72話『情報』
そろそろプレイヤー達の潜伏している街に辿り着くというのにも関わらず、シロはまた眠りについていた。子供だからまだ仕方ないという面もあるが、俺の目の前にいる騎士団長。
アーサーが熟睡しているのがなんとも言えなかった。
「はぁ。みんな案外気楽なんだな」
『そのようですね。他の方々も緊張などはしていないですし、むしろ余裕な表情をしていらっしゃいますね』
クロの言葉は正しい。いや、確かにグウィンに対してなら余裕の表情というのは正しいだろう。だが、このルインはどうだ。
副騎士団長という肩書きをもっているにも関わらず、アーサーが眠っているのを良いことに、ずーっと寝顔を見つめている。少し息が荒くなっているのを見る限り、中々にキモい。
「ま、まぁ、俺は今の間に出来ることをやっておくよ。クロも少しくらいは休んでて大丈夫だと思うぞ」
『はい。周りには騎士団の皆様や冒険者の方々も居ますし、私も少しシロ殿の横で休息を取ろうと思います』
ヒュドラと戦って以降、何度かヒュドラよりも弱いモンスターと戦闘にはなっている。しかし、その度にアーサーかグウィン、ルインの誰かしらが速攻で討伐しにいくもんだから、皆こうして気が緩んでいるのだろう。
「んじゃ、とりあえず俺は久しぶりにメールでも見てみるか」
ステータスを確認する時くらいにしか使わない、メニューアイコンを使って俺は運営からの新しいメールが届いていないか、初日ぶりに確認する。
「ふむ。こんだけか……っと、みんな休んでるし黙っとくか」
ついつい独り言が出てしまうが、さすがに今は自重した方が良いだろう。
初日から今の間までに来ていたメールの数はたった3件だったが、その内容はどれも俺にとっては重要な情報だった。
まず、俺がこの世界に来てから2週間程度のメールでは、メニューのアイテム欄によって自分の持っているアイテムが区別されて分かるようになるというものだった。
まぁ自分の目で確認すれば簡単に分かる事だが、急ぎで確認したい時には便利なのかもしれない。
そして、2つ目は魔王の居場所と魔族、四天王モンスターの追加らしい。
魔王の居場所はアーサーにも聞いた通りで間違いなく、魔族と四天王の追加は知っておかなければ少し危険だった。
特に、魔族はプレイヤーと極一部のこの世界の人間にしか分からないらしく、厄介なことに人間と殆ど変わりない容姿に加え、魔力などは相当強いとメールでは書いてあることから、知らなければまずかっただろう。
3つ目は、この世界からのもう1つの帰還方法だった。
これは、今の現状が本当にこの通りであり、今回のプレイヤー達の敵対はこのメールを見たからによるものだろう。
そして、このメールをプレイヤー達が見ているという事は、ここだけじゃなくて各地でこんな騒動が起きるかもしれない。
「この世界の征服……」
「ん? マキト君。なにか言ったかね? 」
「ア、ア、アーサー騎士団長! お、おはようございます!」
「あぁ。随分と近いな。まぁおはよう。それで、マキト君の今の言葉は少し聞き捨てならないのだが、説明を求めても良いかい?」
「はい。分かりました。アーサー騎士団長」
俺は、メールに書かれていた、『この世界をプレイヤー達の手により征服すれば、この世界と元の世界を行き来できる指輪を与える』という運営からの情報を伝えた。
当然、プレイヤーであるルインも知っているとは思うが、敢えて言わなかったのだろう。
この情報はそれ程危険なのだ。グウィンも何食わぬ顔をしているが、しっかりと聞き耳は立てているみたいだし。
「そうか。これによって今回の騒動が起きた訳か。だが、マキト君のその情報がプレイヤー全員に送られているのなら、帝国や海の都もまずいことになるのではないか?」
「はい。この情報が本当かどうかはわからないとしても、他の国でも対処しなければまずいことになると思います。いや、既にもう騒動が起きているという可能性すらあります」
「アーサー騎士団長! お言葉ですが、プレイヤー達の帰還方法には他にも魔王討伐というものがあります! そこまでの騒動にはならないのではないでしょうか!!」
「いや。私の見てきたプレイヤー達ではどれも魔王には勝てないだろう。そもそも、魔王というのは勇者にしか殺せないのだ。その事実を知っているプレイヤーがその情報をプレイヤー間で共有すれば、マキト君の言った情報に踊らされるのも無理はない」
「っと、とりあえず話はプレイヤー達を倒してからにするべきだ」
外を見て警戒していたグウィンの言葉により、俺達は一旦話し合いを止めて、終わったら話し合うという形にしておいた。
そして、休みつつ話を聞いてくれていたクロと眠っていたシロを起こして、俺達はアーサー騎士団長達に続いて、馬車から降りた。




