70話『馬車の中』
街から村までは夜襲を掛けるために馬車を使う事になっている。もちろん、近くまで行ったら音でバレてしまう危険性がある為に馬車から降りるが、こちらの方が移動が早いという事もあり、馬車を使うのには賛成だ。
「騎士団としては夜襲という卑怯な真似はあまりしたくないのですけどね」
「まぁまぁ、今回はそれほどの強敵って事だよ。レイン」
「騎士団長であるアーサー殿が居れば私など必要なかったというのに。どうして私は王の元を離れなければいけないのだ」
「ほらほら。グウィン。王の側近魔術師4人のうちの1人であるあなたが居ればより安全に倒せるんだから。それに、今回も王の命令でしょ?」
「それもそうですが、何故私が同じプレイヤーの捕縛、または討伐などしなければならないんだ……」
馬車を使うのは賛成だ。だが明らかに俺達の乗る馬車は間違えてるだろう。どうして騎士団長と副騎士団長、それに初めて会う王の側近魔術師と一緒の馬車に乗らなきゃいけないんだ。
もはや会話に入ることすら出来ないし、気まずさしかない。
「あの、王の側近魔術師の『グウィンさん』でしたっけ? 貴方もプレイヤーなんですか?」
普段なら小うるさいシロも夜ということと、馬車に乗っているということもあって爆睡している。クロは冷静に俺たちの会話を聞き、シロの面倒を見ながら邪魔しない程度に辺りも警戒していた。
「はい。そうですよ。だからこそ、私はプレイヤーという存在が嫌いです。その力の恩恵に預かってこんな地位に居ますが、正直他の3人の側近魔術師には勝てませんね。きっと、プレイヤーという存在は最初から有能故に、限界があるのだと思いますよ」
「たしかに。それはその通りですね。私もアーサー騎士団長には正直勝てません。もちろん、プレイヤーでなければ副騎士団長という地位に居ないかもしれませんが、もはや騎士団長との差が埋まることはないでしょう」
「って事は、普通の人間の方が後々になればプレイヤーよりも強くなるということですよね?」
別に自分より強いとか弱いとかはあんまり気にしないが、なんていうか、そこら辺の人間にいつかは負けるのかと思うと少しだけ悔しい気もする。お互いに血の滲むような努力をしても、プレイヤーというだけで限界が来て負けてしまう。
仕方がないことだとしても、知らない方が良かった事実なのかもしれない。
「いえ、全員が全員私達より強くなる訳ではありませんよ。この世界に存在する人でも才能がある人、ない人が存在します。それこそ、騎士団長は『剣聖の末裔』と呼ばれ、才能があるからこそ強くなり、王の側近魔術師もまた、天性の才能があったから強くなれたんです」
「えへへー、剣聖の末裔だなんてそんな褒めないでよ〜」
「いえ、褒めてはいません。事実を述べているだけです。まぁ、貴方達はあまり強さなど気にしなくて大丈夫だと思いますよ。この騎士団長がなにせ王都の領内において、最強と呼ばれている人なのですから」
「ま、遠距離での戦いなら魔法に長けてる俺たちのが強いですけどね」
「そんなのやってみなくちゃ分からないじゃないですか。そもそも、貴方達は4人で遠距離最強なのでしょう? 1人で私に勝てるようになってから言ってもらいたいですね」
「はっ? お前程度なら余裕で1人で勝てますよ? 舐めないでくださいね? 」
「言いましたね。なら今度模擬戦闘をしてあげます。実力の差を見せてあげますよ」
睨み合ってる2人の間にはまるで稲妻が走ってるかのように思えた。だからこそ俺達は無言で見守っていたが、騎士団長は全くの別で何故かニヤニヤしながら楽しんでいた。
「アーサー騎士団長殿! モンスターが現れました! 」
突然馬車の外から他の騎士団員の荒ぶった声が聞こえ、俺達はその声に即座に反応した。もちろん、シロは何も気にせずに寝ている。
「分かった。モンスターの数は? どれくらいの脅威だ。お前達では対処出来ないか?」
「はい!モンスターの数は1体なのですが…… 」
「────うわぁぁぁ。こいつ、どこから現れやがった!!」
「助けてくれー!!」
「早く騎士団長と魔術師を呼んできてくれ!!!」
騎士団員が喋る前に、喋っていた騎士団員は何かに食べられてしまった。それと同時に、辺りからは耳を塞ぎたくなるような叫び声や、騎士団長達を呼ぶ声が聞こえてきていた。
「馬車を止めよ! 私が出る!!」
騎士団長の怒声に合わせて、激しい音を立てながら馬車は止まった。
俺達は馬車から降り、襲っているモンスターを見て驚愕した。
「─────ヒュドラですか。大方プレイヤー共が幻影魔法で隠していたのでしょう」
騎士団長が剣を引き抜き、ヒュドラへと単身突撃しようとしたその時、騎士団長の前に副騎士団長が立ち、その動きを止めた。
「マキト殿達は下がっていてください。アーサー騎士団長の手を煩わせなくともこの程度なら私でも倒せます。お任せ下さい」
「本気で言っているのですか? 貴方、そんな無謀にも命を危険に晒すのですか?」
「アーサー殿。私が仕方なく手助け致します。その間にどうぞアーサー殿はそこの冒険者と雑談でも交わしていてください」
「分かりました。貴方も戦うなら大丈夫と信じます。任せましたよ」
王の側近魔術師が手伝うと言った時に、副騎士団長の舌打ちをする音が聞こえた気がするが、きっと気の所為だろう。
こうして、突如襲ってきたヒュドラ相手に副騎士団長と王の側近魔術師は戦闘を開始した。




