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異世界っぽいVR世界に閉じ込められたけどなんとかなりそうです。  作者: ねぎとろ


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84話 『メア』

 背中に小さく、それでいて艶のある綺麗な黒い翼を持ち、目は真紅のように赤い。口元には小さいながらも牙があり、身長はとても小さい。シロよりも小さいところを見るに、小学校の低学年レベルの身長だろう。黒いワンピースは体のサイズにぴったりと合っていて、武器という武器は特に持ってはいなかった。


 幼女のような吸血鬼は俺とアーサーの会話が終わる辺りで俺へと抱きついてきたのだ。


「ますたー。ますたーはわれのこと覚えてる?」


「あ、あぁ。もちろん覚えているよ」


 俺は恐らくナイトメアバットが独自の進化をし、人型になったと推測して抱きついている女の子の頭を撫でながら答えた。

 撫でられている女の子は、俺が覚えていたという事実が嬉しかったのか、口元は笑っていた。


「あー! マキトが小さい女の子を撫でてる! ズルい!シロもシロも!」


「お、おい! そんなひっつくなよ!」


「だめ! ますたーはわれのますたーなの!」


「ははは。マキト殿はモテモテだな。羨ましい限りだよ」


 時は一刻を争うというのにも関わらず、アーサーは俺たちを見て微笑み、シロとナイトメアバットは俺を争って喧嘩のようなものをしている。

 しかし、こんな風に場が和むというのはある意味とても良いのかもしれない。帝国に向かうということで緊張していた体も、震えが止まり緊張は収まっているようだ。


「ま、まぁ、とりあえず、だ。それで、なんでお前はここに居て俺のことをまだ主として認識出来てるんだ?」


 そもそもの疑問がここだ。俺から既にナイトメアバットを使役できるスキルはないはず。常に一緒にいたクロさえも俺を認識出来なかったのだから、召喚して殆ど一緒に居なかったナイトメアバットが未だに仲間でいる事の事実が不可解なのだ。


「う、うーん。わかんないけど、ますたーはますたーってかんじがするの!」


「それは分かる! シロもマキトはマキトって感じがするもん!」


「おいおい。シロまで何言ってんだよ。ってか俺の感じってどんなんだよ」


 俺が疑問に思っていると、シロとナイトメアバットも一緒に首を傾げていた。どうやら二人とも感覚的に俺という存在を理解しているらしく、説明は出来ないようだ。


「マキト殿。そろそろ向かわねばまずいかもしれない。重要な所だけ話をするべきだろう」


「それもそうだな。時間もねえし。―――んじゃ、ナイトメアバット、うーん。()()でいいか。メアは能力的には何が出来るんだ?」


 毎度毎度ナイトメアバットと言うのもめんどくさいこともあって、ひとまず俺はナイトメアバットの事をメアと名付けた。そして、メアに聞いたのは人間型に変化出来るようになってから覚えたスキルとかについてだ。元々ナイトメアバットが覚えていたスキルは『気配感知』や『感覚共有』なんかだ。今はもしかしたら増えているのかもしれない。


「え、えっと、たしか、眷属召喚? っていうのと、吸収(ドレイン)ってのがつかえる! あとは、ますたーと一緒に居たときとおなじ!」


「……そうか。『眷属召喚』か」


 現段階において、パーティーで戦う場合、俺とアーサーが前衛であることは間違いないだろう。あとは、シロとメアが後衛で援護してくれれば完璧だが、シロは体のゴーレム化も進むからこそ、あまり戦闘で力を使って欲しくない。 だからこそ、シロのゴーレムによる援護は少なく、どちらかといえばレイピアで戦うのが主体になるだろう。前衛が三人になるということだ。

 だが、そうなると後衛が一人になる為、メアの眷属と吸収がどれ程の強さによるかで戦闘方法も変わるだろう。……もちろん、『気配感知』というスキルだけで戦力がアップするのは間違いないはずだが。


「……あ、ねぇねぇますたー。そういえば変な事聞いたんだけど、ごぶりんきんぐがますたーと同じぷれいやーと一緒に行動してるらしいよ!!」


「なにっ!? それは本当か! それは非常にまずいぞ!」


 アーサーが取り乱したかのようにメアへと訊ねている。けれど、取り乱すのも無理はないだろう。もしもメアの言動が正しいのならば、ゴブリンキングという脅威はプレイヤーと組むことで更なる災厄をもたらすことになる。それに加え、今俺達が向かう予定の帝国にゴブリンキングが居るとすれば、一刻の猶予もない。今すぐ向かわないと確実に帝国はゴブリンキング達に支配されるだろう。


「アーサー! 話はあとだ! とりあえず帝国に行くぞ!」


「そ、そうだな! では、済まないがシロはこちらに乗ってくれ!」


「うん! 今回は仕方ないからメアちゃんに譲ってあげる!」


「ますたーの背中、おっきい……えへへ……」


 メアだけ一切の緊張感もないが、とりあえず俺達は馬に乗り、帝国へと向かうことにした。

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