9話 『強大な敵』
うーん。
モンスターの名前出しすぎて変な感じになってるかも?
ゴブリンがホブゴブリンへと棍棒を構えて走り出す。
こちらが動かないからホブゴブリンも動かなかったのか、それとも先手を譲ってくれたのか、ホブゴブリンはゴブリンが向かってきて初めて動き出した。
と言っても、突っ込んでくるゴブリンにホブゴブリンはカウンターを決めるつもりなのか、大きく棍棒を振り下ろそうとしている。
だが、それはむしろ好都合だ。今ならホブゴブリンの胸はがら空き。
俺の魔法が上手く当たれば大きくHPが削れる筈だ。
手を前へと構え、ホブゴブリンを定めて俺は詠唱を始める。
「天翔る矢よ、我が敵となる者へと放たれよ『光の矢!』」
俺の詠唱が終わると同時に、魔法陣が俺の手より少し前に現れ、そこから真っ白に光る矢が一本、ホブゴブリンへと目掛けて猛スピードで飛んでいった。
上手く隙をつけたのか、ちょうど人間の心臓が当たる位置へと矢は刺さった。
「ゴブリン!今なら殺れる!!」
『ワカッタ、コロス』
痛みで気が動転し始めたホブゴブリンは持っている棍棒を無闇に振り回している。道を照らしてくれていた光も壊され、辺りは薄暗くなっていた。
これでは、ゴブリンも攻撃できない……いや、ゴブリンの目が良いのか、的確に棍棒を避けながらゴブリンは攻撃していた。
こんな時に俺に出来る援護。光の矢を使えば下手したらゴブリンに当たってしまうかもしれない。
そうなると、多少リスクは伴うが、まずは辺りを照らすことからだ。
「我が道を阻む闇を晴らし、照らし出せ『光』」
今度の魔法は、俺の頭上に魔法陣が現れ、そこから光り輝く球体が現れた。
球体は段々と俺から離れていき、壁へと吸い寄せられるように張り付き辺りを照らした。
「これなら……!」
丁度光の矢を詠唱しようとした時だった。
胸元から血を流し、さっきまでは無闇に棍棒を振るっていたホブゴブリンがゴブリンを棍棒で叩き潰したのだ。
頭が風船のように割れ、血が噴水のように溢れ出す。
その光景に俺は吐きそうだった。
でも、それは出来ない。とにかく今はこの場から逃げないといけないのだ。深手を負っているホブゴブリンは速く走ることが出来ないはず。
逃げるなら今しかないのだ。
「くっそ……動けよ!怖がってんじゃねえよ! 動け動け動け!!」
どうにも恐怖で足が動かないのだ。
魔法の使いすぎでMPがないとか、スタミナがないとかじゃない。状態異常にもなっていない。
ただ、ゴブリンのように死ぬのが怖い。
少しずつ、少しずつ、ホブゴブリンは近付いてきている。
なのに、俺はその場に立つことすら出来ず、座り込んでしまっていた。
「嫌だ、死にたくない。まだ楽しんでねえよ。もっとこのゲームを知りてえんだよ! だからよ! 動けよ!!俺の足!!」
どんなに奮い立たせようとしても、俺の足は動かない。
ただ、幸いなのは俺の思考がまだ少しでも冷静ということだ。
「もう、闘うしかない……」
足が動かないのなら、座ったままでいい。モンスターを召喚するのに立つ必要なんてない。
「ダメだ。ダメだ。震えるな、しっかりしろよ!」
震える手を無理やり動かして持っている本を捲る。
俺が呼びたいのはスケルトンだ。
いや、スケルトンとゴブリン。2体を召喚する。
MP? スタミナ? そんなもの切れてもまだなんとかなる。今はただこの確実に死ぬ状況を打破しなきゃいけないんだ。
「低位モンスター召喚!『スケルトン!』」
先にスケルトンを召喚する。体かごっそりとMPが吸い上げられるが、まだなんとかなる。
もう一体召喚してもギリギリ耐えれるはずだ。
「低位モンスター召喚!『ゴブリン!』」
ようやくさっきテイムしたゴブリンをもう一度召喚する。
モンスターを使い捨てのように召喚するのは良くない。
それは分かっている。けど、今は自分の命を守るため。仕方ないと割り切るしかない。
ゴブリンとスケルトンが魔法陣から現れ、俺のMPは空となった。
スタミナがあるお陰で少しづつは回復しているが、そのスタミナも殆どない。
もはや俺に魔法の援護も出来ないだろう。
「後は任せたからな……」
俺はただその場に倒れた。
ゴブリンは標的をホブゴブリンに定め、向かっていく。
スケルトンは必死に生き抜こうとしているホブゴブリンを殺しに走り出した。
両者ともゴブリンとスケルトンという敵同士なのに共闘を始めたのだ。
これでいい。これならあとは、勝つのを祈るだけだ。
「──運が高くて助かったぁ……」
自分のステータスの運が高かったことに感謝をしながら俺は瞼を落とした。