88話 『速さこそ力』
ホブゴブリンファイターと睨み合いながら、数秒。先に動いたのは俺だった。恐らく、片手剣と盾を持つホブゴブリンファイターは俺が攻めてくるのを待っていたのだろう。受け流しからのカウンターを狙っているはずだ。
「そうくると思ってたぜ!」
俺の予想は的中した。俺の槍を盾でいなしてから、ホブゴブリンファイターは剣を使い俺の喉元を狙ってきた。だが、その行動は既に予想出来ていた攻撃だ。だからこそ、俺は体を捻り、剣をギリギリで躱してホブゴブリンファイターの顔面を殴りつけた。
しかし、相手も万が一にも避けられることを想定していたのか、咄嗟に盾を顔の前へと構え、俺の攻撃をしっかり防御してきたのだ。
「こいつ、戦い慣れてやがる……っ!」
先程まで戦っていたホブゴブリンやゴブリンなんて比べ物にならないくらいに戦闘の経験があり、俺の次にしそうな行動も読んでいる。どれくらいの戦場をこいつが生き残ってきたのかは分からないが、戦い慣れている敵ほど厄介な者はない。いや、戦い慣れて強いからこそ、ロードと共にこの場所に配置されたのだろう。そう考えれば納得も出来る。
「まさか、このタイミングとはな。感謝するぜ」
俺のメニュー画面にチカチカと光るように映っているのは、レベルアップ報酬によるスキルの選択だ。何時ぶりにこのスキル選択を見ただろうかと思うが、今はそんな悠長な事を考えている暇はない。
とにかく、相手が警戒して動かない今だからこそ、この場を切り抜けれるスキルを選ぶべきだ。
・闇魔法
・槍術スキル
・神槍スキル
目の前浮かぶ三つのスキルの中から俺は真っ先に一つのスキルを選んだ。もちろん、今ここで時間があるのならじっくりと選びたいところだが、そんな時間はない。ならば、直感で明らかに強そうなスキルを選ぶべきだろう。
だから、当然選んだのは『神槍スキル』だ。
「ホブゴブリンファイター。お前が最初の犠牲者だ。一撃で終わらせてやる」
神槍スキルを選び、最初に覚えたスキルは二つ。その技を俺はホブゴブリンファイターへと使う事にした。もちろん、本当にホブゴブリンファイターを一撃で仕留めるつもりでもある。それ程までに今の俺には力が溢れているのだ。
「行くぜっ! スキル『神速』発動!」
『神速』というスキルは、使った瞬間に攻撃をするというスキルではなく、俺自身を強化するスキルの一つだ。どうやら、このスキルを使えば足の速さが極端に変わり、スキル使用中はどんなに走っても足に疲労が溜まらない。当然、このスキルにもデメリットはあるとは思うが、今はそんなの気にしてられないだろう。
「終わらせてやる。『神速突き!』」
全速力でホブゴブリンファイターの周りを走り続け、次第にホブゴブリンファイターの目が追い付かなくなった所で、俺は一旦止まり、腰を屈めて槍を真っ直ぐ構えた。そして、槍を構えたまま一直線にホブゴブリンファイターへと突っ込み、もはや反応すら出来ないホブゴブリンファイターは胸を貫かれて絶命した。
「ふぅ。終わったか。にしても、このスキルは速くなりすぎるな……」
『神速突き』というのは、槍を構えて止まった状態から爆発的な速度で相手を貫くスキルであり、槍を振ったりする必要もない。だからこそ、俺でも使えるスキルであり、仮に槍を振るうスキルならば俺は自分の速度に気を取られて上手く使えなかっただろう。
いつかそういうスキルが出るのを考え、これからは上手く『神速』を使えるようにするのが課題になりそうだ。
「……っ!? ぐっ……なんだ、これ……」
先程まではなんともなかった心臓が突然の激痛に襲われる。いや、心臓だけではない。体中が悲鳴をあげるかのように痛みを訴えかけている。
もはや立ってすら居られない。意識を保つのに精一杯だ。
「くそ、早く帝国に行かなきゃ行けないってのに……」
痛みによって意識を失うことを体が選んだのか、俺の視界はブラックアウトし、そのまま地面へと倒れ込んだ。
安定の主人公倒れる形で終わる話です。結構多いと思いますが、強すぎるスキルにはデメリットは付き物ですので。ご了承ください。




