。あ、寝るときもいっしょだよ。他の子と寝ないでね」


 「い、いや、あたしは弟と妹を見なきゃなんないから」


 嗚呼。女の子と名前で呼び合うと、こうも貞操ヤバな感じになるから呼ばせなかったのに。

 アリアちゃん、早く来て! このままじゃ本当に貞操があぶない!


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