85話 『配下』
メアの話を聞いた俺達は、急いで馬に乗り込んで帝国へと向かい始めた。なんとなくシロが俺の方に乗りたいと駄々をこねる気がしたが、今回は素直に引いてくれたから安心だ。
しかし、そもそもメアの話が本当なのかが分からない。ゴブリンキングの情報をどこで聞いたのかもわからないし、喋り方的にもまだ子供程度の知能しかなさそうな気もする。だからこそ、メアの話が少し信憑性に欠けるのだ。
けれど、身体的に見ればシロ自体もまだ子供だ。わがままな部分もあるが、精神的には子供とは言い難いし、もしかしたらメアも喋り方だけが子供で、考え方は子供ではないのかもしれない。
「いや、考えてても仕方ねえか。メア、馬に乗りながらで悪いんだが、ゴブリンキングの情報について出来るだけ分かってることを教えてくれ」
「う、うん。でも、あんまりわからないかも……ごめんなさい」
「大丈夫だ。舌を噛まないように注意しながら頼む。ゆっくりでいいからな」
それから、俺は後ろに乗っているメアからゴブリンキングの情報について分かっていることを教えて貰った。って言っても、やはりゴブリンキングがプレイヤーと共に行動してるのが確実という点と、ゴブリンキング自体、あまり配下のゴブリンが居ないという点だ。どちらにしても重要な情報であることは間違いない上に、なによりもメア自身が気配感知で実際にゴブリンキングとプレイヤーを感知した事も大きい。
只の推測だったゴブリンキングとプレイヤーが帝国に向かったのは、最早確定と言っても良いだろう。そもそも、ここから向かえる一番大きな街は帝国であり、狙うにはそこしかない。
「アーサー! もう少し急いだ方がいい! ゴブリンキングとプレイヤーは帝国に向かってるぞ!」
「なにっ!? 本当か! だが、これ以上のスピードは逆に馬が消耗する! 済まないがこのスピードが限界だ!」
「マキト! 前からまたゴブリンが来てるよ! 」
「分かった! 全員駆け抜けるぞ! ……メア、しっかり掴まってろよ!」
俺たちの少し前を走っていたシロとアーサーが俺たちを襲ってきたゴブリンの軍勢に対し、魔法で対抗する。当然、二人が攻撃すれば馬を操る者も居なくなるため、アーサーはシロに馬を任せ、俺は片手で槍を構え、ゴブリン達へと投げつけた。
「ギャギャッ!?」
「グギャァアアア!!」
俺達の遠距離からの攻撃により、ゴブリン達の先頭を走っていた只のゴブリンは倒れていく。けれど、先程とは違い、今回は群れを統率するゴブリンの上位種である、ゴブリンロードが存在した。
恐らく、帝国に向かう者を排除するためにゴブリンキングが配置したのだ。配下の少ないゴブリンキングがロードまでここに配置するということは、よっぽど帝国に向かわせたくないのだろう。
「キカヌ。ソノテイドデオウノシンコウハトメラレルヌ」
ロードを真っ先に殺す。そのつもりで手元に戻ってきた槍をもう一度投げたが、俺の槍はロードの持っていた杖で簡単に弾かれてしまった。馬に乗りながらであり、全力で投げた槍ではないということもあるが、やはりロードともなれば簡単には殺せないということだろう。
「ちっ。仕方ない。馬から降りて応戦するぞ! アーサーも良いな!?」
「もちろんだ! さすがに私とてこの数は馬に乗りながらではキツイからな!」
「シロも頑張るんだからね!!」
「わたしもますたーにほめてもらうようにがんばるっ!」
ゴブリン達とはまだ少し離れているが、俺たちは馬から降り、武器を構え、ゴブリン達へと走り出した。




