86話 『殺し合い』
馬から降りた俺たちは、ゴブリン達へと走り出し、ゴブリン達もそれに気付いたのか、殺気を込めた叫びを上げながら俺たちへと走り出した。おおよそ、見える限りで数は五十程度。ゴブリンロードが一匹に、ホブゴブリンファイター、ホブゴブリンキャスター、只のホブゴブリンが五匹。強い個体はこの程度だろう。あとは簡単な武装をしたゴブリンだ。
正直なところ、アーサーが居れば馬に乗りながらでも勝てる気はしたが、もしも馬が興奮して逃げたり、もしくは死んだり、更には俺たちの誰かが死ぬ場合もある。
だからこそ、馬は戦闘する場所とは離れた所で降りたのだ。
「アーサー! デカいのは頼んだぞ! 周りのは俺がやる!」
「心得た。必ずや仕留めてみせよう」
「マキト! シロとメアはどうすればいい?」
「二人は出来るだけお互いに守りながら援護を頼む! ホブゴブリン達は俺が引き受けるから、只のゴブリンを任せたぞ!」
「「わかった!」」
誰がどの個体を倒すかをまず決め、俺は走りながらホブゴブリンへと槍を投げた。先程よりも勢いをつけて投げられた槍は、ロードに弾かれた時とは違い、ホブゴブリンを確実に仕留め、俺の手へと戻ってきた。しかし、手へと戻ってきた直後で簡単に槍を振り回せるほど、俺に技量はなく、既に迫っていたゴブリンを俺は自らの足で蹴り飛ばし、数体纏めて吹き飛ばした。
「こちとら時間がねえんだ! すぐに殺させてもらうぞ!」
まずは魔法を使ってくるホブゴブリンキャスターへと狙いを定め、迫り来るゴブリンを槍で突き、切り裂きながら強引に進む。けれど、そう簡単にホブゴブリンキャスターへと到達出来る訳もなく、ゴブリンは捨て身の特攻を幾度となく繰り返してきた。
真正面から剣を構え突っ込んでくるゴブリンと、頭上からもゴブリンは数体が囲むように迫り、俺は完全に足止めされてしまった。しかし、真正面から突っ込んできたゴブリンには、メアが召喚したのか、ナイトメアバットがゴブリンの視界を塞ぐように飛んでくれ、俺は頭上から迫り来るゴブリンへと対処することが出来た。
「おらぁっ! ナイスだったぞメア!!」
「うん! ますたーもえんごする!」
「ちょっとメア! こっちは大変なんだからね!!」
頭上から迫ってきたゴブリンを、俺は槍を回してなんとか吹き飛ばす。当然だが、槍を棍のように扱ったことにより、ゴブリン達を吹き飛ばすことしか出来なかった。
が、これでホブゴブリンキャスターを仕留めることは出来る。
「っ!? ────あぶねぇ!」
頭上から迫っていたゴブリンに気が回ってしまったのか、俺はホブゴブリンキャスターの放った魔法へと意識が向いていなかった。ホブゴブリンキャスターが放った魔法は、火魔法の『火の玉』であり、俺は槍を地面へと突き刺し、その槍へと自らが乗ることによりなんとか回避することが出来た。昔にアニメかなにかで見て実践してみたが、今の身体能力なら意外と出来るもんだ。
「って、シロ! メア! 大丈夫かっ!?」
「なんとか大丈夫! けどゴブリン達もそっちに向かってるから背中に気を付けて!」
シロの言葉に俺は無言で頷き、もう一度ホブゴブリンキャスターへと視線を向けた。
ホブゴブリンキャスターをどう殺すか考えながら、俺は今のシロの頼もしさに少し感動していた。今まではシロもゴーレムを召喚して前線で戦うという役目もあり、当然頼もしかったのだが、今尚少しゴーレム化してきているシロには出来るだけゴーレム化が進むゴーレムのスキルを使って欲しくない。
もちろん、シロのレイピアを自在に操る攻撃も中々だと考え、メアの守りをお願いしたのだが、メアを守りながらでも的確に迫ってくるゴブリンを殺しているのは、やはりシロの優秀さが分かってしまう。
「これはいつか負けそうだな」
もう一度魔法の詠唱をし終わったホブゴブリンキャスターが、『火の玉』を放つが、さすがに二度目ともなれば簡単に躱すことは出来る。
「俺の勝ちだ!」
ホブゴブリンキャスターは魔法使いということもあって、近接戦は弱い。そんなことはわかっていた。だから、ゴブリンはホブゴブリンキャスターを守るように自爆特攻してくるのだ。当然、ホブゴブリンファイターも守りに来るはず。分かっていた。
……分かっていたのに、俺はその事を忘れていたからこそ、横から迫ってくるホブゴブリンファイターの攻撃を避ける事が出来なかった。




