98話『覚醒した槍と体』
槍を手にした途端、体から血が失われていく感覚が俺を襲った。しかし、どうにも体の倦怠感などはなく、むしろどんどん体は軽くなっていった。貧血状態で意識が朦朧することすらもないが、血はどんどん無くなっていく感覚は激しくなった。実際に血が無くなっているのだろうが、それでも動けるようになるのなら今更血が無くなるくらい怖くはない。何もせずに死ぬことに比べれば抵抗出来ることが何よりも良かったのだ。
そして、血が体から失われていく感覚もなくなり、その時には俺の持つ槍は折れる前と同じ長さに戻っていた。結構長い時間吸われていたと思ったが、ゴブリンキングが俺を殺してないことを考えるに時間を長く感じただけだろう。
それにしても、俺の持つ槍の異様さには俺自身も驚きを隠せなかった。俺の血で作られた事によるのか、持ち手から矛先まで全て真っ黒に染まっており、脈打つように真っ赤な班流紋がより一層際立っていた。
しかしこの槍に驚いている余裕はない。それに、どうしてかこの槍を持てば力が湧いてきて、なんでも出来るような感覚すら覚える。
俺自身による隠された力なのかは分からないが、この力に今は感謝し、俺はゴブリンキングへと走り出して槍を振るった。
『グヌァァァァ! き、貴様! 何処にそんな力を隠し持っていた!!』
「うるせぇ! 俺はお前に勝たなきゃいけねえんだよ!!」
俺の体力もスタミナも限りなくゼロに近いだろう。それでも、俺は攻め続けた。極限にまで達した思考でゴブリンキングの剣を避け、切り裂き、突き刺した。防御を一切捨てて、自身の体に傷が増えようとも俺は止まることなく攻撃を繰り出す。
痛みなど気にしない。腕が悲鳴を上げても、体が軋んでも俺は止まらない。
そんな姿にゴブリンキングは恐怖を覚えてしまったのか、攻撃にどんどん隙が生まれていった。当然、そんな隙を俺は見逃さない。
次第に、俺の攻撃を防ぐので精一杯になったゴブリンキングにはどんどん数が増えていった。それと同時に、今まで外皮が硬すぎて切り裂けなかったのにも関わらず、簡単に外皮を切り裂くようになった槍は、ゴブリンキングの血を吸い取り、その力を高めていった。
槍を通じて俺の体も血を吸収して体が軽くなり、遂にはゴブリンキングを凌ぐほどの攻撃と速さを手にした。
「俺の最後の力を持って、お前を殺す!!」
『させぬわぁぁぁぁ!!』
ゴブリンキングから距離を取り、今まで使ったこともないスキルを俺は使用した。覚醒した事によって自動的に入手したスキルだろうが、不思議と何度も使った事があるかのように簡単に使用することが出来た。
そのスキルの名は『串刺し』
ゴブリンキングを標的と定め、地面から無数の槍が生え、ゴブリンキングを貫く。避けようと、弾こうと、防ごうとしても無数に現れる槍にゴブリンキングはなす術もなく貫かれた。
外皮を貫かれ、治癒能力が異常なほどに高くとも、それを上回る勢いで槍が次々と貫き、俺のスキルを止めようと突き進んできたゴブリンキングは俺の眼前で歩みを止めた。既に自然治癒能力すらも失っているようだった。
既に息は無いに等しく、喋ることすらまともに出来ていない。
「……お前の傲慢さが敗因だ」
ゴブリンキングが俺を侮ることなくもっと早くに殺していれば俺は負けていただろう。
だが、こいつは王として傲慢であった。自らの絶対的な力を過信し、俺を弱者と決めつけて簡単に殺さなかった。だからこそ、俺は勝てたんだ。
『貴様ごとき、弱者に殺される……とは……』
憎しみを込めた目で俺を睨むゴブリンキングへと最後の一撃を加えるために俺は槍を構え、隙だらけの心臓へと槍を突き刺した。
断末魔をあげることもなく、死に絶えたゴブリンキング。俺のスキルで現れた槍は標的が居なくなったことで消え、ゴブリンキングは死んだまま地面へと降ろされた。
―――こうして、俺はゴブリンキングとの長い戦いに勝利という形で終止符を打ったのだった。




