79話 『死』
ただいま公募用作品執筆中のため、更新が不定期です
理性の失ったクロに対し、俺はゲイボルグを投げてから、自分の手へと戻した。
しかし、モンスターとしての生存本能からか、クロは喉元に当たった槍を驚異的な反射神経で避けた。
しかし、ここまでの事態は想定内だった。クロが避けるなんて分かりきっている。
だからこそ、シロにはクロが避けたところを狙うように指示しておいた。
「シロ! 今だ! 終わらせろ!!」
避けた先でシロが待機しているが、クロのあの反射神経ならまた攻撃を避けるだろう。
けれど、俺は不安定な足場のまま、もう一度ゲイボルグを投げた。ここまでやればさすがのクロもシロの攻撃を受けるしかないだろう。
「いっけぇぇぇぇ!!!」
俺のゲイボルグすらもクロは両手剣を離して受け止め、その勢いを止めた。なんとかゲイボルグがクロへと届いたのは助かったが、やはりというべきか、クロは槍を手に持ったまま吹き飛ばされた。
「これで、良かったんだよな」
「シロは……シロはクロがこれを望んでいたと思う……」
「―――嘘、だろ。まだ生きてんのか」
シロの懇親の一撃であるゴーレムアクス横振りが直撃したのにも関わらず、クロはまだ立ち上がっていた。ゴーレムアクスを受けた鎧はボロボロになっていたが、クロ特有の能力である鎧修復により、少しずつ直っていた。
「シロ!! 今すぐ目の前に盾を作れ!!」
ゲイボルグを受け止めたクロに対し、俺はゲイボルグを自分の手元に戻すことを忘れていた。
だからこそ、クロは俺のゲイボルグをシロへと投げたのだろう。
「違うの!! クロの狙いはマキトだから!!」
どうにかシロにぶつかる前にゲイボルグを回収しようと思い、投げられたゲイボルグを自分の手へと戻したが、シロは俺に向かって叫んでいる。
一体なにを俺に伝えようとしているのだろう。そんな事を思ったその時、俺の頬を少しだけ斬った瓦礫が飛んできた。
もしも、俺の頭にこの瓦礫が直撃していたら俺の頭は吹き飛んでいただろう。それは、俺に当たらなかった瓦礫が壁へと直撃した時に生じた音がそれを告げていた。
「クロっ!! いい加減にしなさぁぁぁい!!!」
少しずつ治り始めているクロの腹を、シロはゴーレムの腕で殴り、うずくまっているクロの頭をシロは思いっきり殴った。クロの頭は完全に地面へとぶつかり、激しい衝撃と共に小さくクレーターすら出来ていた。シロの怒りに任せた攻撃がどれ程の威力なのか、俺は自分の目で理解したのだ。
「……シロのこと怒らせるのはやめとくか……」
シロの攻撃による土煙が晴れた後、シロは無言で涙を流しながら、クロの側に立っていた。対するクロは、シロの攻撃で頭は潰され、もはや動く気配すらない。
「シロ! 大丈夫かっ!?」
「……マキト。終わったよ」
「そうか。クロはきっとこうなることを望んでたよ。だから、シロは悪くない。クロは苦しみから解放されたんだ。ありがとな。シロ」
クロがどう思っていたかなんてわからないが、誰かに無理やり操られたまま、俺たちを殺すのはきっと本望じゃなかったはずだ。むしろ、こうして本来俺がやるべきだった事をシロにやらせてしまったことに俺は少しの罪悪感を覚えてしまった。
「そう、だよね。これで、良かったんだよね……っ……!!」
「辛いよな。背負わせてごめんな。本当にありがとう」
今にも泣き出しそうなシロへと抱きつき、俺はシロの涙を止めようとした。しかし、抱きついたその時に感じた違和感が、俺の頭を混乱させた。
「シ、シロ……お前……」
「……うん。力、使いすぎちゃったんだ」
シロの体はシロのダンジョンコアが反応してのことなのか、力を使いすぎた反動により、アイアンゴーレムと化していた。――いや、太さや長さは同じままで、鉄と化していたのだ。
「――シロ。俺、これからはシロを全力で守るよ。クロがらそうであったように、次は俺がきっとシロを守る番だ。だから、頼む、」
「―――これ以上、力を使わないでくれ? って言うの? シロは、シロがマキトを守るために力を使う。守られるのも嬉しいけど、シロはシロの判断で力を使うよ。ごめんね、マキト」
「いや、シロがそう判断したなら良いんだ。でも、せめて、心まではゴーレムと化さないでくれ。危なくなったら絶対に教えて欲しい」
「うん。勿論だよ。マキトもこれからは無理しちゃダメだよ? クロの分まで生きないといけないんだから!」
クロが死んだ。その事実を本格的に受け止めた時、俺の目からは止まることない涙が流れた。一緒に居たのは短い時間だったかもしれない。それに、クロにとって、楽しかったのかはわからない。けど、俺はこれだけは言える。
「クロ。俺は、お前と一緒に旅した事が楽しかったよ」
出来ることならクロのお墓を作りたいが、ここは戦場だ。まだ、戦いは終わってない。
だから、俺はクロに『ありがとう』と伝え、胸が苦しくなるのを抑えながら、シロと共にその場を離れた。
不思議な事だが、戦場だというのにも関わらず、暖かい優しい風が俺とシロの顔を撫でるように一度だけ流れた。




